エルフに転生した元剣聖、レベル1から剣を極める -Hero Swordplay Breakdown-
528 第30話:最終話27 We already know the smell of the game
528 第30話:最終話27 We already know the smell of the game
ハーク達は元帝都の中心部、皇城があった場所に辿り着いていた。
何故分かるかというと、虎丸が場所を記憶していただけではなく、壁が一部のみ残っていたからだ。遠目からは全て跡形もなく消え失せたと思えていたが、城の中心中の中心、縦も横も巨大な一室を取り囲む壁面のみだけが残されていた。
どうやら他に比べても相当頑丈にこさえられたものであると判断できる。
〈ほおる、という大部屋か?〉
モーデルでも、領主や国王問わず城の主が公式の場で配下の者たちなどと面会する際に使われていた巨大部屋がそう呼ばれていたことを思い出す。
『ご主人、あのテイゾーというヒト族の匂いはこの中に続いているッス』
『……矢張りか』
そんな予感はしていた。正面壁の真ん中下部にこれまた不必要なまでの巨大な鉄扉があり、虎丸の意識はそこを指し示している。
既に天青の太刀を抜き払っていたハークは、虎丸の背から降りると、日毬を肩に乗せたまま鉄扉に近づき、構えた。
「ふんっ!」
そして都合3度、ハークが刃を振るうと分厚い鉄扉がバラバラと崩れた。
周囲の乾燥と荒れ方のせいか、立ち昇る土煙は相当なものだ。
もどかしくも収まるのを待ってから、再び虎丸に騎乗し内部へと進む。
中は相当に広い。だだっ広いと表現しても良いくらいだ。モーデルの王城にも、その中心部に同じように巨大な部屋があったが、ひょっとすると倍近くの広さがあった。
〈拙いな。ここまで何も無く広大なだけの空間であると、虎丸はいつもの最高速度を発揮できぬかも知れん〉
虎丸には『
前身となるフォレストタイガーの頃から持っていた、本来の生息地である森林地帯での戦闘中のみ速度能力が伸びる『
多少煩雑であれば問題無いのだが、数人が優に身を隠せるほどに大きいとはいえ、柱が数本では難しいだろう。
巨大部屋の中ほどを過ぎた辺りに階段があり、ごく僅かな段数を登り切った頂上に玉座があった。
座る者は誰も無く、傍らに魔族が立っている。
見るからに瘦身で、眼は細く、そして吊り上がっていた。帝国の元宰相、イローウエルに違いなかった。
テイゾーの姿は見当たらない。
玉座の奥に壁が見えるが、外から見たこの部屋全体の壁の大きさからすると少しだけ狭い。恐らく、奥にも小さな部屋がもう1つくらいあるのだろう。ただし、天井から垂れ下がった巨大で分厚く派手な布が壁のほとんどを覆い隠しているため、奥の部屋に通じる入り口は見えない。
『虎丸、テイゾーの匂いはこの先だな?』
『そうッス』
予想通りだった。
相手の意図は明らかである。
目的を達したいのであれば、まず自分を倒せ、だ。
「戦う前に確認したいのだがね。貴殿は帝国元宰相、イローウエルで合っているかね?」
「そうです」
存外、素直に答えてくれるものだ。余裕の表れと言ったところか。
「……ただ……」
「? ただ?」
「
「……外の有様では帝国云々など無い、と思うのだがな……」
「…………」
「もう1つ聞きたいのだが、よろしいかね?」
「……どうぞ」
「一体、何を目的として、こんなことをしているのかね?」
狐目男の表情が若干変わる。少し驚いた様子へと。
「これは予測が外れました。てっきり、テイゾーの行方を訊かれるものとばかり思っていましたよ」
「そちらは見当がついておるのでな。だが、もう片方は正直、いくら考えても分からぬ」
「分かりませんか?」
「うむ。皆目見当がつかん」
ハークの正直な感想であった。彼は続ける。
「抵抗する者たちに対し、見せしめとして皆殺しを選択することなら理解できる。納得はせんが……、その後の反乱抑制のため、時に支配者として必要な選択であることも知っている。しかし、これは明らかにやり過ぎの類だ。貴殿らはこの都市を、この国を、既にほとんど意のままにしていた筈だ。表立った反乱分子さえ潰せば、事足りたのではないか?」
