275 幕間⑱ この世で最も恐るべき存在、ドラゴンについて




※以下は、ハークがソーディアン寄宿学校魔生物科講師エタンニ=ニイルセン著の冊子からの内容を基に、文献や伝承、さらにはエルザルドからもたらされた情報までもまとめて、この世界最強の存在と言われる龍族の古強者、『最古龍』について書き記し、編集したものである。

 普段は神代の『古代造物アーティファクト』級『魔法袋マジックバッグ』内に収納しており、さらに実物の文体は、この世界で通じる口語体で書くのではなく、古典文語体にて記述されている。※




 この世界にて最も危険な存在、龍族。その最たる者達に対する現時点で我が持ち得る知識をここにまとめ、描き記す。

 ―ハーキュリース=ヴァン=アルトリーリア=クルーガー―



・エルザルド=リーグニット=シュテンドルフ

 最古龍中の最古龍の一柱、だった蒼き巨躯なる龍。老人寄りの男性口調で話す。何者かに操られた状態で戦うこととなり、最後は意識だけが覚醒した状態で、自決に近い形のまま最期を迎えた。

 単に介錯を行ったようなものであったが、虎丸と共に深き感謝を受けることとなり、自らの精神を構造ごとそっくり己の魔晶石へと書き写し、知恵と知識と経験とを惜しみなく授ける存在となり替わってくれた。

 ただし、『でんしああかいぶ』のような記録体なので、思考能力はかなり乏しくなっているとのこと。さっぱり言葉の意味が分からないが、これはエルザルドの魂が既に失われていることに起因するらしい。

 ちなみに死したエルザルド本体の魂は、魔晶石に書き写された存在とは別であるらしく、今頃、何処かの地に一切の記憶を失った形でスモールドラゴンとして転生していてもおかしくはない、とのこと。

 生前は人間種に対しては中立派だったようである。



・ガナハ=フサキ

 最古龍中の最古龍の一柱。空色の鱗を持つ。無邪気な少女の如き口調で話す。

 『空龍』の二つ名を持ち、その名の通り常に空を飛んでいる。飛行速度は龍族一と評され、つまりは全生物一とも考えられる。自由を愛する心優しい性格で種族だなんだで差別区別したりしない。良い奴は良い、悪い奴は悪いという考え。ただし、怒らせるのは厳禁。ひとたび怒らせれば、その者は地獄を見ること必至であろう。

 幼き頃、エルザルドに面倒を見て貰ったこともあり、誰よりも懐いていたようだ。鱗の色が似ているのもそのためらしい。

 人間種に対しては穏健派。



・アレクサンドリア=ルクソール

 最古龍中の最古龍の一柱。紅蓮の如き真っ赤な鱗を持つ獄炎龍。尊大な女性口調で話す。

 かつては暴れ龍で、人間種を弱者と見下していたが、とある人物に料理を振舞われたことをキッカケに認識を改めた経緯がある。以降、人間達が開発する新たな料理を楽しみに生きる龍族一の美食家。その為、新たな料理を生んでくれる可能性を持つ人間種を極力殺したくは無いものの、無礼な者、勝負を挑んでくる者には容赦はしない一面も持つ。

 とはいえ、人間種に対しては穏健派、どころか数少ない擁護派に近い。

 好きな料理はビーフシチュー。まだ食べたことがない料理だ。薄味はあまり好みではないらしく、酒も嗜むらしい。



・キール=ブレーメン

 最古龍中の最古龍の一柱。茶系の鱗を持つ。男性の老人系口調。落ち着いた性格で人間種に対しても穏健派。ここ三百年くらいでアレクサンドリア=ルクソールの勧めもあり人間種の料理の味に目覚めた。海産物系の味が大好きで、米から作る酒ならば何トンであろうとも飲めると豪語するほどだという。

 元々、各地のエルフ族との付き合いがあるらしいが、姿を現す頻度自体は非常に少ない。

 一つのところに留まることはなく、陸海空を移動し続けている中、特に大海原を回遊して過ごしていることが多い。



・アズハ=アマラ

 無口な古龍。白銀の鱗を持つ。氷の龍で全てに無関心。やや女性寄りの中性的口調。住処は凍土の氷山など。歯に衣着せぬ毒舌家だが、本質を見極めてモノを語る。人間に対しては静観派。というよりも無関心派で、これは同族、同族以外、どんな存在に対してもあまり変わりない。ただ、同族のガルダイア=ワジだけはあまり好きではないらしい。

 その性質、性格ゆえ、あまり他者と関わること、表に出ることを好まず、そのため、古くから存在する龍の一柱であるにもかかわらず、人間種の間にもアズハに関する伝承は僅かしか存在しない。



