500 第29話09終:Breakdown-地上最強の会合-②




 ブルガリアが『変身メタモルフォーシス』を習得したのは夜になってからであった。結局、たっぷり半日くらいの時間が経過したことになる。

 だが、特に文句をつける者はいない。元々これくらいはかかるだろうと予想されていたし、皆、夜眼が効くから不自由もなかった。彼らが見通すことができないのは、一筋の光も無い真の闇だけだ。


 とはいえ、これが『大陸間会議』の最中であれば話は違っただろう。確実に1柱はうるさく言い出したに違いない。若い頃の己も同様だったかも知れない、と考える者も数名いた。


「随分と時間かかっちゃったか……。ゴメンねー」


 軽くウェーブのかかった萌葱色もえぎいろの短髪に同色のビキニ。それをシースルー素材の鱗模様が描かれた半透明なドレスが覆っている。肌も少し浅黒く、活動的なのか官能的なのか貞淑なのか、実に解りづらい。

 彼女との深い付き合いを持つボルドー、キール、アレクサンドリアの3名は、彼女の複雑な内面を上手く表したような服装だと捉えていた。


 ブルガリアは一見すると豪快というか、考え無しの言動が目立つ一面がある。

 しかしその実、内心は臆病というよりも慎重な性格をしており、未知の出来事や簡単に正解を導き出せぬような難問に対しては特にその傾向が強くなる。それでいて、長く考え込んでいると段々と面倒臭くなるタイプであり、いきなり実力行使に出るという実に難儀な性格をしていた。


 言うなれば、『石橋を叩いて確認しようとしたら砕いてしまった』という感じであろうか。

 制止、またはそれが間に合わなかった場合の後始末は大抵がボルドーの仕事となる。彼の苦労が偲ばれるというものだ。だが、今回はキールもいる。彼女が短絡的な行動にはしることはないであろう。ブルガリアとて分は弁えている方だ。


「気にすることはないぞい。それでどうじゃね、初めて人間体になった気分は?」


 キールに問われて、ブルガリアは感触を確かめるように手足を動かした。


「うーん、何か変な感じ。目線も違うし……。まァ、実際になってみると、あいつらが口より先に手が出るのも解る気がするかな」


「……いくら首よりも手が長いからって、そんなのはブルガリアだけだよ」


「えーーっ、そうかなぁ?」


 ボルドーの素早いツッコミに首を傾げるブルガリア。


「ほっほっほ……。さて、そろそろ本題に入るとするかの、アレクサンドリア」


「そうじゃな。キールには既に粗方話したが、お主たちには最初から伝えねばならんからの。……と言っても、そんなに多くの進展はないがな」


 ヒト族であれば軽い近況報告などをお互いに行ってから、というのも通例かも知れないが、彼らはドラゴンだ。本質から異なっている。

 ブルガリアとボルドーも異議を申し立てたりしない。その代わり、本題への質問を行った。


「今回、俺たちが集められたのはエルザルド老の生死を確かめるため、だよね?」


「少し違うのう。あれの死は既に確定しておる」


「「えっ!?」」


「順に説明していこう」


 アレクサンドリアは彼女自らが説明を行う。当事者としては別なのだが、ガナハはあまり説明が上手い方ではない。彼女も己で自覚していた。

 アレクサンドリアはエルザルドの現在の状況、知識を魔晶石に封じ込めた状態で、魂は既に転生済みであること。狂わされ、自滅に近い形で死したこと。その原因が、恐らくはヒト族の国家、バアル帝国とやらにある可能性が高い事を話した。


「ねぇ、アレクサンドリア。少し質問して良い?」


「勿論だ。少しでなくても構わんぞ」


「ありがと。じゃあさ、なんでこんなにコソコソしているの? 集合場所はこんな辺鄙なところだし、履歴ログにまで気を遣っているなんて、まるで……」


「まるで、同胞を警戒しているよう……、だと?」


「なっ!? 何言ってんのよ、ボルドー! そんなワケないでしょ!」


 この場所は危険地域過ぎて、知的生命体では龍族以外に無事でいられる種族などほとんどいないのは既に書いた。つまりは、第3者の視線を感じることなど、通常では考えられない場所なのだ。