「ほう」
イローウエルのハークを見る目が変わった。それは、ハークのここまでの言葉が、イローウエルの考えとかなり似たものであったことの証明であった。
「大体からして、あの『カクヘイキ』とやらを使う意味が解らん。威力が過剰にすぎる。しかも使いすぎれば魔物の浄化能力を超えて、世界を先史時代に戻すとも聞いた。そうなれば、魔物以外ほとんどの生物が死に絶えるとも。魔物の肉体構造を持つ貴殿らは生き残るやも知れんが、貴殿らの肉体の代わりとなる我ら人間種も絶滅すれば、結局は同じ運命を辿ることになるのではないかね?」
イローウエルはハークをまじまじと見る。興味を惹かれるような対象物を発見し、観察するかのように。
「貴方は中々に優秀な頭脳をお持ちのようだ。少なくともあのテイゾーよりも何倍も……ね。惜しいですよ。そんな貴方が単なる人間種でしかないのは」
「ふむ。褒められているのか貶されているのか判らんな。それで? 答えはいただけないのかね?」
「おっと、これは失礼。ま、最終的に真意にまでは到達できないというのも、人間種の限界というものでしょうからね。いいでしょう、お答えしましょう。貴方が先程仰った通り、『カクヘイキ』はこの世界に終末をもたらすが為の手段です」
ハークは眼を見開く。増々意味が解らなくなったからだ。
「そんなことをしてどうする?」
「貴方がたは遥かな昔、そもそもが絶滅する予定だったのです。それが神のご意思に背き、今まで生き永らえてきました。その間違いを正します。これは運命なのです」
「神のご意思? 運命? どうにも受け容れ難いと理解してくれるかね」
「受け容れる受け容れないの問題ではありません。私たちの手に、今再び大破壊の、核の力が戻った。これこそが、神の思し召しに違いないのですから。審判は既に下っていたのです」
「諸共、滅びの運命を受け容れると?」
イローウエルはにやりと笑う。
「私たちは滅びませんよ。貴方がた罪深き人間種たちさえ絶滅すれば、新しき世界がこの地上に顕現し、遂に! 遂に我らが神がこの世界にご降臨なされるのですから! 再臨です! この地上は神のお力によって永遠の楽園と化し、我らは未来永劫、理想世界でその幸せを享受するこができるのです!」
実に嬉しそうにイローウエルは語った。そして、心底その時を待ち望み、待ち焦がれ、ようやく手が届くことを確信したかのような、どこか恍惚とした表情を見せた。
一方、そんな様子を眺めるハークの頭の中は疑問符で満たされていた。
〈…………………………は?〉
まるで解らない。今まで人の言葉を話していた筈の相手が、突然に理解不能な言語を前触れなく発し始めたような気味の悪さがあった。
何度脳内で反芻しようとも、欠片も理解が及ばない。
「……
思わずと本音が漏れ出てしまう。
すると、今の今まで上機嫌で語っていたイローウエルの表情が抜け落ちたかのように無表情となる。冷めた眼でハークの方を見詰めた。
「所詮は不心得者の不信人者ですか……。この崇高な使命と意思と運命とを理解できないとは……。さて、もう話は充分でしょう」
イローウエルは右手をハーク達の方へとかざした。ただし、まだ魔力を集めるような精霊の動きは無い。
「悔い改めよ、などとは申しません。悪魔の信徒よ、この世から滅して差し上げましょう。かかってきなさい」
どうやら先手を譲るつもりであるらしい。
『虎丸、奴のレベルは?』
『予想通り、75ッス』
嬉しくもない予想通りである。
ならば格下として、できることをすべきだった。譲られた先手の機会を活かすのである。
「よぉし! いくぞ、虎丸!!」
「ガウワーーーーーーーーーーー!!」
今、再び主従は不可能に挑戦する。
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