第8話 雪遊び

一月上旬、雪乃は雪の山を作ってる悠誠を不思議そうに眺めていた。

高さが雪乃の肩の辺りまである。

大体、一.三メートルくらいだろうか。雪を積んでは叩いて固めている。

雪かきをしている訳でもない行動に、雪乃は不思議に思ってじっと見ていた。


「なぁ、背後からじっと見られてるとすごいやりづらいんだけど。」

「そ、そんなつもりはなかったんだけど……、ただ何してるのかなー?って」

「ん?あぁ、東京は雪積もらないんだっけか。これはかまくら作ってんだよ。」

「かまくら?」

「そう、かまくら。こうやって雪を山みたいにして中をくり抜くんだ。まぁ、体験した方が早いだろうし完成したら呼ぶから家で待ってな。」

「少しくらい待てるよ?」

「ずっと外にいると体冷えるだろ。あと穂海にかまくら作ってるって言ってくれ。そしたら分かるから」

「分かった、家で待ってるね。」


「穂海ちゃーん、悠誠くんが今かまくら作ってるって。」

「わかったー!ゆき姉、準備するから手伝って。」

「何するの?」

「かまくらの中でお餅焼いて食べるの。あ、そこの戸棚からお皿とお箸取って。」

「うん、これでいい?」

「うん。あとは、お醤油と海苔〜っと。あとは、お兄ちゃんが作り終わるのを待つだけだね。」


「おーい、準備出来たぞー。」

「さっ、行こ!」

「うん!」


かまくらの場所に行くと、中がくり抜かれていた。

外にある倉庫から七輪を持ってきた悠誠はかまくらの外で火を起こし始めた。


「ゆき姉、もう少し時間かかりそうだし雪だるまでも作ろうよ。」

「雪だるま!作ろう!」

「もうちょっと向こうに行こう、この当たりかまくらに雪使ってるから足りなくなるかも。」

「どれくらい大きいの作るの?」

「んーとりあえず、ゆき姉くらいのやつ」

「おっきいね……頭持ち上がるかな?」

「そこはほら、うちにはでかいのがいるから大丈夫っ!」

「いつもなんだかんだ言って手伝ってくれるもんね。」

「聞こえてるからなー?」

「後で手伝ってねー、頼りになるおにいーちゃん(笑)。」

「悠誠くん、後で手伝ってね」

「おうよ。こっちはぼちぼち準備できるからな。」


手に乗るサイズの雪玉から膝の辺りまでになる頃にはお餅を焼く準備は整っていた。


かまくらに戻ると、七輪には既に火が起こっており、パチパチと音を鳴らしていた。


「早く中に入ろうぜ、中の方が暖かいしな。」

「ゆき姉、一番にどうぞ。」

「じゃぁ、お邪魔します。」

「頭当てないように気をつけろよ。そんなに高さないから。」

「うわぁ、ほんとに中暖かいね。」

「でしょー?」

「お前が威張るな。」

「いった、お兄ちゃんのパワハラだー!」

「はいはい、パワハラパワハラ。さっさと餅焼いちまおうぜ。本当は、かまくらで鍋とか出来るようにしたいんだけど、さすがに一人では作れないからな。」

「なんか、家みたいだね。それ」

「まぁ。家というよりテントかな。」

「なるほど。」

「はい、ゆき姉。お餅いい感じだよ。」

「ありがとう」

「おい、俺の分は?」

「パワハラお兄ちゃんにはないですよーだ。」

「もういいですー。自分で焼きますー。」

「ふふ、二人ってほんとに仲良いよね。」

「ん?ほうか?」


口に餅を入れてもぐもぐしながら悠誠がハテナを浮かべてた。


「普通なんじゃねーか?別に仲悪い訳でもないけど。」


(うん。この兄妹絶対仲良いよね。二人して口にお餅入れてもぐもぐしてるし、食べ方似てるし。ほんとに仲がいいんだろうなぁ。それにわたしにも優しくしてくれるし、私には勿体無いくらいの従兄妹だよ。)


誰かとこうやって一緒にいる時間が楽しいと思えるなんて、三ヶ月前なら考えもしなかった。一緒にいると暖かくて、ポカポカして……


「ゆき姉、大丈夫?」

「ん、うん?」

「ゆき姉うとうとし始めたと思ったらそのまま寝ちゃったから。」

「とりあえず部屋に運んできた。軽く熱もあるぞ、今日はもうゆっくり休め。」

「はい、じゃぁお兄ちゃんは出てって。このままだとゆき姉着替えさせられないでしょ。」

「わかったわかった、押すなって。」

「なんか、ごめんね?」

「元々体が弱いんだ、気にすることは無い。

あまり根詰めるなよ?」

「……はい。」

「そのやる気が少しでも穂海にあるとなぁ……」


ボヤきながら悠誠が出ていくのを見届けると。雪乃は穂海に手伝って貰いながらパジャマに着替えた。


「暫くはゆっくり寝ててね?後でご飯と体拭くもの持ってくるから。」

「うん、わかった。ありがとうね」

「おやすみなさい」


この日、雪乃は久々に辛い夢を見た。

どんな夢とは言えないくらいにぼやけてる。

こう、寒い中でゆっくり息が出来なくなっていくような。そんな感じがした。

目が覚めると冷や汗だろうか、汗だくでパジャマが気持ち悪かった。用意してくれた乾いたタオルで軽く体を拭き、眠れる気はしなかったけどベットに横になった。


(そう言えば、雪だるま最後まで作れなかった。

なんか、今日はついてないな……。

少し、はしゃぎすぎちゃったかな。)


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