第5話 おじいちゃんとおばあちゃん
「今日は何をしようかなぁ。急に時間ができると何していいか思いつかないよね〜。」
「何って、受験勉強があるだろ?あと一ヶ月くらいしかないんだぞ?」
「鬼だ」
「鬼だね」
「誰が鬼か!受からなくて困るのはお前たちなんだぞ!」
「鬼が怒ったぞ!逃げろ〜」
「あっ、穂海ちゃん待って」
「はぁ……。まぁ今日くらいはいいか。」
予期せぬ出来事により、穂海だけでなく雪乃も勉強から解放された一日であった。
ただし、残りの二日はまた別の話であった。
「そう言えばさ、ゆき姉。おじいちゃんとおばあちゃんにはもう会ったの?」
「そういえば、おじいちゃんとおばあちゃんにはまだ会ってないかな。」
「んー、まぁ体調も悪かったしそれもそうか。じゃあさ、次の休みに会いに行かない?」
「うん、でもどうやって会えばいいのかな?初めてだし……。」
「大丈夫だよ。私たち孫には優しいから。」
「孫には……?」
「まぁ、私のお母さんとか自分の子供には厳しいから。」
「そ、そうなんだ……大変だね。」
「まぁだから、今度会いに行こうよ。きっと来るの楽しみに待ってるよ。」
休みの日、雪乃は祖父母の家へ訪れていた。
この日は腫れていて、気温もこの一週間の中では一番暖かかった。とは言っても寒い事は寒い。
買ってからまだ着る機会が無かった薄ピンク色のコートを着て、同じ村にある祖父母の家へ向かっていた。
「おじいちゃんとおばあちゃんってどんな人なの?」
「んー、おじいちゃんは顔がめっちゃ怖いかな。でも、家族を大切にしてくれるからいい人だよ?おばあちゃんは優しい人かな。昔ながらの奥さんみたいな。」
「あー、なんか想像出来る。物語とかで出てきそうな。」
「そうそう!そんな感じなの。」
「悠誠君も来れたらよかったのにね。」
「そうだね〜、もうすぐクリスマスだし。」
「ん?クリスマス関係あるの?」
「あー、特におじいちゃんが孫には甘々だからね。何も言わなくても毎年プレゼント用意されてるの。」
「す、凄いね……」
「それくらい孫が可愛くて仕方がないんじゃないかな?だから、ゆき姉が会いに来たら喜ぶと思うよ?」
そんな話をしながら、二人は目的地に着いた。
家は木造平屋で田舎にしてもそこそこ広い。家業は農業で、この村の中でも上から数えた方が早いくらいには土地を持っているらしい。
一応、山も持っているらしいけど今となってはほとんど手をつけていない状況らしい。
「大きいね……、ここに二人で住んでるの?」
「ん?あー、違うよ。伯父さんとその息子家族も一緒に住んでるから六人かな。去年生まれた赤ちゃんがいるんだよ!私たちもうおばさんだよ〜。」
「えっ、赤ちゃんいるの!?見てみたいなぁ」
「タイミングよかったら抱っこさせてくれるんじゃないかな?私も何度かしたことあるし。」
(赤ちゃん、抱っこしてみたいなぁ。ほっぺたとかぷにぷにだろうなぁ)
「こんにちは〜、誰かいますかー?」
インターホンは無く、ドアをノックしながら穂海が声をかけた。
すると、家の中から「はーい」と声が聞こえた。
しばらくすると、玄関が開き、若い女の人が出てきた。
「綾さんお久しぶりです。」
「あら、穂海ちゃんじゃない。お久しぶり。隣の子は……お友達かしら?」
「あっ、違います。こっちは先月引っ越してきた従姉妹のゆき姉です。」
「三好 雪乃です。よろしくお願いします。」
「あら、ごめんなさいね。雪乃ちゃんね、よろしく。ささ、外は寒いから中へいらっしゃい。」
「お邪魔しまーす」
「お、お邪魔します」
