第3話 デート?当日
今日は雪乃にとって数年ぶりの買い物で、とても楽しみにしていた。
これをデートと呼んでいいものかと言われると違うのだろうが、穂海曰くこれはデートであるらしい。急に手を繋いできたのは驚いたけど、穂海ちゃんの手は暖かくて気持ちがいい。
身体冷やすといけないから、手を繋ぐのは仕方がないよね?
今日はゆき姉とデートの日!楽しみすぎてほぼ徹夜だけど、まぁなんとかなるよね!
前日の夜から衣装選びに時間を使いすぎちゃったけど、デートプランはちゃんと作れたから準備万端!
「そうだった。お兄ちゃんも来るんだった……」
「おい、あからさまにガッカリするな。こっちは付き添いで行くだけだっての。後ろから見てるから二人で買い物してればいいだろ?」
ヤレヤレと、悠誠は少し後ろからついてくる形になった。
まるで私とゆき姉の護衛みたい。そうだ!ゆき姉、この街初めてなんだし迷子になったら大変だよね?
えいっと、思い切って手を握ったらそっと握り返してくれた。また一歩、仲良くなれた気がした。
何故、このイチャイチャ空間を見せつけられなければならないのか悠誠には分からなかった。
付き添うのは別にいいんだけど、すっかり楽しそうに二人の世界を作ってやがる。
(これは少し距離をあけて正解だったかな?)
今の悠誠にはとても耐えれる気がしなかった。
「二人が楽しそうだし、まぁいいか。」
こうして、三人(?)の買い物デートが始まった。
「ゆき姉!今日はスケジュール決めてきたから私に任せて!まずはね〜」
「走ったらしんどいから、ゆっくり行こ?ね?」
今にも手を繋いだまま走り出しそうだった穂海を慌ててなだめた。
「まずはね、服屋さん!ゆき姉、外出る用の上着今着てるやつしかないでしょ?可愛いの買おうよ。」
今着てるのが、暖かさ重視のダウンジャケット。色も黒と地味だが、オシャレをあまり気にしてこなかった雪乃的には別にどちらでもよかった。
ただ単に、自分で買い物をするのが楽しくて仕方がなかった。
「こっちの白色はどうかな?」
「うーん、白もいいけどこっちの薄いピンクもいいと思うんだ〜。まぁでも、やっぱりもっと大きな店行かないと種類少ないねぇ。」
「そうなんだ。でもあんまり外に出ることないし、わたしは気にしないけど……。」
「ん?雪乃は高校行かないのか?てっきり御山高に春から行くのかと思ってた。」
店に入ってからずっと二人の買い物を気長に待っていた悠誠が話しかけた。
「でも春からだと転入になるのかな?ゆき姉、私の一つ上だし。」
「御山高だと単位制じゃないから面接と学力試験さえ通れば大丈夫だと思うけど、雪乃はどうするんだ?」
「あっ……、わたし今まで通り通信制でもいいかなって。体力もないし……。」
全日制の学校に通うという選択肢すら無かった雪乃はどうしたらいいのか分からなかった
「えー、ゆき姉も一緒に御山高校行こうよ!絶対楽しいよ、学校!」
「一緒に行ったとして、お前と雪乃じゃ学年がちげーだろ。」
「それでもいーの!ね?ゆき姉一緒に御山高校通おうよ。」
もし転入するなら、今から学力試験の勉強をしなくてはいけないし、何より体力面が不安不安だった。
こっちへ住むようになってから体調が良くなり始めて動けるようになったため、多少歩いたりすることは問題ないのだが、やはり運動となると厳しいものがあった。
「わたし、行ってみたい……高校」
「やったーー!」
純粋に喜ぶ穂海に対して、悠誠は真面目な顔をした。
「仮に勉強はどうにかなったとして、もし高校に通えるようになった時、大変だぞ?」
「うん……。それでも、高校に行ってみたいの。」
雪乃の覚悟というか熱意を感じ取った悠誠はこの願いを叶えてやりたいと、力になることを決めた。
「そうか。なら、俺が勉強を教えてやる。こう見えても成績は良いし、進学はしないから時間はある。あと穂海、お前もだ。後期で受からないと高校すら行けなくなるんだからな。」
「えー、勉強やだよ。御山高校ならきっと大丈夫だよ!」
「馬鹿なこと言うな、元々勉強が苦手なのにここで努力しないでどうする。」
「穂海ちゃんも、一緒に勉強頑張ろうね!」
「ゆき姉の純粋な目が眩しいっ」
手で目を覆って眩しいアピールしている穂海を見ながら頑張ろうと決心する雪乃だった。
「ほ、ほら!今は勉強のことは置いといて買い物だよ!お兄ちゃんは白と薄いピンク、どっちがいいと思う?」
「ピンクじゃないか?」そっちの方が似合ってる。とまでは口にしなかった。
「ゆき姉はどう?」
「ピンクでいいかな?悠誠くん選んでくれたし。」
「ちょっ、どっちがいいか答えただけで選んではないぞ。誤解する言い方は辞めてくれ。」
その後、雑貨屋で勉強道具などを買ったあと、三人は昼食の為に入った食堂で今後について話し合っていた。
「この後はどうするんだ?帰りのことを考えるとあまり時間はないぞ?」
悠誠の言う通り、迎えに来る時間は決まっている。
今が昼の一時前なので大体あと二時間くらいである。
「んー、どうしよっか。と言ってもここには大したものないけどね。ゆき姉は行きたいところとかある?」
「本屋さんに行ってみたい。そろそろ新しい本が欲しいと思ってたの。」
「本屋か〜、ここにあったっけ?」
「本屋ならあるぞ、大した広さじゃないけどな。」
お昼ご飯を済ませ、三人は本屋に移動した。
本屋と言っても見た目は完全に民家で、一階を少し改築しただけの造りとなっていた。しかし、シャッターは閉まっており本屋の広さなんてもはや関係なかった。
「うーん……まさか閉まってるとは。」
閉まっているシャッターには一枚の張り紙があった。
<店主が入院のため、しばらく店を閉めます。>
そして最後に、店主の娘より。と書いてあった。
「ここの店主、おばあちゃんだったからなぁ……大丈夫かな」
悠誠は何度か来たことがあるのだろうか、それなりに詳しいらしい。
店の前でどうするか話し合ってると通りすがりのお婆さんに声をかけられた。
「本屋の多恵子さんなら、この前娘さんに連れられて中央病院まで行ってたよ。」
「今日はもう諦めるか……、父さんに今から迎えに来てくれるか聞いてくるわ」
賢志が来るまで迎えに来るまで二十分程だったが、途中吹雪き始め、家に着く頃には雪乃は熱を出し寝込んでいた。
目が覚めたのは、それから二日後の夜だった。
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