 この状況下で何者かがこの会合の様子を覗おうとすれば、それがどのような・・・・・手段であれアレクサンドリア達であれば感知することが可能である。後述する同胞の異能でも不可能だ。紛れ込ます視線が無いのだから。それだけの自負を彼女らは抱いていた。

 ブルガリアとて既に頭では理解している。理解していないのは別の部分だ。


「……残念ながら、ボルドーの言う通りじゃ」


「っ……!?」


「妾たちは、正確には妾、ガナハ、アズハ、ヴァージニアで出した結論じゃが、その帝国とやらの背後、または協力者のような立場の中に龍族、しかも我らと同格の存在が潜んでおるのではないかと、そう考えて行動しておる」


 名を上げられたアレクサンドリア以外が肯く。

 その光景を見て、ブルガリアも絶句するしかない。


「成程。俺たちを傷つけられるのは、俺たち自身のみってことだね?」


「そうじゃ」


 断言するアレクサンドリアの様子に、ブルガリアもようやく意識を入れ替えることにする。

 元々、感情が追いつかなかっただけである。仲間を疑わなければならないという事実に対して。


「魔族があの半島内に完全封印された今、そう考えるのが自然……なのかぁ」


「エルザルド爺ちゃんを殺したのも、……ってことだよね。俺達同士で争うなんて……」


 愚かなこと、ボルドーはそう続けたかったのかも知れない。慰めるためではないが、アレクサンドリアは1つの事実を吐き出す。


「ふむ。なァに、龍族同士で争うのも、これが初めてではない。妾たちが若かった頃は、互いに覇を競ったものよ」


 アレクサンドリアが横目で視線を送り、キールが顔を背けた。


「えっ、ホントに?」


「嘘でしょ?」


「……アレクサンドリア。もう人間種の言う単位で何千と昔の話ではないか」


 掘り起こされたくない過去であるのか、キールはアレクサンドリアに向かって抗議する。それを受けてではないが、彼女はすぐに話題を移した。


「フッ、最も直近では、ヴァージニアの息子が暴れた時じゃのう」


「あ、それは知ってる」


「あたしたちがまだ龍言語魔法を覚えるか覚えないかくらいの頃だよね?」


「あの時は、龍族だけじゃあなくて、一部の人間種も協力してくれたわね。エルフ族とか」


 感慨深げにヴァージニアが語る。


「そうじゃったのう」


「あの子は……、交ざり合った血が全て悪い方向に作用してしまったわ……」


「元々強い双方の闘争本能が合わせられて更に高められた結果、理性を完全に塗りつぶしてしまった、と言ったところかの。それが今や、世界の在り方すらも変えた龍族の英雄、いや、賢人・・か。月日とは時に不思議な流れをもたらしてくれるものよ」


「参考までに、何がどうなればああも変わるのか、教えて欲しいものだわい。龍族とて魔物の一種、生まれ持った闘争本能は非常に強い。昔のワシらも含めて、若い龍が問題行動を起こすのは、これが原因の大半と言われておるからのう」


 キールの質問に対し、ヴァージニアは逡巡することもなく答えた。


「いいわ。隠す程の事でもないし。でも、真似はしない方が良いわよ。……転生前の記憶を呼び起こす秘法を使ったの」


 質問者であるキールを含め、全員が眼を剥く。今まで無言だったアズハが、感心半分呆れ半分で言った。


「ガルダイアが昔造った『チート作製器イクスヒューメイション』の基礎となった大昔の理論による技法のことだね? ……そっか、成熟した精神を呼び起こして、壊れた理性を修復したんだね」


「そうよ。アズハの言う通り。私が行ったのは賭けで実験的なものではあったけど、『魂の根源から力を引き出す』ためのものではなかったから、結果的には上手くいったわ。『異界』から引っ張ってきた魂でもないしね」


