541 第30話:最終話40 STILL my heart is BLAZING!!!③
所謂コイン落とし状態となって、倒れることは回避したものの蹲るイローウエルを邪神は見下ろす。
非常に屈辱的かつ危険な状況だが、ようやく背骨が再生しただけの状況ではどうにもならなかった。全くと言って良いほどに身動きが取れない。
「立てんかね?」
そんな当たり前のことを聞いてくる。邪神だけあって他者の神経を逆立てるのが上手いらしい。何か言い返したいが、今喋ると言葉ではなく別のものが口から溢れそうであった。
せめてイローウエルは顔を上げて邪神を睨む。
「その傷が完治するのに、あとどのくらいかかる? 30秒か? 1分か? どちらにせよ、手持ち無沙汰だな。よし、ここは儂が1つ小噺などして進ぜよう」
断固拒否したいが、やはりどうにも声を出せる状況にない。
「ふむ、では同意をいただいたということでよろしいな? まァ、小噺を1つ、と言うても内容は儂の想像、所謂考察の
邪神は得意げに腕を組み、右手人差し指をピンと立てる。
そして、ずいっと顔面を近づけてきた。
光彩の関係からか憤怒のような表情が増々深まった気がする。次いで言った。
「貴様らの種族は、もう終わりなのだろう?」
予想外の言葉に、イローウエルの両眼が見開かれる。これが返答のようなものであった。
「完全に半島へ閉じ込められて、既に200年。貴様ら種族の肉体寿命は短い。精々数十年だ。他者の肉体と取り換え取り換え、今まで生き延びてきたのだろう? 半島の外、こちら側であれば……、貴様らで言う『素材』はいくらでも手に入るであろうが、
ここで一度言葉を切り、邪神は顔を元の位置へと戻す。相変わらず両の腕は組んだままだ。攻撃をしかけてこようとする意思が一切感じられない。それなのに、イローウエルの心臓が勝手に早鐘を打つ。
「一部の人間種たちを支配していた時代から、貯めに貯めたストックもそろそろ尽きる頃合なのだろう? 更に、圧縮空間に保存してあるそれらの使用期限もギリギリの筈だ。初期の圧縮空間は、通常空間とあまり大差が無い。ウォークインクローゼットにまで使用していたくらいだからな。安全装置も無く、短時間なら中に入り込んでもほぼ問題が無いくらいであるし、時間経過の遅れもわずか。従って、保存機能などの効果も低い。当然に工夫も凝らしたであろうが、それでも限度はあるものだ」
邪神は、未だ蹲ったまま動くことのできないイローウエルを見下ろしながら、淡々と自身の推論への根拠を1つ1つ開示しつつも、ゆるゆるとその周りを歩いて回り始める。
「もう『封印の地』の貴様らは、腐った部位に腐りかけのものを繋ぎ直している状況なのだろう? まともに動くことのできる者ですら、減ってきている状況ではないかな? まるでゾンビのようではないか。実に哀れなものだな」
イローウエルは歯を喰いしばる。気持ち良さげに持論を語り散らす邪神の口を実力行使にて塞ぎたいが、未だできることが何1つ無い。
「子孫を残すことも、今更できん。貴様らの肉体は、貴様らのものであっても、元々は他者の
(なぜ、そこまで知っている!?)
例えば、長き歴史を伝え持つエルフ族などは、イローウエル達種族の特性を既に仔細に渡って記録している。だが、出自までは知らぬ事柄であった筈なのだ。
邪神は続ける。
「つまり、今まさに貴様ら種族は、滅びという急な下り坂を転げ落ちている真っ最中という訳だな。最早解決策など1つもなく、転げ落ちる速度を緩くさせることくらいが関の山ということだろう。他人事で悪いが、うむ、大変だな。1万年近くぶりに核の力を手に入れては見たものの、アレは1つで地形まで変えるほどの力を持つ兵器じゃあない。大量破壊兵器と名がついちゃあいるが、
邪神はイローウエルに背を向けてホールの天井を仰ぎ見た。
「これでは数百という数を撃ち込もうとも、封印の地『黒き大地の穴』に風穴を開けることは無理であろうな。そんなことをすればこの星の環境はまたも激変し、今度こそ人間種は滅亡するかも知れん。そうなれば、遅かれ早かれ貴様らも同じだ。所詮は貴様らも人間種たちの
真実であるほど耳に痛い。
邪神が意気揚々と話す説はイローウエル達が知恵を絞り、長い時間をかけてシミュレートした仮説と全く同じものであった。
「絶望だな。万策尽きた。貴様らはあと20年か30年で滅ぶ。どんなに長くあってもあと50年は無理だろうな。かつての旧世界を経済や政治によって実効支配し、新たなる世界であっても何度か人間種の完全なる上位に君臨した貴様らは、もうすぐ誰にも知られず封印の地にてひっそりと滅亡していく。何故だ? 何故、我々がそんな無様な終焉を迎えねばならない!? 我々は選ばれし民ではないのか!? 貴様らはそう思ったのではないかね?」
邪神は、再びイローウエルの正面に立つ。
「まァ、儂からしてみればその証明であるような事態なのだが、貴様らはそうは思わぬのだろう? これは何かの間違いだ、と。それを実証させるがため、再び手に入れた核の力で世界ごと滅亡せんとしておるのだろう? そうなれば、貴様らの滅びは世界の滅びと同義になる。星の小さな一部たる歴史に消えゆく種ではなく、最後の種族になる。実に愚かだ」
「だ、黙れぇ……」
イローウエルは何とか声を絞り出した。声以外のものも絞り出す結果となったが。
内臓が一部再生されたからこそできる芸当だった。筋肉もごく一部は戻ってきていた。
「最後にカミサマが出てきて自分たちを救ってくれるなんて、本当はチョット期待してるくらいなんだろう? 一縷の希望に縋っているだけの弱虫だ。それしかできんのだから」
「黙れぇえええええええええええええええ!」
イローウエルは再生も全てが完了しないままに立ち上がると、左手の『波動集幻光』の剣を振るう。
一度、二度。だが、邪神は余裕を持って躱す。
ここでイローウエルは、邪神が一度『波動光』の光を受けて眩しがっていたのを思い出し、顔面に浴びせかけた。
先程と全く同じように、『波動光』の破壊の粒子は邪神の装甲の上を滑り散っていくが、動きは止まった。
(ここだ!)
イローウエルは『波動集幻光』の剣を邪神の右肩に振り下ろした。
イローウエルの左手には、全く手応えが無かった。
『波動集幻光』の光の剣は、上手く切断できれば本来全く手応えが寄越さない。だが、『波動光』が全く効かない邪神に対し、通常通りの手応えの無さは逆にイローウエルの不安を呼んだ。
眼を凝らしたイローウエルが見たのは、『波動集幻光』の光の剣さえも、邪神の装甲に接触した箇所からまるで侵食されるかのように、粒子が分解されて結束が維持できない状態となっていた。
次の瞬間、視界が強烈に揺れた。
ゴシャリという音を感知すると同時に、下顎の感覚が完全に消える。
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