479 第28話18:Break Out!!②




 敵の飛拳を大盾でもっていなし、自分を含めて防御壁を形成していた部下たちにポジションチェンジを指示すると、割れた隙間からシアとフーゲインが飛び出した。

 フーゲインなど、「よっしゃーー!」と雄叫びを上げている。


 やりたい放題と言っても良い独壇場で大暴れしまくっているナンバーワン冒険者モログの側はともかく、ワレンシュタイン軍側は先の凍土国オランストレイシア遠征戦での戦法を、ほぼそのままに流用していた。


 則ち、キカイヘイを一撃で倒すことのできる攻撃力とSKILLを持つフーゲイン、そしてシアはオフェンスだけに専念させ、逆にワレンシュタイン軍1個小隊30名は全員が10名ずつの組に分かれて対キカイヘイ特別製の大盾を使用しディフェンスに専念。3重の盾壁として敵キカイヘイの前に立ち塞がり、反撃を受け止める。


 マクガイヤは、そんな彼らの組を適時状況を見て入れ替えつつも、時に自身も防衛に加わり、残るヴィラデルは遠距離から全員のサポートを魔法で行っていた。


 オランストレイシア遠征戦で、ヴィラデルは当時彼女の持ち得る中で最大威力の魔法に惜しみなく全魔力を注ぎ、多大な戦果こそ上げたものの早々に魔法力MP切れを起こしていた。


 しかしその後、ワレンシュタイン軍技術班の更なるキカイヘイの解析により、外装の最も内側に電気を遮断する素材が使われていることが判明し、何とかキカイヘイの外装に穴を開けることが可能であれば、たとえそれがごく小さなものであろうとも雷の魔法を内部へと干渉させられることが解った。


 このこともあり、ヴィラデルは前回ほどの大規模魔法を使用していない。まだまだ余力を残している状況であった。


 そして、オランストレイシア遠征戦の頃とは違う点がもう1つ。

 それはマクガイヤらワレンシュタイン軍の者たちが、前述の『法器合成武器』の正式量産型『バーストランス』を複数装備していることであった。


 前遠征戦では、マクガイヤ以下軍兵たちは本当に防御するのみが仕事であり、それしか基本的にできもしなかった。早い話、敵の攻撃に対し大盾が砕けるまで受けてしのぐしかなかったのだが、『バーストランス』のおかげで確実にダメージを与えて押し返せるなど、意味のある抵抗が行えるようになったのだ。

 この恩恵もあって、大盾の損耗率も今回はかなり低い。負傷者も少なく、未だ重傷による脱落者さえいなかった。


 シアの『瞬撃』からの内部爆破、フーゲインの『龍覇拳ドラゴン・インパクト』によって、新たに2体のキカイヘイが沈黙する。


(これで半数を超えたな!)


 マクガイヤはできるだけ冷徹にと自身に言い聞かせつつ、視線を左に向ける。

 そこでは、遅れて参戦したにもかかわらず、ナンバーワン冒険者のモログが既にこちらの撃破数を超過していた。

 つまり、戦場を全体的に判断するならば、既に戦いはワレンシュタイン軍側に圧倒的な優勢のままで、終盤戦に突入していると判断しても良い。


(このままいけば、今回もただ1人の死者を出さずに、我らの勝利とすることができる……!)


 マクガイヤの脳裏に浮かぶこの思いを、恣意的で楽観的な期待に過ぎぬと断じる必要は無いであろう。状況は正に彼の思い描いた結果に向かって、推移している真っ最中なのだから。

 ただし一方で、この時点で気づく必要のない状況判断でもあった。



 マクガイヤは、つい数か月前のオランストレイシア遠征戦にてキカイヘイ軍団を相手にして、率いる部隊にただ1人の死者も出さずに勝つという、奇跡的としか表現のしようもない戦果を既に達成している。

 この前人未到の領域ともいえる功績により、マクガイヤは2階級特進という栄誉を与えられていた。


 が、彼がこの褒賞に対し、1度は完全な固辞を申し出たことを知る人物は数少ない。

 大尊敬する自らの主ランバートに対し、マクガイヤは当時、次のように告白していた。


「今回の褒賞を私が戴くワケには参りません。私が指揮した奇数部隊に戦死者が皆無でありましたのは、ハーク様並びにあの方の従魔様らが比類なき無双のお力を振るっていただけた結果です。決して私の功績ではございません。ですので、私への褒美は一切必要ありません。代わりにそれらを全てハーク様にお渡しして、我が軍へご参入いただけるようご説得ください」