「アレって下手をすると魂の形が歪んで2度と再転生できなくなるって聞いたけれど、大丈夫だったの? ま、彼が再転生する機会なんて、もう有り得る筈ないだろうけど」


「ふふっ、その点は大丈夫よ。じっくりリアルタイムで体験させたから、魂に歪みは一切検出されなかったわ。ただ、1つだけ・・・・じゃあなくて、全部の・・・転生前の記憶を呼び起こしちゃったみたいでね……」


「ああ。だから再び眼が醒めるまでに千年以上も経過した?」


「そっ。それに目覚めた後に残った知識や経験も曖昧で、名前も・・・憶えていない・・・・・・。しかも、残ったそれらのほとんどが直前の転生元だったみたいでね。恐らく、魂に記憶機能が存在しないからだと思う。今後、この分野を研究して確立しようとするならば、100年200年の時間じゃあ足りないでしょうね」


 アズハは、龍族であっても長いと感じる期間を想像する。


「千年単位、とか必要ってコトかぁ……」


 話は一段落と視て、ここでアレクサンドリアが両者をストップさせた。


「さて、知識の探求も良いが、ここらで本題に戻ろう。ブルガリア、他にあるか?」


 ブルガリアが肯いた。


「うん。それで次の質問なんだけど、どうしてそのバアル帝国、っていうヒト族の国家が関わってくるの?」


「良い質問じゃな。いくつかあるが、決定的なモノがある。キールたちも含めて、ほとんどの者には初めて見せることになるな。ガナハ、例のものを」


「ウン。それじゃあ、投影するね」


 突如、空間に映像が投射される。エルフ族が造った『映像法器』の原理をそのまま使ったものだ。ただし、動画である。その分、データ量が桁違いだった。少々不鮮明だが、龍族の眼であればあまり問題にはならない。


「何で仮想領域イマジネーション・エリアに送らな……、ああ、これも履歴ログに残さないために、か」


 画面内では、巨大な水生型軟体モンスターが暴れ回っていた。


「随分デカいクラーケンだね。アレ? こんなデッカいクラーケンが、人間種の住む街の近くなんかに生息していたっけ? そもそもここ、どこ?」


 矢継ぎ早に尋ねられるボルドーの質問に答えていくのは投影者のガナハである。


「ここは西大陸で一番大きな人間種の国、モーデル王国の王都の光景だよ。北の塩湖に住んでいたクラーケンを帝国の兵が操って、自分たちを食べさせてまで急速レベルアップさせたみたい」


「うえ!? 自分たちを食べさせて!? 相変わらずヒト族ってのは、戦争で勝つためには何でもするね……。モーデルって帝国と敵対している国でしょ?」


「んん? あれだけの人員がおるのに、誰も魔法を放たんのは何故じゃ? 抵抗する意思が無い、ワケでもないようだが……」


「実はね、さっき帝国兵が自分たちを食べさせたって言ったけど、その時一緒に『封魔石』もいくつか体内に取り込ませたみたいでね。今写っているこのクラーケンの周囲は数キロに渡って一切魔法が使用できない空間になってしまっているんだ」


「『封魔石』!? エルザルド老が終の棲家に選んだ場所にあったものじゃない!」


 ブルガリアが驚きを見せる。キールやボルドーも同様だった。


「帝国は東大陸の雄だ。そして、エルザルドが生前住処に選んだ場所は魔族封印の要、『封魔石』唯一の群生地『黒き大地の穴』。そこは西大陸の北部にあり、帝国からはモーデルを含んだ幾つかの国を超えた先だ。距離は直線であっても3千キロ以上はある。妾たちのように飛行能力でもって物理的に国と国の境を飛び越せることのできぬヒト族の集団、帝国の兵がすでにこの『封魔石』を所持しておることこそ、揺ぎ無き証拠というものだ」


