熊谷ユキの場合 ②
水溜り。
雨が上がり、地面のあちこちに突然現れるそれが、ユキのいちばん恐ろしいものだった。
幼い子ども達が無邪気に水溜りの中に飛び入り、笑顔で水しぶきを上げながら叫声を上げる様子は、ユキにとってはホラーでしかない。
アスファルトの上の周囲よりひとつ暗い色をした水溜り、公園にある泥の混じった黄土色の水溜り、砂利道にある灰色をした水溜りも、そこに穴や窪みがあるから水溜りがあるのだということを皆は忘れているのだとしか思えないのだ。
さらにはその穴は単なる窪みで、それらはたいして深くないと皆一様に妄信していること。
ユキは雨の日が嫌いなのではない。
むしろ見えない穴を教えてくれることに感謝の気持ちすら湧く。
だか、雨の降った後、その水溜りの多さに恐ろしくなるのだ。
水溜りすべてがそうではないと分かっている。
分かってはいても、ユキにはそれらがすべて『入り口』に見えてしまうのだ。
ユキが逃げてきた世界からの『入り口』に。
ユキが逃げて来た、もう二度と帰るつもりのない世界。
ここには居ない『あの人』が存在する今いるこの世界とよく似た別の場所。
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