308 第20話07:教えるということ
「サポート要員? かのナンバーワン冒険者サンにしては珍しいワね。でも結局、ハークを連れてくってコトは一緒じゃあない?」
「いや、戦うのはヤツ一人でやるらしい。ただ、コトはウチの領とか国全体に関わることだからな、万が一に備えて俺も同行すると伝えたら、ハークも共に寄越してくれと要求された」
ヴィラデルの質問に対するランバートの答えで、ハークは増々確信を深める。
「へぇ、どういうことかしら?」
「道中までの護衛戦力、ということでしょうか?」
「それはありそうな気がしますね、アルティナ様。湿地帯は数多くの魔物が生息していますから」
「お嬢の言う通りかもしれねえが、ひょっとすると回復目的かもな」
「ああ、ソレ充分にあり得るワねぇ。ハークのように高い回復魔法の適性を持っていながら、高レベルの敵相手にキッチリ自分の身を守り切れるような実力を持つ者は意外に少ないもの。何か面白そうになってきたワ。ねぇねぇ、アタシも一緒に行ってイイ!?」
「まぁ、待ってくれヴィラデルさんよ。まだハークからも何の返事を貰ってねえからよ」
勝手なことを話し始めた者達を宥めるかのように、ランバートがハークに話を向けた。
「無論、同行する」
「おぉし、ありがてえ! 出発は五日後の午後からだ! よろしく頼むな!」
「承知した。ところでその、五日後の午後、という出発日もモログ殿が指定されたのか?」
「ん? そうだぜ」
成程、と心の中でハークはさらに納得する。ギルド寄宿学校の半休日にモログがわざわざ合わせてくれたのだ。相当にこちらの都合も考えてくれていることから、彼の本気度が推察できた。
〈実に有り難いことだ。この機を逃すわけにはいかぬわな〉
そんなことを頭の中で思っていると、横のヴィラデルが駄々をこね始めていた。
「ねぇってばハーク! アタシも行ってイイでしょ!?」
「む? 儂が許可できることなのか?」
「ああ、連れてく人員は従魔殿も含めてハークに一任すると聞いているぜ」
「そうか。ま、貴様ならば構わんだろう」
特に深く熟考するでもなく答えるハーク。その様子を見て二人の少女が手を挙げながら言う。
「ハ、ハーク殿! 我らも行きたいです!」
「リィズの言う通りです! 私も……!」
「リィズとアルティナ姫様、お前たちはダメだ」
「な、何でですか父上!?」
よりにもよって自分に対して常に甘い実父から言下に却下されて、リィズは即座に喰ってかかる。が、返された答えは至極当然の理路整然としたものであった。
「リィズ、相手のモンスターは俺と同レベルだ。お前たちがもし狙われたら、俺もさすがに守ってやれる保障は無い」
「そ、そうですね……。申し訳ありません」
「まぁ、お嬢と姫さんは留守番してな。俺が行ってくるぜ。その日の午後は俺も非番だからな。俺なら良いでしょう、大将?」
「フーゲイン……、一応お前は謹慎中なんだぞ? 解ってんのか?」
本来軍人たるフーゲインが非番なのは、謹慎中なためにギルド寄宿学校で講師を臨時に務めているからだ。
リィズに続き、フーゲインも眼に見えて消沈する。
「す、すいません……」
「まぁいい、お前の実力なら心配無えだろう。な、ハーク」
「ああ。フーゲイン殿が問題であれば彼と引き分けた儂も問題となってしまうだろうからな」
「ちぇっ、分けたとはいえ特別武技戦技大会優勝者が気ィ使ってんじゃねぇよ。だが恩に着とくぜ」
「要らんよ。我らはモログ殿が依頼達成をする間に彼の後ろを守り続ける羽目になる可能性もあるのだからな」
「ン? あ、そか」
「ハークの言う通りさ。湿地帯が危険地帯にゃあ変わりねえんだ。場合によっちゃあ俺ら全員壁役よ。浮かれ気分なんかで行くんじゃあねえぞ。気ィ引き締めていけ」
「お、おう。分かりましたぜ、大将!」
その後、今後の予定を二つ三つ確認し、その場は解散となった。
結局、モログのタラスク討伐に同行することとなったのはハークとその従魔、虎丸に日毬、そしてランバート、フーゲイン、ヴィラデルの計四名と二体に決まった。
◇ ◇ ◇
