2013年【守田】45 生かされ、殺されるような夢。

   12


「あ? なんだ、ここ?」


 どうやら、目覚めた場所は天国でも地獄でもないようだ。

 もっとも、守田を背負っている勇次と一緒に、あの世へ来たというのなら話は別だが。


「ようやく起きたのかよ」


「ん? そんなに俺は寝てたのか?」


「正確な時間はわかんねぇけど、お前を背負って歩いてるうちに、せっかく飲んだ酒が汗として流れちまったからよ」


「酒? いったい、いつ飲んだんだ、そんなの?」


「山の中でお姫様の用心棒とか名乗るあずきの知り合いと出会ったんだよ。そいつが、小瓶のウィスキーを飲んでたから、いっぱいもらってよ」


「意味わかんねぇことが起きてるな。なんだ、これは夢なのか?」


「現実だけど、夢は当然あるぜ。あずきの知り合いの用心棒の言葉を借りれば、生かされ、殺されるような夢だな」


 酒が汗として流れたといっているが、勇次は上機嫌だった。

 どこかで酒をひっかけたのは本当なのかもしれない。


「つまり、勇次の話をまとめるとだ。あずきちゃんは、遠からずお姫様の知り合いもいるってことになるんだな――意味わかんなくね? 普通に考えておかしいだろ」


「おかしいことばかりだろ。今日、目に見えたものは、想像を越えてるもんばっかだった」


「それもそうだな」


 一度寝ても、守田の瞳の異常さに変化はなかった。

 外灯のない峠道にも関わらず、勇次の汗が鮮明に見えるほどだ。


「てか、わざわざ歩いてるのか? 車はどうしたよ?」


「運転できねぇからな。捨ててきた」


「マジかよ。それなのに、お前は疾風さんのMR2を譲ってもらうつもりだったのか」


「うるせぇな。いらなくなったら、くれるっていうから、もらうって話してただけだろ。だいたい、誰かがMR2を守らなきゃ、姉貴の命令で廃車にさせられてもおかしくねぇだろうが」


「そっか。考えてもみれば、お前に譲ってりゃあ、シップーさんも好きなときにMR2を乗り回せるもんな」


「そういうことだ。弟分としての責務みたいなもんだろ」


「そういう理由ならMR2のことは、完全に諦めてやるよ。それに俺はMR2よりも、最高な乗り物を見つたからな」


「ん? バイクとかで目ぼしいのがあったのか?」


「ははは。なに言ってんだよ。いままさに、試乗してるだろ」


 守田の言わんとしていることがわかったのか、勇次は舌打ちをする。


「たっく、歩けねぇのに口だけは達者だな」


「客商売で培ってきたからな」


「減らず口を叩く余裕があるんなら、もうちょっとしっかりしがみつけよ。重くて仕方ねぇだろうが」


「へいへい。注文の多い乗り物だな」


 腕に力をこめようとして、守田は悲しくなった。

 自分の腕は、ちゃんと体から伸びている。だが、感覚がない。

 これは、千切れて無くなっていることよりも残酷かもしれない。

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