 アレクサンドリアの言葉に、キール、ブルガリア、ボルドーが納得する。


「確かにこれは決定的ね」


「そんな事のために、エルザルド老は……!」


「妾とて怒りは同じよ。しかし、気をつけるべきはこの『封魔石』が目的であったのか、エルザルドを弑するのが目的で『封魔石』は単なる行き掛けの駄賃であったのか、はたまた真の目的は別であるのかすらも判らぬこの状況だ。更に、『封魔石』がこの時使用されたもので最後、という保証も無い。妾の勘では、未だ帝国本国にて何らかの目的で使用されているのではと見ている」


「アレクサンドリアの勘はよく当たるからね……」


 その後、全員の意識が再び投影された映像に戻る。

 観戦モードというヤツだった。

 強力な再生能力を持ち、8本の巨大な触腕で攻撃をしてくるクラーケンに対し、魔法を封じられてその再生能力を阻害する術を奪われた人間種が、一体どのように抵抗するのか、それともできないのかが彼らにとっても見ものであったのだ。


「むう……。魔法が使えないとなれば、クラーケンの討伐難易度は跳ね上がるぞ。見たところレベル50半ばはあるじゃろう。ワシは水中の適性もあるのでまだマシじゃが……」


「ボクなら、かなり苦戦するだろうね。魔法が無い状態なんて、難易度的にはレベル65以上……、ううん、70前後と言っても良いくらいだよ」


「……え? ちょっと、凄くない? 死者どころか、重傷者ですらまだ出ていないじゃん」


 人間種は基本的に弱い。レベル50半ばというクラーケンがひと撫ですれば、大抵は絶命するだろう。余程の高レベルな実力者でなければ。

 動画には軽く千人を超えるヒト族の群れが映っていた。その全員が高レベルなど有り得ない。前に出ている者たちが的確な動きで被害を防いでいるのだ。


「うん、よく耐えているね。ホント、これ凄いよ。前にヴァージニアが、人間種には無限の可能性がある! ……って力説していたことがあったけど、これを見ると信じられる気がするね」


「ありがと、ボルドー。でもきっと、まだまだこれからよ」


 ここで、一際存在感を放つ男が乱入する。


「あ。コイツ知ってる。確か、モログってヤツだよね。西大陸一の冒険者。あ、形勢逆転してきた、……かな?」


「まだ押し切れてはいないわね。……ただ、今入ってきたモログってのも別格だけど、さっきから一番眼を引くのは……」


「白い魔獣に跨ったエルフの剣士、だね。いや、魔獣込み、かな。たぶんだけど、風の精霊獣ビャッコのように見えるね」


「それって絶滅したんじゃあなかったっけ?」


「確かそうだよね。きっと前提種が進化した存在なんじゃあない? 上のエルフと共に、……きっとレベル60くらい? もっとかな?」


「実はね、どちらもレベル50にもいってない筈だよ。ボクが最初に会った時はどっちもレベル40にも達していなかったんだ。それでも、ビャッコの方は、ボクの低空飛行の最高速に迫るスピードだった」


「い!? 龍族史上最速のガナハに迫る!? レベル40にも達してない時点で!?」


「ふうむ、ガナハよ。それは所謂、超特化型ではないのかの?」


「キール爺ちゃんの言う通りだよ。ホントにスピード超特化。他のステータスは軒並み普通っていうか、平凡だった。上のエルフの剣士も超特化。こちらは攻撃力だね。こっちの他ステータスはその攻撃力と魔導力以外平凡以下だったよ」


