第4話 最初の願い

雪乃が目を覚ましてから一週間ほど経ち、体調もすっかり良くなった頃。


「わたし、運動始めます!」


急な運動宣言が行われた。



「運動って、外にはまだ出ない方がいいぞ?寒いし、雪降ってるし。」

「じゃぁ……家でやります!」

「体調が良くなってテンション高いのはいいけど、家の中で走り回ったりしたらさすがに……。」

「どうしよう……」

「なら、最初はラジオ体操から始めたらどうだ?」

「じゃぁ、みんなでラジオ体操やるのはどう?私も体動かしたいし、ゆき姉もその方が続けれるでしょ?」


毎日、三人でラジオ体操をすることになった。

雪乃はラジオ体操のやり方を覚えていなかったし、何よりみんなで何かをできるということが嬉しかった。


「なんか、こうやって毎日ラジオ体操してると夏休みみたいだな。中学生のだけど」

「中学生って言っても、お兄ちゃんの時と違って今は自由参加だよ?」

「まじかよ……毎朝五時半に起きてたのはなんだったんだ……」

「ラジオ体操ってそんなに朝早いの?」

「あぁ……始まるのは六時半なんだが、中学校に行くのに多少時間かかるから起きるのが五時半とかになるんだ。夏休みだってのに、毎朝毎朝早くてしんどかった。」

「でもゆき姉、御山高校に通うようになったら二時間くらいはかかるから遅くても六時くらいには起きないと間に合わないよ?」

「えっ……」


まだ通えるか分からない高校生活の為に、早起きの練習をするか迷う雪乃であった。



「ラジオ体操もいいけどよ、ちゃんと勉強の方もやってるのか?穂海と違って雪乃は一年分範囲が広いからな。それなりに頑張らないとダメだぞ。転入試験とかやった事ないからどれだけ難しいか分からんし。」

「が、がんばります!」

「穂海が学校に行ってる間は同じ時間勉強だからな。授業の練習だと思って頑張るように。」

「ち、ちなみに、どれくらいの時間?」

「朝九時から昼の三時まで。休憩は昼の一時間。課題も出すからそれが終わったら好きにしてよし。」

「お兄ちゃんスパルタ〜、ゆき姉可哀想〜。」

「あと二ヶ月あるかないかなんだ、試験に落ちてからじゃ後悔しても遅いんだぞ?」

「いいの穂海ちゃん、わたしどうしても高校に通ってみたいの。だから、頑張るね。」

「お兄ちゃんは、ゆき姉泣かしたら許さないんだからねっ」

「わ、わたし泣かないよ!?」

「はぁ……、なんならお前にも課題出してやろうか?たっぷりと」

「げっ、それはやだ。絶対一日課題で潰れる量出すでしょ!?」

「ふっ、当たり前だろ。」


一日が課題で潰れる量とは一体どれだけ出されるのか、きっと机に山のように積まれるのだろうと穂海はすかさず逃げ、雪乃はそれを苦笑いしながら眺めるしか出来なかった。

どうか山のような課題がきませんようにと。


朝のラジオ体操と勉強漬けの生活が始まってから一週間。

この生活に雪乃は慣れつつあった。

とは言っても、体力的にはまだまだで、何時間も勉強をし続けられるようなことは無い。三十分やっては数分休みを取って、三十分やっては……の繰り返しではある。

それでも着実に、一週間前よりも体力がついてきてる事が実感出来る。

これならば四月から高校に通うこともできるようになるだろう。

こっちに引っ越してきてからの雪乃は、確実に体調も良くなってきており、体調を崩したり寝込んだりと言うことも減ってきている。

勿論、無理をすると以前と同じように何も出来なくなってしまうので、雪乃自身も無理はしないようにしている。

ちなみに、悠誠はそこら辺も考慮して課題を与えていたりする。


「どうだ、雪乃。勉強は理解出来てるか?」


悠誠はいつも通り、夕食後のこの時間に雪乃の部屋に来ていた。


「うん、なんとか解けてるかな。でも、この作者の気持ちを答えろって問題は何回やっても理解できないかも。だって、わからなく無い?会ったこともないのに……。」

「その問題を真面目に考えすぎてはダメだよ。作者がこの時どういう風に話を進めたかった。とか、メタ的なことを求められてるんだから。本当に作者の気持ちを考える必要はないよ。だって、問題を作った人ですら分かりっこないんだら。笑」

「うーん、難しいなぁ……」

「まぁ、分からない問題は何回もとかないと。何回も解いて慣れてくれば今よりも早く解けるようになる。」

「が、がんばります……」


うん、先はとても長そうです。でも、ちゃんと勉強したことがないから頑張らなきゃだね。

だって、学校なんて小学校以来なんだもん。


「よし、がんばろ。」

「そうだな。人は頑張ればきっといつかは報われる。だから今は、頑張れ。」


そう言って悠誠は静かに部屋をあとにした。まぁぶっちゃけ、あまり長居すると穂うがうるさいという理由もあるのだが……。それでも、雪乃を絶対に高校に通わせると兄貴分として心に誓うのであった。


そう、努力は報われないといけねぇ。でなきゃ、雪乃が可哀想だ。

雪乃と穂海には好きな人生を選ばせてやりたい。


悠誠はちょっとシスコンなのかもしれない。


この日の晩、雪乃は夢を見た。とても温かく、とっても居心地の良い夢だった。


朝起きると、私の手を握った穂海が目の前にいた。


(あ、この温かさだったんだ。)


「おはよ、ゆき姉。遅刻だよ?笑」

「ん……おはよ、穂海ちゃん。今何時?」

「今ねー、九時くらいかな。」

「あれ?学校は?今日は金曜日でしょ?」

「今日は学校お休みなの。朝早くから吹雪いてきちゃって、学校行くの危ないしお兄ちゃんも私もお休みになったの。」

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