2013年【守田】46 「俺は、残酷な現実を勇次につきつけてしまったのかな?」
「大丈夫か、守田?」
「あ? なんだよ、いったい? どうした?」
狼狽しているのは伝わらないでくれ。
弱いところを勇次には悟られたくなかった。
「なんかさっきからおかしいじゃねぇか。普通じゃないだろ、あんな夜目がきくのなんて。オレと合流する前に、なにかあったんじゃねぇのか?」
「別に、なんもねぇよ」
「嘘つけ。よくよく思い出してみろよ。変なもん食ったとか、葉っぱやったとか。ねぇのか、本当に?」
エビチリと見せかけて、カブトムシの幼虫を使っているかもしれない料理を食べた。
吐き気をもよおす変な葉っぱも吸った。
他にもなんかあったような。
「黙り込むってことは、心当たりあるってことだな、馬鹿やろうが」
「ちげぇよ。そうじゃなくてだな」
「そうじゃなくて?」
変に心配をかけたくなくて嘘をつくことにした。
これもまた、客商売で培ったスキルだ。
「実はよ、いまの間に見てた夢のことを思い出して、ちょっとセンチになってたんだよ」
「最低だな。おまえ、人が質問してるのに、無視してなに考えてんだよ」
「覚えてるか。高一のときに、部活を作ろうとしたこと?」
会話が噛み合わずにいると、勇次が観念してため息をついた。
こちらの話に合わせてくれるようだ。
「家の手伝いをしたくなかった守田が、オレや監督を巻き込んで『UMAを捕まえる部活、セイブツ部を作ろう』ってことで動き出したな」
二〇一一年の五月十一日に、セイブツ部は岩田屋高校で正式な部活動として認められた。
監督と呼んでいる空野有は、UMAが大好きな小学生の男の子だ。
当時からいまも槻本病院に入院している。
勇次が話したように、守田が喫茶店の手伝いを断るために、セイブツ部を立ち上げたのも理由の一つだ。
そもそも、部活を作ろうと思いついたのも、疾風からの入れ知恵だった。
あの時は、なんとも思わなかったが、疾風は深夜アニメで妙な部活動モノが多いのを遠回しにぼやきたかっただけなのかもしれない。
疾風はロボットアニメと特撮が好きな人だった。
「しかし、まったく部員なんて集まらなかったよな。わざわざ澄乃ちゃんが作ってくれたビラをばらまいたのに、無駄に終わってよ」
勇次のいうとおりで、部員は増えなかった。
世間は、UMAが捕まえるのは実現不可能だと決めつけている。
少なくとも、賛同してくれない。
「俺は、残酷な現実を勇次につきつけてしまったのかな?」
「なんでそうなるんだよ。オレからしたら、ライバルが少ないってわかってラッキーって感じたぞ――それに、ほら。井手先輩を覚えてるか? 中学のときの野球部の」
忘れるものか。
勇次が初めて学校内で騒動を起こした中学一年の冬の事件に、深く関わった人物だ。
「いざUMAとやり合うってときに、人間に足を引っ張られたら洒落にならんからな」
井手先輩は、野球部のクソみたいな連中に足を引っ張られて、夢を潰された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます