433 第26話06:帝国殴り込み部隊
「ほうッ、あの悪名高い『四ツ首』がついに東大陸にまでその毒牙にかけるかッ」
モログの言葉に、頭目はわざとらしいほどの渋面をつくった。
「おいおい、随分とヒデエ言われようだな。確かにウチの組織は非合法な仕事も平気で請け負うが、合法的な稼ぎもちゃあんと行っているんだぜ?」
「料金踏み倒しの制裁、借金の半強制的取り立て。更には、正規に人を雇えぬような脛に傷持つ
「全部、法律スレスレじゃあないか……」
今度はハークの言葉を受けたシアの評にて、ヴィラデルが少し気まずそうな表情となる。が、頭目は逆にからからと笑った。
「聞いていた通り、随分と察しが良いもんだぜ! けどまぁ、今アンタが挙げたのは、
「ほう、というと?」
「生活に必須な物資すらも不足しがちな辺境へのモノの輸送や売買。食堂も無えド田舎での酒場の開設と経営。冒険者ギルドも無えボロ街のモンスターの周辺掃討や警備、とかさ」
「確かにそれは……、普通の商売だねぇ」
シアが認める。
「ま、そっちの商売の場合は『四ツ首』じゃあなくて、本来、別の名を使用するンだがな」
「やっぱり非合法組織じゃあないかい!」
まったくである。舌の根も乾かぬ内、とはこのことだ。
わざわざ組織名を変えるなどと、普通ならば手間でしかない。やましいことがあるから、ということを告白しているようなものだ。
「ま、信用は大事なモンだからな。臨機応変ってヤツさ」
とはいえ現金に過ぎる。節操が無いと言っても良い。ハークが心の内でそう評する中、不敵に笑う頭目は続ける。
「とは言ってもよ、元締めが同じなんだから俺たちにとっては変わらねえ話だ。稼げるか稼げねえかが重要よ。つまりは必要かそうでないかさ」
「それはそうだがな。……ん? 本来ということは、モーデルでは名を変えて経営するが、こちらでは『四ツ首』のまま、ということか?」
一つ気になったことに対し、ハークが質問をぶつける。
「おう。コッチじゃあ、そもそも商売に信用のある組織名なんぞ、ありゃあしねえからな。向かいの冒険者ギルド出張所ですらよォ、アコギな商売して自分から潰れたようなもんだ。自業自得だな」
「
「ああ。元々、
つまり、その時にはまだ冒険者ギルド出張所は営業しており、閉店したのはつい最近であるらしい。そういえば、ギルド出張所の扉に互い違いで打ちつけられていた板張りはまだ新しかった。
「所属冒険者ゼロだなんて、聞いたこともないよ?」
シアが呆れとも驚嘆ともつかぬ表情で言う。
「そりゃあそうさ。モーデルじゃあ、まず有り得ねえからなァ。けどよォ、よくよく考えてみりゃあ当然の話よ。ここいらのモンスターはそれなりにレベルが高く、価値のある素材持ちだが、わざわざ買い叩かれるような場所で売る奴もいねえ」
「あ、そっか。すぐ近く……ってほど近くはないけど、数日歩けばオルレオンの冒険者ギルドがあるものね」
「そういうこった。依頼達成の報酬が得られ難くなるだろうが、クソみてえな出張所に義理立てする奴もいねぇって話よ。結局、一カ月くらい前に中央に撤退しやがったぜ」
「ほう。だから困っている住人を見るに見かねて、ギルドの代わりを務めておったのか」
ハークの核心を突いた言葉に対し、頭目は不意に顔の正面を明後日の方向へと向けた。
「ケッ! そんなんじゃあねえよ! 良い稼ぎのアテが見つかっただけさ。モーデルが帝国の責任を追及し始めて対決姿勢を明確にしてから、俺たちの仕事の対象、帝国で仕事をしていた連中は軒並みモーデルに帰しちまったからな。なので、この街には本来の仕事が無くなったウチの連中があぶれてやがって、暇してたからよォ」
「わざわざ酒場で食事まで出して、か」
「ハッ! この国のメシは素材を焼くか揚げるだけの単純なモンしかねえからな! 仲間内で作ってた飯を出してるだけだぜ!」
「その割には、随分と住民からの信頼を受けておるようだの」
「……まぁ、ギルド出張所の撤退を機に、食堂や食料なんかの必要物資を取り扱う店舗も軒並み消えちまったからな。儲けさせてもらってるぜ」
「中々できることじゃあない。良いことだな」
「……からかってやがるのか?」
ようやくここで、頭目がハークの方を見る。
「いいや、本当に感じたことを言っているだけだ。本当にそうそうできることじゃあなかろう」
「……変な人だな、アンタ」
「それで? 先程、儂らに対して仕掛けてきたのは、『四ツ首』ソーディアン支部を潰した儂らへの、せめてもの意趣返しかな?」
「……んん? ハハハ! いやいや、違うぜ! 全く違う!」
頭目は豪快に笑いながら続ける。
「アンタとアンタ! が、ウチのソーディアン支部をぶっ潰したってのはモチロン知ってるぜ!」
頭目の指はハークと共にヴィラデルも指し示していた。
「が! そのことはカンケー無えよ! そもそも支部が違けりゃあ、ウチら『四ツ首』に仲間意識なんぞねえからな。特に、ソーディアン支部がぶっ潰されたのはかなり自業自得らしいじゃあねえか。大体からして、ウチの元締めが『王女派』への協力を決定したのは、アンタらと敵対しちまったからだ、とも聞いてるぜ」
「じゃあなんで、さっきはわざわざアタシたちに突っかかってきたのヨ?」
ヴィラデルの質問にも、頭目の不敵な笑みは変わらない。
「アレはよォ、ただ単にアンタらの実力を、俺たち自身の身体で体験して、確かめたかっただけだ」
「はぁ⁉ 何のためによ?」
「モチロン、アンタらが本当に、噂通りかってことさ!」
「意味が解らないんだけど?」
「一昨日のことさ。本部から新しい指令が届きやがった。そこには、モーデルからの『威力先遣隊』であるアンタらを、可能な限り、できること全てでもって援助を行えと書いてあったのさ」
「儂らをか?」
「それが何で、ちょっかいをかけてくる理由になんのヨ? 逆じゃない」
「俺たちは余所者だ。この地では頼れるのは、自分たちしか居やしねえ。全く後ろ盾が無え状態とも言える。そんな中で、『威力』だなんて、
「ああ、そういうことか。儂らがお主らと戦って、もしも聞いていた実力通りでないとすれば、自分たちにも危険に及ぶことになると考えて、か」
「おうよ、その通りだ! 帝国の上層部はマジで血も涙も無えからなァ。アンタらが簡単に返り討ちにされちまうようじゃあ、俺らも皆殺しにされかねねぇ。いや、確実になる」
「成程な」
「成程な、じゃあないワよ。下手したら、今、全滅していたかも知れないじゃない」
「まったくだね……」
「自らの肉体によって実体験で補完しようとするとはッ、殊勝な心がけだなッ!」
ヴィラデルとシアは理解ができないばかりに呆れて首を横に振ったが、モログは彼らに謎の称賛を送る。
「アンタの事は情報に無かったがな、チャンピオン。さて、それじゃあこれからよろしく頼むぜ! 俺の名はスケレミリウス! スケリーって呼んでくれて構わねえですぜ、『威力偵察隊』の皆様方! いいや、『帝国殴り込み部隊』のお方々!」
背格好も含めて体格はまずまずであるにもかかわらず、やや頬のこけた男はそう名乗った。
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