523 第30話:最終話22 That is Bullshit! Blazing!②
「ぐあ!?」
ベルケーエルは突然眼の前で起きた爆発に思わず声を上げた。
今の爆発は『波動光』ではない。『波動光』も直撃さえすれば爆発が起きるが、あれはあくまでも圧力の急速な高まりによるものだ。
こんな肌を焼くような熱は発生しない。
(下界の魔法か? クソッ、バルビエルの奴はマトモに喰らっちまったか!? あいつは気が短すぎるぜ! 俺も距離を取ってなけりゃあ、危なかったな)
ベルケーエルは天上からの加護に感謝する。
この結果の違いは、間違いなく自分とバルビエルとの天使としての格の違いにあると改めて確信する。バルビエルはプライドが高すぎ、逆に怒りの沸点が低すぎた。
(それにしても、火力ばかり高くて下賤な魔法だ)
そろそろ肌の表面が焦げてきていた。必要な処置は事前に自分の身へと施したので、こんな程度は1秒以内に治るとしても、甘んじて受けたままでいる意味も無い。
ベルケーエルは翼をはためかせ、熱源から更に距離を取った。後方へと移動したのである。
「おいッ」
その時だった。
突然、真下から声が聴こえた。どう考えても自分に対して呼びかけたものであろう。
すぐに真下を見ようとするが、人間の体の構造上、上下に視線を向けるには若干のタイムラグがどうしても必要となる。
見た時には既に遅い。そこには誰の姿も無く、粉塵がただ舞い上がり何者かがいた形跡が残るのみだった。
次の瞬間、ガクンと視界が揺れた。そして、確かに背の翼を掴まれた感覚を味わう。
◇ ◇ ◇
解説せねばなるまい。
モログの上位クラス専用スキル『
他を圧倒している、とすら表現しても良いくらいだ。
ただし強力な分、ペナルティも多い。
更には複雑である。複雑すぎて、モログの師がルールと呼んでいたほどだった。
そのルールの中の1つに『卑怯な真似をせず、常に正々堂々と戦わねばならない』という制約がある。
先程、モログがベルケーエル相手に一声かけたのはそのため。ペナルティを明確に回避するためだった。本格的な戦闘に入る前の不意打ちは、前述の『卑怯な真似』に該当することがあるからだ。
ちなみに、モログの『
これも、同じスキルを所持していた先人の長きに渡る研鑽の末によるものであった。
「ぬんッ!」
掴んだ。
もうこちらのものである。すぐさまモログは必殺の投げ技SKILLを発動させた。
「おおおおおおおおおおッ、『ファイナル・アトミック・サイクロンッ――――!!」
空中で発動しようとも問題は無い。
この技は元々地上にいる相手を空中に放り投げてから、再度、地上に向かって強烈に叩き落とす。だから最初の行程を削ればいいだけだ。手間が省けたとも言える。
両翼を掴んだまま超高速回転を開始する。
「うォおあああああああ~!? やっ、ヤメロぉ~~~~~!!」
ベルケーエルから情けない悲鳴が上がった。
もうどちらが上で、どちらが右で、どちらが地面だかも分かっていまい。不思議なことに、慣れなのか自分でコントロールしているかは分からないが、同じ速度で回転している筈のモログはそんな事にはならない。
「スッテェエエエエエエエエクッ――――!!」
指先にビキッ、という骨が外れた感触があった。
即座にモログは技の最終段階へと移行する。全力で最後に振り回した影響でベルケーエルの両翼が彼の背中より
感触としては、翼は人間でいう肩甲骨あたりにくっついていたようである。
そのままモログは流れるような動きでベルケーエルの頭部を前に、下からすくいあげるような形でヒト族の腰に当たる箇所をホールドし、縦回転に移行した。
「バァッスタァアアアアアアーーーーーーーーーーーー』!!」
回転の勢いを利用し、モログはベルケーエルと共に大地へと直行する。
