437 第26話10:オニタイジ②
ハーク、モログ、シア、ヴィラデルは同時に高台を駆け降りる。
遅れて日毬を頭に乗せた虎丸が続いた。しかしすぐに追い抜く。全員
そしてハークは、その虎丸の背に飛び乗った。
「悪いが一番手はもらうぞ、モログ!」
「むうッ、さすがにスピードでは虎丸殿に敵わんなッ! 仕方が無いッ、代わりに後ろの10を貰って良いかッ⁉」
「承知した! シア、ヴィラデル、儂らで前方のオーガ20の相手をするぞ!」
「了解!」
「オッケー!」
「ヴィラデル、良い機会だ! 魔法を使わずに剣だけで今回戦ってみてはどうだ⁉」
「ええ!? いきなり過ぎない!?」
確かに突然すぎる提案であった。だが、シアがハークの後押しをしてくれる。
「大丈夫だよ、ヴィラデルさんならさ!」
「日毬をお主の援護につける、やってみせろ! 大体からして、お主が全力で魔法を使用すれば、20体くらいでは儂らの出番が無くなってしまいかねん!」
主人の意を受けて日毬が飛び上がる。光の帯を描きながらヴィラデルの右肩に移動し、彼女を応援するかのように一声囀りを上げた。
「わかったわよ! やってみる! 日毬ちゃん、アタシの後ろを取る奴がいたら、風魔法でブッ飛ばしちゃって! シアもサポートを頼むわネ!」
「きゅんー!」
「任せてよ!」
その頃には、先頭のハークはオーガの一団に迫りつつあった。
オーガはその身体的特徴から、鬼族と時に比較される。
鬼族と言えばハークやその仲間たちにとってはワレンシュタイン軍の上級大将が一人、フーゲイン=アシモフがどうしようもなく思い起こされるが、彼とは全く似ても似つかない。
フーゲインは、人間種の中では巨漢が多い鬼族において、かなり身長の低い方であったらしいが、体格の問題ではなかった。
オーガは毛深く、背中や両肩まで覆われており、地肌が見えているのは腹回りくらいだ。その地肌も異様に黒に近くひび割れていて、およそ人間種の肌とは程遠い。
例えるならば野獣のそれだ。知恵を宿していても、知恵の意味を理解していない。
今もそうだ。同じヒト型モンスターであってもトロールほど鈍くもないのか、一応とはいえ迎撃態勢を整える中、最も巨大な個体が自らよりも小さな個体をハークの方に押しやっていた。悪手で、無様な行為である。
ハークからすれば、どうしてオーガを鬼族との引き合いに出すのか理解できない。一致するのは頭から1から3本まで生える角だけとしか思えなかった。
その彼ら敵陣のド真ん中、中心部を目掛けてハークを乗せた虎丸が突進し、飛びこんだ。
「奥義・『大日輪』!」
背中に括りつけたままの大太刀を、ハークは鞘から抜きざま全力で振るう。
近頃になるとハークは『天青の太刀』を、刀身だけで自身の身長の約9割にも届くというにもかかわらず、背に負ったままに引き抜くことができるようになっていた。
物理的には、どこをどう考えても不可能な筈である。抜刀の際に、一時的にでも『天青の太刀』の刀身が柔らかくでもなっていないと説明がつかない。
正直、原理が解らず訳も解らず仕舞いなのだが、だからといってハークは使えるものを使わずにいる性分ではなかった。
解放された蒼き刀身がいつものように蒼輪を描く。
巻き込まれたものは憐れにも上下に分断されるのみだ。
その一撃に、オーガの一団の中で最もレベルの高い8体が巻き込まれた時点で、既に戦闘の帰趨は決まってしまう。
「奥義ぃ! だァい・にち・りぃぃぃん!」
続いてオーガの集団に肉薄したヴィラデルの大剣が振るわれる。
明らかに直前のハークの剣技を意識した動きで、2体のオーガを斬り裂き、その内片方は両断しかけたが、動き自体は素人目にでもハッキリと判る違いがあった。
「ヴィラデルさん、身体が流れ過ぎだよ! 振り回してるだけじゃあない、かっ!」
最後の、かっ、の部分でシアも思いっ切りハンマーを振り回した。吹き飛ばされた一体が背後のもう一体をも巻き込んでいく。この時点で、もう半数以上の敵が倒れていた。
「力み過ぎだ、ヴィラデル! 儂の真似などせんで良い! 落ち着いていつもの動きを心掛けて、一体ずつ倒せ!」
言いながらハークはまた一太刀を繰り出している。今度はSKILLではなかったが、それでも4体ものオーガの首が宙に飛んだ。
「ちぇ~、分かったワ、よぉっ!」
意外なほど素直に、ヴィラデルはハークの指示通りに今度は一体だけを狙い、大上段から振り下ろしていた。
