第6話 父と母と私のサンタ

十二月二十四日、今日はクリスマス・イブ。

明日の二十五日はクリスマスである。

クリスマスは特別な日ではあるが、雪乃にとってはそれ以上に特別なのである。

明日は、父の宗嗣が久しぶりに帰ってくる。こっちに引っ越してから約二ヶ月、一度も帰ってきたことは無かった。

故に、雪乃は楽しみで仕方がなかった。そんな雪乃を見て、母の香澄は微笑ましく思っていた。


「雪乃、明日が待ちきれないのは分かるけど、ちゃんと勉強もしないといけないのよ?」

「分かってるよ、お母さん。」

「じゃあお母さん、明日の準備と買い物に行ってくるからちゃんと勉強しとくのよ。」

「はーい、お母さんいってらっしゃい。」


こうして、雪乃のクリスマスは始まった。


「お父さん、わたしが高校に行くっていったらどう思うかな?応援してくれるかな?話したいこともいっぱいあるし、早く明日にならないかな。」


「悠誠さんや、ゆき姉が恋する乙女みたいになってますねぇ」

「なんだそのキャラ。まぁ、確かにいつもとは違うな。親父と会うのがそんなに嬉しいか?」

「んー、どーだろ。でも、こっちに来てから一回も会ってないんでしょ?そうなったら寂しいのかな?」

「まぁ、あそこの家族は仲がいいからなぁ。」

「もしかして、ゆき姉ファザコン?」

「それは……、有り得るな。むしろそれだろう。」

「二人とも聞こえてるからね!?」

「でもゆき姉、否定しないんだー」

「だって……、それは……」

「いいよいいよ、大好きなお父さんだもんね」

「穂海、からかうのも程々にしとけよ。雪乃が真っ赤になってるぞ」

「もうっ!二人とも知らない!」


顔を真っ赤に染めた雪乃はそう言って自分の部屋に走っていった。


「あ、待って!ゆき姉」

「待て待て、穂海。今はそっとしといてやれ。家族三人の時間なんだから、俺たちは何もしなくていい。俺たちはそうでなくても、雪乃にしたら、大切な時間なんだからな。」

「うぅ……、分かった。」

「ということで、今から受験勉強な。」

「えー、それはないよー。」

「はいはい、話は後で聞くからとりあえず部屋行くぞ。」

「はぁーい」


これは余談ではあるが、悠誠からのクリスマスプレゼントは大量の課題であった。



クリスマス当日

この日は朝から天気が悪く、吹雪いていた。

ニュースでは大雪警報と周辺地域ごと真っ赤に染まっていた。

この日、宗嗣は昼には到着する予定ではあったが、移動手段が車しかないため、この日の移動は大変困難であった。

安全第一で考えるなら、外に出ずに家に籠るのが正解であろう。

香澄はそうそうに諦め、雪乃と中野家のみんなでのクリスマスパーティに切り替え、準備していた。


「雪乃、お父さんのことはもう諦めなさい。この吹雪じゃとてもじゃないけど帰って来れないわよ。」

「わかってる、わかってるけど……まだ分からないよ……。」

「もし、無理して事故でもあったらその方が嫌でしょ?来年もクリスマスは来るんだから今年は諦めなさい。」

「はい……」

「ほら、ここにいても準備の邪魔になるから部屋でゆっくりしときなさい。」


雪乃はとぼとぼもリビングをあとにした。


その頃、悠誠と穂海は賢志と共に豚舎の様子を見に行っていた。


「親父!こっちの豚舎、隙間風があってこのままじゃ豚たちが凍えちまう!」

「わかった!豚たちの様子見てろ!俺は倉庫から塞ぐもの持ってくるから!」

「わかった!早くしてくれよ!」

「お兄ちゃん、お母さんに言っていらない布とか貰ってくるね。」

「おう、風が強いから気をつけろよ。」


「はぁ……。なんでこんな日に吹雪くんだよ。これじゃ……」


豚舎での作業をひと通り終えた悠誠と穂海は一足先に家に戻っていた。

賢志はしばらく様子を見ると言って豚舎に残って暖房器具の確認作業をしている。