落下の勢いまで加えて両者は共に加速し、モログは地面と接触する寸前に全体重を乗せて更に敵を叩きつけた。
直後、大地が激震するほどの衝撃と爆発のごとき轟音が周囲を満たす。
またも粉塵が持ち上がる。乾燥した土地柄ゆえにもはや砂塵と言えた。
更なる煙幕に周りを包まれてしまったような形だが、ついさっきまで敵に密着していたモログからすれば結果の確認は容易だ。
小さなクレーターのようにすり鉢状となった爆心地の底に、ベルケーエルの腰から下、下半身だけが突き立って露出していた。
まるで墓標だ。
しかし、本来というか、今までの相手であればこのSKILLで肉体は粉砕され、骨まで残らない。それが原型を半分以上残している時点で、さすがはレベル70超え、魔族と言えた。
だが、手応えとして顔面から両肩、胸くらいまでは消し飛んでいる筈である。
則ち、動力源である魔晶石まで粉砕、消滅させられたかどうかは不明だった。
ふと、ついさっき引きちぎったベルケーエルの両翼がモログの眼に入る。
一瞬、視界の端で動いたように感じられて、モログはそちらに注視した。
動いているようだと感じられたのは見間違いだった。
正確に言うと、動いてはいたのだが、意識的なものではない。まるで植物が
最後は灰となって、僅かな風に消えていった。
さすがにモログとしても気になる光景である。
しかし、足元から急速に立ち昇る殺気に、モログは視線を戻した。
丁度、ベルケーエルが埋まった地面から、上半身を力任せに引き抜いたところであり、驚くべきことに失った筈の胸から上はほぼ再生が完了していた。引きちぎった両翼さえ、骨の形成がほぼ終わっている。
「こぉおおの、不埒物がァアアアアアア!!」
即座に右手が向けられた。避けられるようなタイミングではない。モログは両腕を己の前でクロスさせ、迷いなく自身唯一の防御用SKILLを発動させる。
「奥義・『武神金剛拳』!!」
直後巻き起こる、またしての大爆発。
会心の笑みを浮かべたベルケーエルだったが、その表情は長く続かない。
微風により煙が晴れていくと、五体無事の偉丈夫の姿が現れたからだ。
それは、ベルケーエルが全力で放った『波動光』に対し、モログがほぼ無傷で耐え凌いだことを示していた。
「なんだとおおっ!?」
驚愕の声を上げるベルケーエルに対し、耐え切ったものの押されて間合いを離されたモログは再度の突進を行う。
走りながらモログは、先程の超絶としか表現し得ぬ魔族の再生速度に考えを巡らせていた。
魔法力の残量がある限り不死身とすら言われるほどのトロールやヒュドラと比べても倍以上に早い。
異常だった。タネは分からないが、魔族が何らかの奥の手を切ってきたのは明らかであった。
ならば、こちらも手札の全てを開示する時だ。
モログの上位クラス専用スキル『
その中の1つに、『相手の汚い手段や作戦によって危機的状況に陥る』というものがある。
本来、招かれざる事態の筈であるが、モログの場合に限り、そのような状況は彼の力を増す確実なファクターと成り得るのだった。
この『相手の汚い手段や作戦』とは、例えば罠や、幼い子供たちが人質に取られる、などに該当される。
前者はともかくとして、後者は人質となるべき子供たち、つまりは第3者が場に存在してこそ成立する事態の筈だ。
ところが裏技として、結果的にモログが負ければ数多くの子供たちの人生、そして未来に避けようも無い悪影響が現れることが確定している場合に限り、モログの『
モログは想像する。
『カクヘイキ』とやらが発生させた破壊の光に吞み込まれゆく少年少女たちの姿を。同じ光に父母を奪われ、たった1人で涙を流す幼子の姿を。
(させはしないッ)
モログの中で、カチリと何かが噛み合った感覚があった。
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