その甲斐あって、正に一刀両断の唐竹割りに成功する。ハークから見ても、堂に入ったいい動きであった。
しかし当然に、集団の中でたった一体だけに狙いを絞れば隙も生まれる。それは彼女の左肩に留まる、身体だけは小さな存在の役目だった。
「キューン!」
いつものように加減無しの『
「ふんっ!」
倒れ込んだ相手の顔面に、吸い込まれるようにシアのトドメの一撃が決まっていた。
この時点で敵の数は4体。もはや数ではハークたちが上回っている。
だが、手を緩める者などいない。
「
ハークが跨る虎丸の右前脚から斬爪が放たれ、2体を襲い、絶命に導いた。
そして残る最後の2体に対して、シアの一撃が決まる。
「いぃよいしょおぉお!」
愛用の『法器合成槌』にて一体の腹部を捉え、勢いでそのまま保持しながら2体目を巻き込んだ瞬間。
「ほい、点火ぁ!」
この一カ月間で、シアは『法器合成武器』に更なる改造を施していた。
とはいっても大掛かりなものではなく、法器を発動させる際の引き金部分、その構造を変えたのである。
以前は拳を打ちこむことで発動させていた激発を、右手を握り込み、引き金を押しこむ簡単な動作のみで可能としたのだ。
これにより、打槌のインパクトに合わせてスムーズに、そしてタイムラグ無く発動が可能となったのである。
ボッオオオオン‼ という爆発音と共に発生した爆炎によって、最後のオーガ2体も消滅した。
「ちょっとォ! アタシ一体しか倒せてないじゃない!?」
「あ」
「むぅ」
シアもハークもやり過ぎを悟る。特にハークは自分から言い出したヴィラデルの近接戦闘、そのせっかくの機会を潰す結果になってしまっていた。
「大丈夫だ。まだ後詰の部隊がお……」
「『サイクローーーン・クローズライン』ッ‼」
ハークが言いかけたところで、前方の窪地よりモログの大声と共に巨大な竜巻が立ち昇った。
その光景を見て、ハークたちももう一つの戦闘がまさに今終結したことを否応なく悟るしかなかった。
そして、少しでも戦力になろうと高台を降りようとしていたスケリーたちは、『本物』と言われる英雄級実力者がどういうものかということを知り、眼、あるいは口を限界近くまで大きく開いているしかなかった。
◇ ◇ ◇
「帝国軍には全部で13の軍団がありやす」
「ほう。王国は3軍までだというのに、随分と多いな」
「ええ、元々は4軍までだったんですが、モーデルに負けてから急激に増やしたようですなァ。総数も王国軍に対して少なくとも倍近いと見ています。この国にゃあ、徴兵がありますからね」
ハークたちは、スケリーたち『四ツ首』の拠点である酒場に戻ってきていた。
荒れた店内は既に、綺麗に片づけられている。主が留守の間に、住民たちがやってくれたのであろうか。
「13ある軍団は、それぞれの将軍が率いています。大鉈のバットソン、岩盾のナジャールーダ、火槌のロドニウス、蛇槍のスネークアイ、巨大剣のパルパ、双蛇剣のゼルウェン、三俣槍のナーダ、鉄茨鞭のガロストレリス、毒爪のアルサリス、圧殺のロルフォン、自在剣のクシャナル、粉砕球のバーバレイド、四枚刃のファズマ」
「ちょっと憶えきれないわネ」
「後でリストをお渡ししまさァ。当然の如く強えヤツらばかりなんで、頭に叩きこんでおいてくだせえ。一人一人や一軍団なら、旦那方にゃあまず敵わねえだろうが、複数に囲まれでもしたらサスガにコトですからな」
「うむッ! 仮にもモーデル王国と規模を同じくすると言われる帝国の戦力だッ! 特に強者の情報はありがたいッ!」
モログの意見にハークも肯いた。
「そうだな。モログの言う通りだ。感謝するよ。それぞれが得意とする武器や戦法を表してもいるようだしな。これこそが、命を賭して得た情報、なのだろう?」
「ええ、そうっす」
「ふゥン、つまりようやく、アタシたちを信用できると判断する、ってコトなのね?」
ヴィラデルがわずかに身を乗り出しながらそう質問すると、スケリーは座ったままとはいえ居ずまい正してハッキリと言った。
「モチロンっす! これから粉骨砕身、旦那方姐さん方のために役立たせてもらうことをお約束いたしやすぜ!」
そして、がばりと腰を折って頭を下げる。
同時に、背後にいる彼の部下たちも、全員がザッという音が聞こえるくらい一斉に頭を深く下げていた。
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