「お互いがお互いを補い合っておる訳か。む!? なんじゃあ、今のは? 羽が生えて飛行したぞ?」


「今のはグレートシルクモスが精霊種に進化したものだね。種族SKILLを使って一瞬だけ巨大化したんだよ」


「え? ナニソレ? グレートシルクモスの精霊種なんて聞いたことないんだけど……」


「ボクもないよ。だから新種って事じゃあないかな?」


 あっけらかんと言うガナハ。


「新種って……、ガナハそんな簡単に……。えっ!? うわっ、なに今の!? 剣が火を噴いたわよ!? モログってヤツのSKILLみたいに!」


「わわわ、一気に形勢逆転。すっご!? 遂に本気を出した!?」


「じゃがイカンのう。クラーケンが不利を悟ったぞ。ホレ! 逃げ出しおったわ!」


 画面上ではエルフの少年剣士一党が懸命に追い縋ろうとする。

 少年剣士がビャッコから離脱。更にグレートシルクモスの進化種からも最後の後押しを受ける。

 固唾を飲む地上最強とも言える観客たちの前で、少年剣士は奇妙な反りを持つ自らの剣を遂にクラーケンの胴体へ打ち込み、そして、とんでもないSKILLを発動させた。


 巨大なクラーケンの胴体が一瞬膨れ上がり、弾け飛んだのである。


「え? え? 何? 何が起こったの?」


超爆裂衝撃波ビッグブラストソニック! 超爆裂衝撃波ビッグブラストソニックだ! ガナハの『龍魔咆哮ブレス』、超爆裂衝撃波ビッグブラストソニックだよ!!」


「ボルドー、少し落ち着きなさい。しかし、見たところ範囲はともかくとして……、威力は申し分ないの。一撃でクラーケンの胴体が消し飛んだぞ」


「うん、威力だけなら、ボクの『龍魔咆哮ブレス』に迫るくらい。中心点の貫通力は、もしかしたら上回られているかも。最大出力には、当然に届かないと思うけど、それでも驚き」


 ここで、映像が途切れる。動画が終了したのだ。余韻を持て余すかのようにボルドーが感想を述べていく。


「凄かったね。単体ではモログが一番活躍していたけど、あのエルフの剣士と精霊種との連携には恐れ入ったよ。特にあのビャッコ、完全にエルフの剣士の下半身代わりを務めていたじゃあないか」


「エルフの剣士が上で放っていたSKILL、アレ全部騎乗用のSKILLじゃあなかったわね。超速度に超攻撃力、それを繋ぐ連携能力。組んでいればレベル75? それとも80に迫る?」


「どうかのう。ただ、重要なのは、あの少年剣士の攻撃力が、この映像の時点であってもワシらを殺し得る攻撃力を秘めている、ということではないかの」


 全員がキールに対し肯く。

 この時点で共通認識となった。アレクサンドリアが口火を切る。


「この姿では言うに及ばず、ドラゴンの姿であっても5秒じっとしていろと言われたら、死ぬかも知れんの」


 つまりは当たれば多少怖いが、現時点では相手にならない、ということでもある。5秒間もじっとしたままなど実戦ではありえない。あくまでも現時点では、ということでもあるが。


「ボクなら1秒かな」


「ガナハはスピードにステータスが偏っておるからのう。しかし、攻撃超特化とはいえ、これだけの戦闘力を示した人間種はワシの記憶にもほとんどおらん。確か、同じエルフ族で、炎と風と土の魔法を極めた存在くらいかの? ホレ、千年前のヴァージニアの息子殿に、トドメをくれてやったヤツじゃわい」


「ああ、そうだったな。妾もあれにはさすがに驚いたものよ。エルフ族は複数の属性魔法を組み合わせることで、魔法の威力を加速度的に伸ばす秘術を持っているからな。……さて、それでこのエルフの剣士じゃが、ガナハとヴァージニアがそれぞれコンタクトをとっておる」


「あ、じゃあ味方ってことかい?」


「そう考えて良いわ。関係も良好よ」


「うむ、ヴァージニアからの情報では、現在彼はモログらと共に帝国に渡っているらしい」


「え? 潜入中ってこと?」


「私はそう考えているわ。モーデル辺境領の軍部ともコンタクトが取れているから、状況もある程度伝わってきているの。まぁ今は、その情報提供元が留守なので、こっちに来れているんだけどね」


「それで、だ。無用な混乱を避けるためにも、妾たちは妾たちだけができることをやろうと思う。つまり、帝国に関すること、情報の取得は同じ人間種である彼らに任せるということだ」


