364 第22話31:WAR BUSTER.




 一方、右側通路のハークは異常を感じ取っていた。ただし、異常とはいえ全体から見れば悪い変化ではない。むしろ良い変化と感じられた。


『ご主人! なんかコッチ、増えていないッスか!?』


『よく気がついたな、虎丸! 儂もそう感じた! 恐らくは向こう左側通路側が押しておるのよ!』


『それでコッチにしわ寄せ回ってくるのはカンベンして欲しいッス!』


『確かに少し疲れてきたな。だが、必ずやれる筈だ。儂と虎丸なればな!』


『!! モチロンッス!』


『よぉし、では行くぞ!』


 念話を終えると同時に、ハークは準備を完了させた刀技SKILLを発動させる。全く別の動き、次の行動の用意を行いつつも会話を続けられるのが念話の良いところだ。


「一刀流抜刀術極奥義・『神雷』ッ!!」


 瞬間、音速の世界に突入するハーク。このSKILLならばそもそも対応ができる者は本当にごく一部に限られるが、近接戦において魔導力や魔法力が無い代わりに破格の能力数値を誇るキカイヘイの中でもたった一つ、ハーク達から視れば能力値の穴があった。

 それは速度能力である。

 ある意味コレを補うように、キカイヘイは背中と足裏の噴射装置を付随されたのかもしれない。

 しかし、動き出しと反応速度だけはどうしようもない。いや、それももしかすると習熟することで可能となるのかもしれないが、今のところその兆候をホンのわずかであっても示す者はいない。


 当然だろう。今まで絶対に必要の無い挙動であった筈なのだから。彼らに必要だったのは、情け容赦なく殲滅する効率のみであった。


 そしてハークと虎丸は、終始この点をとにかく突きまくっている。

 今も欠片も反応のできぬ一体を斜めに搔っ捌いて両断、続く後ろ二体目胴体部装甲前面を切り開いた。

 よろけるも重要機関は無事であった二体目のキカイヘイは、バランスを回復させてから反撃に転じようとする。

 無論、そんな暇などを与える義理はない。


ガウッウ・ウォオオソニッククローーー!」


 撃ち出された斬爪が斬り口から内部へ入り込み、その動力源を破壊していた。




   ◇ ◇ ◇




 ハーク達が担当する右側通路のように明確に狙っていたワケではないが、ランバート、シア、フーゲイン、そして新たに加わったクルセルヴもこのスピード差を半ば無意識に利用していた。


「『音速斬撃・二連強襲ソニックブーム・アサルト』!!」


 重なり合う巨大な刃が巨躯を名の通り強襲する。腹部をえぐり、大きく仰け反らせた。


「うっ、おおおおぉおお!」


 そこを追撃する影一つ。フーゲインだった。

 もう精も根も尽き果てかけていたが、根性で走り切る。


「『双ッ功龍ダブルッッドラゴンブロー』!!」


 最後に残されたMPを使用して打てる最大SKILLがこれであったが、充分であった。

 振り回して打った左右の連打が、斬り裂く寸前までいった胴体部の傷に止めを刺し、力づくで押し広げる。


「今だ、クルセルヴ!」


「『音速斬撃ソニックブーム』!!」


 顕わになった無防備を絵に描いたキカイヘイ中心部、魔晶石に的確な一撃が入った。


「ブ…………ガガー……ピッ……」


 相も変わらず奇妙な断末魔を上げ、瞳の光を失ったキカイヘイが後ろにゆっくりと倒れた。


 ———ボッォオオン!


 直後、内部爆発の音が聞こえてそっちを振り向くと、同じく事切れたキカイヘイが倒れ伏すところであった。

 同時に、フーゲインと同様に全てを出し尽くしたシアが荒い息を吐きつつ蹲る。

 だが大丈夫だった。今しがたシアが倒したのが、この周辺にいる最後のキカイヘイであったからだ。

 フーゲインは揺れる足を抑えつけるようにしながら、もう一度それを確認すると、ようやく膝を折って地面に座りこんだ。周囲にはもはや、動かなくなったキカイヘイの残骸しかなかった。