 この言葉を聞いたランバートは、苦笑いを見せながらも応えた。


「お前の気持ちは解った。ハークに対する打診は俺に任せろ。しかし、お前自身の功績が無いというのは間違いだ。確かにお前の担当する西側通路での戦いで、一番の功労者はハーク達だろう。これは動かん。お前の言う通りだ。しかしな、その彼らと協力し、力を合わせて敵キカイヘイを全て討ち倒しつつ死者を完全にゼロと抑えることに成功したのは、間違いなくお前の手腕も影響を与えていると俺は確信している。戦闘技術面、能力面で突出し過ぎている彼らと連携することは、決して簡単ではない。彼らの戦い方に、ついて行けただけでも大したもんさ」


 そんなマクガイヤへの論評に続いて、ランバートは増々苦笑いを深めて続ける。


「大体なぁ、結局は俺たちが担当していた東側通路よりも、お前たちの西側通路の方がキカイヘイの撃破数が多かったんだぜ? だというのに被害はほとんど無い。そんな中で指揮官であるお前が褒賞を受け取らなかった、なんて知られてみろ。ワレンシュタイン軍ウチの連中で、褒賞を受け取る奴がいなくなっちまうぜ!」


 ランバートは最後を冗談めいた口調で言い、ついでにカラカラと笑ったが、それこそが重要なのだとマクガイヤは気づいた。


 実情と内心はどうあれ、数字として表れる表面上の功績で計れば、ランバートやフーゲイン、ハーク達のように特別な能力を持たぬ兵士たちの中で、マクガイヤは群を抜いた圧倒的1位なのである。


 彼が褒賞の受け取りを拒否してしまえば、雪崩をうつように次々と返上する者が続出することになる。いや、そうなるに違いなかった。ワレンシュタイン軍に身を置く者たちであれば尚更だ。



 こういった事情もあり、マクガイヤは表向き平静に論功行賞を受理することになる。

 マクガイヤは割り切りの良い性格だったが、そうはいっても、彼の心の中に所謂忸怩たる思いがホンの少しでも今に残らぬ、という訳にはいかなかった。


「防げ!!」


「「「「「おおおおお!!」」」」」


 部下たちと共に再びマクガイヤはフーゲインとシアの壁役となる。1人はまだまだ大して乱れてもいない息を整えるくらいだが、もう一人は法器合成槌の法器部分を取り換えるので時間が必要なのだ。


 2人を取り囲む盾に向かって巨大なキカイヘイが迫る。襲いかかるそれらに対し、マクガイヤたちは大盾の性能と数を頼みに押し返した。


「ドケッ!」


 腕を飛ばすにしても胸の装甲板の内側に隠された放熱線発射装置を使うにしても、射線を確保しなくてはならないキカイヘイは拳を突き出してマクガイヤ達の間に力づくで隙間を作ろうとする。

 隣の味方と半分ほど重ねた大盾でそれを押し返すと、押し返した方向が良かったのかそのキカイヘイは一瞬だけよろけた。


 機会を悟った隣の兵がその肩関節めがけてバーストランスを打ちこみ、爆破させる。

 いつもより大きな傷跡が開いたのを見て、マクガイヤは瞬間的に大盾の裏に収納していたバーストランスの内の1本を抜く。


 マクガイヤの心に、もっと具体的で自分でも誇れるような明確な戦功を上げたいという欲目は無かった、とは言い切れない。

 例えば、己の手で1体でも敵キカイヘイを討ち取る、かのような。


 それでも肩に傷を受けたキカイヘイは他に比べてやや突出しており、マクガイヤの目前であり、しかも傷穴はこちら側に向いていた。


「うぉおおおお!!」


 簡単な作業だった。マクガイヤは囲いの中より半身を乗り出して思いっ切り手を伸ばして、バーストランスの先を開いた傷穴に押しこんだ。

 更に内へと押し込みながらも点火装置を作動させる。

 くぐもった爆発音の後、目前のキカイヘイは赤い眼の光を失い、ゆっくりと後方へ倒れていった。




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