ミイラ取りがミイラになった訳 ②


 赤紫色の空の下、男は廃墟となった街並みに、時折昔の姿を見かけた。


 かつては、子ども達が歓声を上げながら走り回っていただろう公園。

 その公園に蔓延はびこの植物。

 斜めに傾ぐブランコ。

 色あせた複合遊具に絡まる有刺鉄線に似た灰色の蔦。そこには男が今まで見たこともない毒々しい色の実が生っている。

 それを貪り食べる


 しばらく歩みを進めると、斜めに傾ぐ看板のある建物が並ぶ。


 商店街だろうか?


 男は立ち止まり、そこにあるものを眺める。

 看板は錆に浸食され穴が空き、茶色く歪んでいるため文字を読み取るのがやっとだ。


 長田写真館


 家族写真のようだ。展示されているガラスの中にも、植物は根を張り灰色の世界を作り出している。

 写真はみな、色が飛んでしまい人の輪郭が僅かに判るくらいだった。


 いずれかの時点まで、この『世界』にも人の生活はあったのだ。

 何故、終わりが訪れたのだろう。

 耳が痛くなる程の音のない世界。

 男は自らの足音さえも、吸い込まれていくようだと思う。


 ……どれだけ歩いただろう。

 人の姿は見当たらなかった。


 男は、探し人がこの『世界』には居ないことを認めるしかなかった。

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