「おじい様とおばあ様を呼んでくるから、二人は炬燵で暖まってて。」
雪乃と穂海は言われるがまま炬燵に入り冷えた体を温めていた。
しかも掘り炬燵なので足が楽で雪乃的には嬉しい。
部屋をキョロキョロしてると奥から宗玄と雅美を連れた綾が入ってきた。
「お待たせしました。こちらが宗玄おじい様と雅美おばあ様です。おじい様おばあ様、穂海と宗嗣さんの娘さんの雪乃です。」
綾はお互いを紹介し、「失礼します」と言って奥へと下がって行った。
「わざわざ寒い中、来てくれてありがとうね。穂海、雪乃。」
「宗嗣から話は聞いている。体調に問題はないか?雪乃。」
「はっ、はい!こっちに住み始めてからはかなり良くなりました。」
「そうか……それは良かった。」
「心配してたんですよ。でも顔を見せに来てくれて嬉しいわ。」
会ったこともないのに、こんなにも心配してくれているとは、孫が可愛くて仕方がないのは本当らしい。
「おじいちゃん、おばあちゃん。ゆき姉来年から一緒に高校に通うんだよ!」
「穂海ちゃん、まだ通えると決まったわけじゃ……。」
「おぉ、そうかそうか。来年は雪乃と穂海の制服姿が見れるのか。それは楽しみじゃ。」
「だから今、一緒に勉強頑張ってるんだよ。」
「高校に行くようになれば必要なものも出てくるだろう?入学祝いだから、その時は遠慮なく言いに来なさい。」
「ありがとう、おじいちゃん!」
「ありがとうございます。」
「雪乃、こっちの生活には慣れましたか?」
「はい、おばあ様。まだあまり家から出ることが少ないので知らないことは多いですけど。」
「まぁまぁ、おばあ様なんて。おじいちゃんとおばあちゃんでいいのよ。綾さんは気を使ってるだけだから真似しなくていいのよ。」
「そうだぞ、雪乃。おじい様とおばあ様じゃ、寂しく感じてしまうからの。」
「ほら、ゆき姉。おじいちゃんとおばあちゃんって呼んだあげて。」
なんだろうこれ、とても恥ずかしい。
おじいちゃんとおばあちゃんって思っていても言葉に出すのは恥ずかしく思える。でも、呼ぶまでは穂海ちゃんのニヤニヤも収まらないんだろうなぁ。
「おじいちゃん、おばあちゃん……。」
照れ恥ずかしながらそう呼ぶと二人はとても嬉しそうにしていた。
そして、雪乃のこれまでとこれからの話をしていると日も暮れ、夕食の時間になっていた。
「おじいちゃん、おばあちゃん、私たちそろそろ帰るね。ゆき姉も緊張して疲れてるだろうし。」
「おぉ、もうそんな時間か。それはすまなかったね。」
「外も暗い、綾に家まで送って貰いなさい。雪乃に何かあると大変じゃからの。」
「また、いつでも来なさいね。」
「またね、おじいちゃん!おばあちゃん!」
「また、来ます……。」
「綾、二人を家まで頼んたぞ」
こうして初めて、雪乃はおじいちゃんとおばあちゃんに会ったのであった。
「綾さん、よろしくお願いします。」
「いいのよ、大事か距離じゃないし。それに雪乃ちゃんは体が弱いんでしょ?」
「はい……。」
「それにしてもゆき姉、緊張しすぎだよ〜。」
「だ、だって……今日初めて会ったんだし……。」
「雪乃ちゃんの言いたいことは何となくわかるわ。おじい様なんて強面でしょ?初めてあったのなら緊張しても仕方が無いわ。」
「はい……」
とにかく、今日は色々と疲れた一日であった。でも、おじいちゃんもおばあちゃんもいい人そうでよかった。
今夜は、ぐっすり眠れそうだ。
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