「あのエルフとビャッコ、更にグレートシルクモスの進化種にモログ。これだけ揃っていれば同じ人間種相手に不覚なんかとらない。心配する必要が無い、ってことだね? でも、俺たちだけができることって?」


「それを話す前に言っておく。ガナハ」


「うん。あのね、さっきみんなに見てもらったあの映像ね、撮ったのはロンドニアなんだ」


「え!? ああ、そうか! 彼は龍言語魔法の『映像記録フッテージ』と『完全再現リプレイ』を掛け合わせて、自分専用の意識分割SKILLを生み出したんだっけ! それを精霊と同化させて風に乗せ、自分が動けない代わりに様々なものを見聞き、体験することができるようになったんだよね!」


「例の『幽霊ゴースト』SKILLだっけ?」


 ブルガリアの確認にボルドーがそうだと答える。


「ん? 待った、それは……」


「うむ。ロンドニアには弱みがある。彼が守護する龍王国の王族たちだ。だからこそ、今回の会合にも呼ぶことはできなかった。先の映像は彼がガナハ宛てに一方的に送り付けたものだ」


「い!? それって……、マズくない!?」


「そうだ。これは3つのケースが考えられる。1つはロンドニアが既に敵陣営に取り込まれているケース。2つ目は既に取り込まれているが、心からは従っていないケース。この映像を送ることで、妾たち、少なくともガナハに警告を与えているのだ。バレているぞ、気をつけろ、とな。3つ目は全く無関係で、未だガナハがエルザルドの死の真相を追っていると思い、善意で送ってきてくれただけというもの」


「3つ目が一番ありそうだね」


「あたしも」


「ワシも3つ目に一票じゃ」


「実を言うと妾らも3つ目を推しておる。が、確証が無い。ここは1つ目と2つ目のケースも考え、行動するべきであろう。戦力を整えるのだ。色々な意味でな」


「戦力? これ以上誰を?」


「決まっておる。ヴァージニアの息子だよ」


「あっ!」


「た、確かに! 彼が加われば純粋な戦力でも、情報の戦力でも絶対的優位に立てる!」


「それはそうじゃが……、彼は居場所が知れぬし連絡もつかぬのじゃろう? 母のヴァージニアでさえ」


「ええ、そうよ」


 ヴァージニアが即座に肯定する。質問したキールのひょっとしたら、という思いは泡と消えた。


「へ? じゃあ、どうすんの?」


「えーーっと……、まさか?」


「そのまさかよ。世界中を虱潰しに飛び回り、探し出す!」


「いいっ!? うっわーーー、アナログ過ぎ……」


「仕方なかろう。もはや事態を優位に進ませるにはこれしかない。幸い、この大陸にだけにはいないことは、既に判明しておる」


「……ってことはこの星は海の面積が全体の70%強だから、最低でも80%以上を調べ上げることになるワケか」


「そのために数を集めたのだよ」


「あ~~~、そういうことか……」


「あたしたちはそのために呼ばれたのね……」


「まぁ、愚痴るのは仕方がなかろう。しかし、我らがその気になれば、そうそう時もかかるまい」


「そうね」


「ま、1カ月程度かな?」


「アレクサンドリア。瘴気よけに海中に建造された太古の古代都市の可能性もあるぞい」


「エッグシェルシティか。海面の上昇により海中に沈んだものもあったな。再利用している可能性もあるか……。キール、お主はそういったものに詳しかったな。よし、お主はまずそれらを重点的に回ってくれ」


「了解じゃ」


「他の者は担当を決めて順次出発。ヴァージニアは引き続き情報収集のためにモーデル王国に戻る。何かあった場合は彼女に直接伝えてくれ」


「わかった……」


「頑張るしかないね」


「ま、やったりますか!」


「その意気だよ。ボクも頑張る!」


「じゃあ、皆、吉報を待っているからね」


「よし、では皆の者、行くぞ!」




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