534 第30話:最終話33 My Heart Is Blazing④




「『波動集幻光』」


 イローウエルの手の平の先より、新たな『波動光』の光の束が発せされる。

 それがぐにゃぐにゃと操られ、凝縮され、一振りの剣を形造った。


「む」


 また新たな未知の魔法に、ハークの口から警戒の声が我知らず漏れ出た。


『エルザルド、何だあれは』


 気を利かせた虎丸がエルザルドへと質問を行う。また、虎丸とて危機感を強めていた。


『『波動集幻光』。本来、『波動光』にて一定方向に放射される粒子状の破壊の力を場に留め、任意の武器状に変化させて使用する魔法だ』


『近接用の武器、ということか』


 ハークも質問に加わる。


『そうだ。強力だぞ、気をつけるんだ。魔族でも使える者はごく一部だけのようだからな』


『いよいよ奥の手を出してきた、といったところか?』


『そうと判断して良いだろう』


『こちらも残り2手。段階としては似たようなものだ。エルザルド、今の内に注意すべき性能を教えてくれ』


『勿論だ。まず、あの武器の形は単なる見せかけに過ぎない。刀身も鍔も柄も全てが等しく高い攻撃力を持つ。刃とそれ以外の別なく危険なのだ。油断するな。更に、ある程度の形状も変化できる。我が生前に戦ったことのある魔族は手斧のような形で使用していたが、柄が伸びて槍の如き斧としたり、刃の部分だけが肥大化し大斧のように変化させたりしていた』


『今見えているものだけに囚われてはいかんということか。厄介だな』


 いきなり刃を伸ばすとかありそうだ。


『次に、我の記憶では右手の『波動光』も同時に放っていたこともある。『力の剣』にだけ注視することもまた危険だ』


『チカラの剣?』


『うむ。交戦経験のある貴殿らエルフの民が昔、そう呼んでいたことがある。魔族は大体が『光の剣』と呼んでいたが』


〈『光の剣』……ね〉


 どうもそうは思えない。自ら天使を名乗るから『光』を自称しているのだろうが、凝縮し閉じ込められているせいか、元々の濃い紫色が更に濃厚になっており、最早黒とも思えるほどだ。『光の剣』と呼べるほどに光など放っているようには見えず、逆に周囲の光が落ち込んでいくような感覚を受ける。


『最後は改めてその威力について解説しておこう。端的に言って『波動光』よりかなり威力が上だ』


『具体的には?』


『生前の我でも鱗では防げなかった。爪でようやく押し返すことができた』


『押し返す? 押し返せるのか?』


『うむ、干渉可能だ。あの剣の中は強烈な粒子の渦で満たされておるらしく、接触すると焼き斬るか、できなければ内部の圧力が高まって外へと弾き出される』


『と、なると儂の天青の太刀であっても五分五分か』


 レベル100のドラゴンの爪でようやく可能とはそういうことだった。ハークの天青の太刀による攻撃力であっても対抗可能かどうかは賭けになる。

 尤も、ハークは簡単に刃を合わせる気は無い。もしもの時の不確かな最終手段を1つ手に入れたくらいに考える。


『また、あまり接触しすぎると『波動光』のように爆発が起きる。これで全てだ』


『そうか。増々、防戦一方になる訳にはいかんな。先手を取るぞ、虎丸』


『了解ッス!』


 念話による情報交換の時間はごく僅かに済む。敵も念話を使ったことがなければ想像し難いに違いない。イローウエルはまだ構えを取りきってはいないからである。

 逆に虎丸は一歩進む。

 ゆっくりと、にじり寄る形だ。


 イローウエルは右手を上げた。だが発射はしない。彼の中で機が熟しきってはいないからだ。

 どう攻めようかと思案している時に、先に動かれたのである。

 怒りを抱き、気持ちを逸らせてはいても、予想外の状況に一瞬だけとはいえ思考は止まる。

 これも先手の1つ。


 更に虎丸は1歩2歩と進んだ。

 間合いが縮まる。

 あと3歩でハークの大太刀の攻撃範囲内に入る。

 『波動光』が発射される。

 あともう1歩は稼げると思ったが、イローウエルとて確かな実戦経験者だと解る。

 虎丸は左に回避しながら前へと進んだ。


「ぬうわっ!」


 そこにイローウエルの『光の剣』が迫る。

 虎丸は飛んで躱した。飛びながら一回転する。


「秘剣・『火炎車』!」


 一回転したのはハークの下半身代わりを務めたからだ。

 今度は蒼い真円が描かれた。

 翼以外の骨は硬い。関節部を狙ったのだ。ハークの天青の太刀は蒼い炎とその刃で突き出されたイローウエルの左肘から先を切り落とした。

 宙返りをしながら虎丸は着地する。そこに体を捻じるようにして狙いを定めたイローウエルが再度『波動光』を発射した。

 これも虎丸は右に難無く回避した。


「ちいっ!」


 イローウエルは更に『波動光』を放ちながら間合いを再び取り戻そうと後ろに飛びつつ翼をはためかせる。

 当然、ハーク達はイローウエルの思い通りになどさせるつもりはない。

 虎丸は追いつくために一際大きな跳躍をする。


(今だ!)


 イローウエルとしては肘から先を切り落とされた時間を稼ぐだけのつもりであったが、勝機が訪れた。空中にあれば無茶な挙動はできない。


「死ね!」


 最大出力にて放たれた『波動光』が空中のハーク達に迫る。

 が、イローウエルの視界にてハークの背に一瞬出現したはねが彼らを一気に押し出した。


 ハーク達はイローウエルの眼前にいた。

 虎丸の上に跨るハークは突きの体勢。


『秘奥義・『天魔風震撃』!』


 その時、イローウエルに何かをされた感覚はほぼ無かった。

 しかし、彼の身体は大太刀が突き刺さった頭部を始め、凄まじい破壊の奔流に呑み込まれた。



 渾身の一撃である。

 ハークは自身の魔力の半分以上を注ぎ込んだ。

 ハークの突きの威力を乗せた突風と疾風が竜巻と化し、魔族の肉体を粉砕する。


「うおりゃああああああああああああああああああああ!!」


 全てを出し切るように気合を発露する。




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