第7話 大晦日と初日の出

十二月三十一日。

今日は大晦日である。

一年に一度のイベントではあるが、雪乃が無事新年を迎えられたことはもう何年前だろうか。

大体いつも、体調を崩して寝てしまって起きたらあけましておめでとう。

今年こそはと毎年思うのだが、上手くいったことは無い。しかし、今年の雪乃は違う。

なんせ、この御代仕村に引っ越してからは体調がずっと良くなっているのだから。

雪乃のテンションはもう、かなり上がっている。


「ねー、お兄ちゃん。今年の笑ったらお仕置き24時って、テーマなんだっけ?」

「宇宙海賊」

「なにそれ」

「去年がメイド喫茶だったからなぁ、ちょっと今年はインパクトが」

「去年はめっちゃ面白かったもんね」


二人の会話についていけない雪乃は恐る恐る聞いた。


「その、笑ったらお仕置き24時って、なに……?」


キョトンとした二人は顔を合わせ、ニヤリとすると雪乃にあることを吹き込んだ。


「それはね、ゆき姉。大晦日の夕方六時から元旦の夕方六時まで笑っちゃダメなんだよ。もし、笑っちゃったら……」


(ゴクリ……)


「笑っちゃったら……?」

「それはもう……きっつーいお仕置きがあるんだよ!」

「……えっ!?」


ここまでずっとニヤニヤしていた悠誠が信じる雪乃に諭した。


「雪乃、嘘だからそんなに驚くなよ。」

「もう、お兄ちゃんネタバラシ早すぎー」

「お前も楽しみすぎだ。ほら見ろ、雪乃がまだ固まってるぞ」

「ゆ、ゆき姉ー?嘘だよー?嘘だからねー?」

「あ、こりゃダメだな。脳が処理落ちしてやがる。」



「もー!びっくりしちゃったじゃない!」

「だからすまんかったって」

「ごめんなさい……」

「別に怒ってないけど、とてもびっくりしたんだからね!」

「いや、怒って「ません!」……はい。」

「二人ともわたしが世間知らずだからってからかい過ぎはダメです!」

「「はい……以後気をつけます。」」


雪乃を怒らせると怖いことを時すでに遅く、実感した二人であった。


雪乃が落ち着いてからしばらく。雪乃と穂海はお節作りを手伝っていた。


「ゆき姉、実は家庭的?」

「そうかな?お料理は好きだけど……」

「私、ゆき姉に勝てるものが何一つないような気がしてきたんだけど。」

「んー、そんなことないと思うけどなぁ……。わたし運動出来ないし。」

「そういうのじゃなくて、女子力?っていうか」

「生活力?」

「そうとも言う!ゆき姉、スペック高すぎだよぉ」

「穂海ちゃんと、練習すればこれくらいできるようになるよ?わたしなんて、メニュー見ながらじゃないと初めての料理は出来ないし。」



「お兄ちゃーん押入れからお重持ってきてー。」

「あいよー」


押入れから五段になったお重を持ってきた悠誠は、テーブルの上へお重を広げた。

テーブルの上には、既に完成された料理が大皿に乗せられている。


「よし、あとは今作ってるのが冷めたら全部完成っと。」

「じゃあ、今できてるのを入れちゃいましょ。」


「それにしても、このお重五段って多くないのかな?これが普通なのかな?」

「うーん、どうだろ。うちじゃこれが当たり前だけど他の家はどうなのかな。気にしたことは無いけど」

「まぁ、毎年食いきれねぇからな。多分、うちがおかしいだけだと思うぞ?」

「やっぱりそうなんだ。うちって何故か謎が多いんだよね。」

「謎……?」

「うん。ゆき姉はこっちに来てからそんなに経ってないからまだわからないと思うけど、そのうちわかると思うよ。」

「はいはい、話はそこまでにしてさっさとお節完成させようぜ。片付けなきゃ、年越し蕎麦も用意出来ないからな。」


手をパンパンと鳴らして兄らしく指揮を執る。

でも、実はただお腹が空いているだけなのであるが。行動としては間違っていないので誰も気づくことはなかった。


「んじゃ、手早く片付けちゃいましょうか。」


こうして年越しの準備は無事終えたのであった。

夕方になると、笑ったらお仕置き24時を家族全員で蕎麦をすすりながら見ていると悠誠が吹いた表紙に鼻から蕎麦を出していた。


「あ、お兄ちゃん(笑)。何それ一発芸!?(笑)」

「悠誠、行儀が悪いぞ」

「ほら、早く蕎麦出しなさい。」


悠誠が妹だけでなく、父と母にまで怒られてるのを見るとなんだか新鮮で雪乃はクスッと笑ってしまった。

こうして、笑いながら雪乃たちは年を越すことが出来た。


「「「三、二、一、ゼロ!あけましておめでとう!」」」


「はい。これ悠誠と穂海と雪乃ちゃん、あけましておめでとう。私たちからお年玉よ」

「ありがとうお父さん、お母さん、香澄おばさん」

「ありがとうございます。」

「叔父さん、叔母さん、お母さん、ありがとうございます!大切にしますね!」


新年明けまして、雪乃は両親以外から初めてのお年玉を貰った。ただそれだけで嬉しかった。


「よし、とりあえず今日は朝早いから今のうちに寝ておくんだぞ。雪乃ちゃんは初日の出一生に見に行くかい?」


叔父さんが雪乃に素敵な提案をしてくれた。


「初日の出ですか?見て見たいです!」

「そうかそうか、なら早めに寝て、少しでも睡眠を取っておいてくれ。時間になったら穂海に起こしに行かせるから。」

「はい!今のうちに寝ておきますね。」


午前五時、雪乃たちは車に乗りこみ初日の出のみに移動した。

スポットの山頂まで移動するのに車で一時間ほどかかった。

まだ周囲は暗く、用意していた暖かい味噌汁をみんなで啜っていた。

しばらくそうやって待っていると地面と空のあいだに小さな、暖かな光が見え始めた。


「あっ!」

「綺麗……」

「あぁ、いつ見ても綺麗だ。」

「ほんとに、綺麗……」


ただじっと、雪乃は粒のような光が、大きな太陽になるまで見つめていた。



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