第3章

ミイラ取りがミイラになった訳 ①


 男は空を見上げる。


 紫色に赤い絵具を滴らしたような空。

 夕暮れではない。


 この赤紫色をした毒々しいその空は、嵐の後に見られる、大気によって気紛れに起こされた光の現象ではなかった。

 この『世界』では、なのである。


 男はジャケットの内側のポケットから一枚の写真を取り出すと、僅かなしわを丁寧に掌で伸ばす。


「……何処にいるんだ? 逢いたいよ」


 愛おしそうに、写真に指を這わす。

 この『世界』にも痕跡を見つけることは出来なかった。


 だがしかし、探し漏れていたら?


 男はもう何日も、まともに寝ていなかった。上手く働かない頭で考える。


 見つけたら……。

 見つけることが出来たら、

 

 悪い考えを振り払うように、ひとつ頭を振るとまた歩き出した。


 男の足先を、ねずみによく似たが走り去る。

 赤紫色の空の下。

 廃墟となった建物、灰色の植物。


 ここは男の知るどんな『世界』とも似ていないところだった。

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