「はぁっ……、はぁっ……!」


「大丈夫か? フーゲイン殿」


「使い切っちまった。しばらく動けねえ。クルセルヴ、お前は?」


「我らは途中から参加しましたから、まだ半分程残っております」


「……そうか。ならスグに向こう右側通路を手伝ってやってくれ。こっちのしわ寄せも、ハーク達に行っちまっているハズだからな」


「了解です!」


 迂回して右側通路へと向かう聖騎士団の背中を見送ると、フーゲインは座りこんだ体勢のまま、もう一度だけ周囲を確認した。


「あ、あれ……? 大将は……?」


 霞み始めた視界の中、いる筈の人物を視認できぬことを不思議に思うが、まだこの時のフーゲインは、逸早くハーク達のもとへ救援に向かったのだろうとしか考えなかった。




   ◇ ◇ ◇




 一時、混沌の直中へと突き落とされた後方支援部隊だったが、無事にその機能を回復していた。

 ただし、矢継早の報告が飛び交うのは変わりがない。

 とは言っても苦々しいものばかりではなく、中には嬉しい報告も含まれていた。


「ベルサ様! 視認範囲のキカイヘイの数、残り三十を切りました!」


「……ようし! やった! やったぞ! あと少しだ! だが、その情報はまだ前には届けるな! 気を抜かせてはならん!」


「りょ、了解です!」


「負傷者の報はどうか!?」


「負傷者多数! もうすぐ回復薬が尽きます!」


「……分かった! 一人でも多くを助けるのだ! ただし、戦線まで復帰させる必要はないぞ! 効率良く、しかし惜しみなく使え!」


 ベルサ自身も難しい注文をつけていると百も承知であった。


「わ、分かりました! しかし、ベルサ様も負傷しているではありませんか!? ご一緒に治療を!」


 報告する兵の一人がベルサの様子を見咎めて言う。彼の言う通り、ベルサのブレストプレートの奥、腹部が真っ赤に染まっていた。


「……ン? これか? 心配要らんよ」


 殊更に優しい声で珍しく返す老兵に、回復班担当の報告官は不安を覚え、重ねて訊こうとする。


「し、しかしっ……!」


「大丈夫だと言うに。コレを見よ」


 ベルサはまだ血塗られていない腕の箇所を傷の上に当てる。そしてその部分を報告官から充分に見えるようにした。

 血は全くついていなかった。ベルサの毛は白いため一目瞭然である。


「な? 既に血は止まった。軽い傷よ。さっ、ワシのことよりも、早く他の若い衆たちの治療にあたってくれ」


「りょ、了解です!」


 泡喰って駆けていく年若い報告官の後ろ姿を見送りながら、ベルサは深く息を吐いた。


「フゥーーーーーー……」


 そして遠くを、まだ残るキカイヘイの集団へと視線を送る。


(……殿、後は頼みましたぞ。そしてハーク殿、姫様と殿下をどうか……)


 祈るような気持ちで見つめた視界の先で、また一体、粉砕されたキカイヘイが宙に飛ばされていた。




 同じ頃、右側通路では、ハークが奥義・『大日輪』にて三体まとめて撫で斬りにし、装甲表面を斬り裂いたキカイヘイ相手に虎丸が『ランペイジ・タイガー』を決めてトドメを刺したところであった。


『ご主人! 今ので敵キカイヘイの数が二十に達したッス!』


『了解だ! 仕上げといくぞ! 日毬、準備を頼む!』


「きゅんっ!」


 短い声で了解の意を聞き、ハークはぐるりと後ろを振り返って叫ぶ。


「マクガイヤ殿!」


「は、はいっ!」


 マクガイヤとは、右側通路でハーク達の守護を担当するワレンシュタイン軍小隊長の名であった。

 ハークの指示は続く。


「総員! 大盾を信じ、前方へ掲げよ! 残りの魔力を全部籠めて、突撃!」


「りょ、了解っ!! 行くぞお前たち! なけなしの全てを今使えぇ!!」


「「「「「うおぉオオオオオオオ~!!」」」」」


 マクガイヤに否やは無かった。何をする気かは全く分からないが、あの少年の言葉に従えば、悪いことなど起こりようがない、そうとまで思えた。

 迷いすらなかった。仲間たちも全く同じようで、誰も臆することすらなく意気を上げる。




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