「豚舎も出来れば建て替えてやりたいな。温暖化で夏は暑いし、冬は寒いし。年々酷くなってきてるしな。いくら出荷されるとはいえ豚たちが可哀想だ。」

「そうだね、お兄ちゃん。でもうちにそんなお金はないよ?」

「わかってる。でもまぁ、どうにかする方法か考えてあるからとりあえずは暖かくなるの待ちかな。雪じゃ危なくて買い出しも行けないし。」

「ん?お兄ちゃんが豚舎建てるの?」

「さすがにそこまでは出来ないな。ガタが来始めてる所を張り替えようと思ってな。」

「へぇー、じゃあその時は手伝うね。」

「そうだな、お前が受験落ちたら、手伝って貰うか。さ、勉強だ。こういう日こそ勉強日和!」

「昨日もそれじゃん!クリスマスくらいは勉強いいでしょ!?たまには息抜きは大事だよ!」

「はぁ……、仕方ねぇな。今日だけだぞ。あとちゃんとプレゼント用意してるから楽しみに待っとけよな。」

「おっ!お兄ちゃんにしては珍しい。楽しみにしておくね〜。」

「少しは雪乃を見習って欲しいものだ。」



午後七時、吹雪は止む気配がなく、宗嗣を除く六人でクリスマスパーティーは始まっていた。


「「ハッピークリスマス!」」

「さっ、みんな今日はご馳走用意したから残さず食べてね。雪乃ちゃんも、遠慮しないで食べてね。」

「はい、ありがとうございます。」

「こら、雪乃。いつまでも不貞腐れてないで、今は楽しみなさい。みんなに心配かけるでしょ。」

「いいんですよ、この吹雪じゃ仕方ないですよ。」

「そうですよ、せっかく会えると思ってたのが突然会えなくなってしまったんですもの。」

「辛い時には美味しい物いっぱい食べるといいよ、ゆき姉。デザートにケーキもあるから元気だして、ね?」

「今日しか会えないわけじゃないんだろ?今日会えないなら高校の制服姿が見せて驚かせたらいいんだ。」

「うん、みんなありがとう……。」

「ささっ、冷めないうちに食べちゃいましょ。」


雪乃はまだ少し引きずってはいたが、食事は楽しく過ごすことが出来た。

食後のデザートはホールケーキで、いつもは切り分けてあるものしか見たことがない雪乃はテンションが上がっていた。

さすがに悠誠からのプレゼントにはドン引きしたが……。

宗嗣こそ帰って来れなかったが、それ以外ではとても楽しいひと時を過ごした。


クリスマスパーティが終わる頃、外の吹雪は静かになっていた。


「ゆき姉、今日は一緒にお風呂入ろっ」

「急にどうしたの?穂海ちゃん。」

「ゆき姉が寂しい思いをしないように傍にいてあげるの。」

「ふふ、じゃあお言葉に甘えさせて頂こうかな。」


雪乃たちがお風呂に入ってすぐ、突然の来訪者があった。


「良かった。間に合ったのねあなた。」

「なんとか吹雪が止んでくれたおかげでクリスマスが終わるまでに帰ってこれたよ。雪乃は起きているかい?」

「今、穂海ちゃんとお風呂に入ってるわ。」

「そうか、ならその間に何か食べておきたいな」

「ちゃんと、あなたの分も残してありますよ。」

「ありがとう、いただきます。」

「ねぇ、聞いてよ。雪乃ったらお父さんが来れないって聞いた瞬間すごい落ち込んじゃって。大変だったんだからね?笑」

「それは、済まないことをしてしまったね……。」

「いいのよ、雪乃も仕方がないことだって分かってるから。」


二人が久々に雪乃の話をしていると、「ガチャ」と雪乃がリビングに入ってきた。


「お母さん、お風呂空いた……よ……。」

「久しぶり。雪乃、遅くなってすまなかったね。」

「お父さん!」


こうして、三人だけのクリスマスパーティーは始まった。

日付が変わる僅かな時間だけのクリスマスパーティーが。

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