4:時を刻めば好きがわかる?②



 風音が自室のドアを開けると、すぐにサツキが飛び出してきた。そして、一直線に目の前にいた風音の胸へ飛び込んでくる。


「サツキ、ただいま」

「ユウ、おかえり! 今ね、タイプスターでリーグマッチ2桁行ったの!」

「え……サツキ」

「……カ、カイト!? ……え? え、なんで、え?」


 それはいつもの光景なのだが、後ろで見ていたカイトはその大胆なサツキの行動に顔を赤くする。こんなサツキを、彼は知らない。……まあ、部屋の主である風音に鍛えられたから知る由もないか。


 いつもの2人だけだと思ったサツキは、カイトの姿に驚き過ぎて風音の後ろに隠れてしまった。手に持っていたスマホが、カシャンと音を立てて床に落ちる。


「サツキ、ちょっと話しよう」

「……!?」


 風音は、不安がっている彼女と向き合って、いつも通りマスク越しに額へ口付けし落ち着かせようとした。

 が、その様子すらカイトにとっては刺激的すぎるらしく、さらに顔を赤くする。何度も言うが、彼らにはこれが「日常」なのだ。風音一族は恐ろしい。


「あー、先生のスキンシップがちょっと過激だから」

「え、そうなの?」

「……?」

「はい、自覚なしいただきましたー」


 その様子を見たユキが、さすがに同情したのか補足を入れる。

 すると、なぜか当事者の2人はキョトンとした表情をした。茶化されているのだが、意味がわからないらしい。「?」を浮かばせながら顔を見合わせている。


「風音一族だから、許してね」


 と、ユキが2人に変わって謝罪をした。

 すると、いまだに赤面しているカイトが、やっと部屋の中に入ってきてサツキの腕を取る。


「……カイト」

「久しぶり、先週は逃げてごめん。サツキのこと気づいてたんだけど」

「連れ戻しにきたの?」

「……」


 サツキの一言に、カイトは動きを止めた。

 彼女にとって、カイトの存在は「組織の人間」になっているのだ。それに気づいた彼は、ツキンと胸を痛ませる。


 そんな彼の背中をバシッと叩くユキ。容赦ないので、カイトはそのまま前のめりになってサツキの方へと倒れ込んでしまう。

 それを、風音がキャッチしようとしたところ、ユキが邪魔をするものだから、


「……あ」

「ご、ごめん!」


 と、サツキがカイトを抱える形に収まった。双方顔を赤くし、見ているこっちまで恥ずかしくなりそうなほどだ。


「ってことで、先生と俺は退出するので2人で色々お話してくださいー。明日まではジャミング効いているので大丈夫ですー」


 と、まるで説明書を読み上げるように無表情で伝えるユキ。


「……ユウ」

「少し話をして。これからどうするのかも。オレは、サツキから離れないから大丈夫」


 すでにサツキは、風音がいないと不安な身体になっている。メインで精神を操っているので、その反応は致し方ないもの。

 その震えた声を感じ取った風音は、落ち着かせるようにゆっくりと頷くだけにとどめた。そして、カイトに見えない角度でガスマスクを取り、今度はちゃんとサツキの額にキスをする。


「……わかった」


 と、その行為に安心したのか、彼の頬にキスを返すとスマホを床から拾ってからカイトの手を取った。

 カイトからしたら過度なスキンシップが効いているのか、やはり顔は赤く、目の前にいるの顔を直視できないらしく下を向く。

 それを知ってか知らずか、当事者はガスマスクをつけながら、


「天野、行こう」


 と、通常運転でユキを促す。


「はあい。先生、俺にもさっきのやってよ、破壊力過ごそう」

「はいはい、そのうちな」


 と、まあやる気はない。


 いつもの会話に安堵したサツキは、


「カイト、きてくれてありがとう」


 嬉しそうに笑顔を彼に向けた。

 それを見た2人は、部屋のドアを静かに閉める。



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