翌日、ハークはギルド所属第七寄宿学校に所属する、約半数の生徒達を前に講師として校庭に立っていた。
特別武技戦技大会が無事に終わり、いよいよこの地の寄宿学校への転入をアルティナやリィズ共々快く認めてくれた学園長ルナからの依頼や、戦士科に所属する同校生徒たち全員の嘆願に応える時がやってきたのだ。
則ち、ハークの持ち得る刀を扱う技術、その一端を、同期の生徒達に対して伝授する時間という訳である。
「では、本格的な授業を始める前に、各々どの型の刀を使うかを選択してもらいたい」
第七寄宿学校の戦士科所属生徒の約半数であるのは、戦士科を選択する者の数が多く、どこのギルド寄宿学校であっても大抵二クラスとなるからである。
その中でもここ第七校は特に戦士科受講生の数が多い。
百を超える数の生徒達は、ハークの前に横一列で並べられた四種類の形状の異なる刀を模した木剣の前にそれぞれの意思でもって集まっていく。
四種類とは、ハークの向かって右から順に、アルティナやシンの使用する小太刀型。ハークの使う、彼曰くごく標準的な形状の、つまりは剛刀型。そして同じくハークの使用していた斬魔刀のような大太刀型。最後に、リィズの使う、刀身も長いが柄も同等までに長い長巻型である。
獣人を始めとした亜人種族はヒト族よりも利き腕偏重の者が少なく、両腕共に器用に動かせる者が多いという。
このことから、この世界一般的な戦士系の武装である剣と盾、もしくは双剣に使用できる、アルティナらが使う小太刀型に人気が集まると考えられていたが、結果は全く別のものになった。
一番人気は圧倒的に、ハークの一昨日の大会で主武器であった斬魔刀と同じ大太刀型であった。
このあたりは、本大会における彼の活躍が大いに影響したと考えるべきであろう。単純に、ハークがメインで使っていたのだから強い、だから使いたい、という趣向に違いない。自分の戦い方に合う合わないは関係無く、という訳だ。
二番人気は、リィズの扱う長巻型だ。以下、剛刀型と小太刀型が、ほぼ同数である。
これは、この街オルレオンどころか領内にて超有名人であるリィズの人気が起因となるものだと思われた。
「オイ、お前ら! 気持ちは分からんでもねえが、真面目に選んだんだろうな!?」
講師初心者である筈のハークの補助を行うために何人か脇に控えていた講師の一人であるフーゲインが思わず苦言を呈す。
しかし、幾人かがフラフラと移動を再開する程度で、大勢に影響はない。
これにはさすがにハークも一言注意をせざるを得なくなった。
「おいおい……、皆本当にそれで良いのか? 自分の戦法や身体に適合したものを今一度選んでくれ。相談し合ってもいい」
ハークの一言で場は騒がしくなる。すると一人の身体の大きい生徒が片手を挙げた。
本当に大きく、身長は四メートルを超えている。恐らく巨人族か、その血に連なる者なのであろう。
眼と手真似で発言を促すと、彼は遠慮がちに話し始めた。
「あ、あの、おいらはこの学園に入学してから初めて剣を握ったんです。戦う方法も。恥ずかしい話、今の自分の戦法とかがしっくり来ているものなのかも分かりません。だ、だから、どうせならハーク様みたく強くなれるモンが良いんです。自分の戦法や適合って、どう判断したら良いんでしょうか?」
「おお、そうか! うっかりしていた! そうだよな、まだ戦い自体に慣れぬ者もおるのも当然だ。ここは基礎から教授する場だものな。ところで君、儂に対して様付けはいらないぞ。今はこうして講師の立場としてこの場に立たせてもらってはおるが、本来ならば儂とて君らの同期なのだからな。呼び捨てで頼む」
「そっ、そんなっ! あ、あんなスゴイ実績上げたヒトを呼び捨てなんてムリですよ!」
「ぬう、そうか? ではせめて、さん付けてお願いする。正直、こそばゆくて敵わぬのでな。さて、それでは各種の特徴と、自身の戦い方や身体能力に適合するか否かの解説を行うとしよう。皆、よく聞いてくれ」
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