・ダコタ=ガイアスリナム

 落ち着き払った雰囲気を持つ古龍。男性口調。非常に珍しいことに鱗の代わりに真っ白な体毛を備え、大抵のドラゴン種が使用可能な炎か爆破属性の『龍魔咆哮ブレス』の代わりに超低温の『龍魔咆哮ブレス』を吐き、『白龍』の二つ名を持つ対象と思われる。住処はアズハ=アマラと同じく凍土だが、転々としている。

 『知識欲』が非常に高く、それがゆえか世代の中でも図抜けた能力を持ち、エルザルドやガナハに匹敵するかも知れないほどの実力を持つという。溜息を吐くと、それが元でやがて吹雪へと発展してしまうほど。

 思慮深く、戦闘を時間の無駄な浪費と考えており、戦いを挑まれようとも応じることは少なく、飛び去ってしまうことがほとんど。また自然を愛してもおり、その意味でも戦いを忌避している。

 人間種に対しては穏健派。



・ガルダイア=ワジ

 好戦的な古龍で、赤銅色の鱗を持つ。男性かつ武人口調。浅はかな面があり、その昔、ヒト族に乞われて崇められて煽てられた結果、好き勝手に力を使いまくって世を混乱に陥れてしまった過去がある。古王国が滅亡したのは彼の所為とも言え、その頃の所業は今も人間種たちの世界に影を落としているが本人に自覚は無くヒト族を恨み、未だ敵視しているらしい。

 それ故、たった一体だけではあるがヒト族に対してだけの徹底抗戦派。亜人種には恨みはないのだが、ヒト族に味方するのであれば殲滅も止む無しと思っている。

 ダコタと同じく炎や爆破属性の『龍魔咆哮ブレス』を吐けぬ代わりに毒と電撃の『龍魔咆哮ブレス』を吐く。

 彼の造形物は、人々から『聖遺物レリック』と呼ばれる伝説に語られるような物品のほとんどであり、ロズフォッグ領トゥケイオスの街にて使用され、同都市を滅亡の危機にまで陥れた『黒き宝珠』も、このガルダイアが造り上げたものである。

 『聖遺物レリック』は、前述の『黒き宝珠』のように超危険なものばかりではなく、ものによっては有用なものもあるとのことなのだが、現在では他の龍族やその協力者たち、そしてガルダイア自身の手によって、その大部分が回収されているらしい。しかし、現時点で回収されていないものに関しては、もはや作成主であるガルダイアであってもその所在の行方は不明であるという。



・パース=キャンベラ

 比較的若い古龍の一体。漆黒の鱗を持つ。ダコタと同じく非常に知識欲の高い非常に聡明な龍。ただし、パースの研究分野はダコタのそれと違い、技術開発などの実用的なものだけを好む傾向がある。

 龍族であることに誇りを持っており、それゆえに昔は露骨に他種族、特に人間種を、自分達が管理管轄してやらなければ自分達の住むべき土地すらも破壊する劣等種族、と見下していたが、前述の研究をヒト族の協力を得て行ってみたところ遥かに効率が上がった経緯により、今では定期的に優秀な人間種を共同研究者として迎え入れるほどになり、時にはパース自ら育て上げることもあるらしい。

 現在、後述するロンドニアと同じく、人間種とマトモに交流を続けている最古龍の一体。その意味で、人間種に対しては穏健派。



・ヴァージニア=バレンシア

 比較的若い古龍の一体でありながら、上の世代にも全く引けを取らない圧倒的な実力を持つ。女性口調で体色は紅。体毛と鱗を備える本当に珍しい姿をしている。

 実は龍人として産まれた存在であり、そのこともあって実力が高い。幼き頃から若き頃までは人間種の世界に解け込んでいたため、人間種の良い所も悪い所もよく熟知しており、その意味で最も人間種に寄り添った存在であり、彼らの守護者でもある。人間種にとっては穏健派というよりもただ一体の擁護派。

 若き頃、人間界にて活躍した行為の多くは伝説となって語り継がれている。魔族達を現在の魔族領に閉じ込めた張本人の一柱でもあるらしい。



・ブルガリア=アールレン

 比較的若い古龍の一体。女性口調で姉御肌。新緑の様な鮮やかな緑色をした鱗を持つ。裏表のない性格で判らないことは判らないとハッキリ言う。幼いころ、ボルドー=マルサンと共に生活していたことから姉弟に似た関係を築いており、何かと世話を焼こうとすることが多い。人間種はよくわからないので静観派。

 好戦的ではないが、戦うことは嫌いではなく、実力も高い。



・ボルドー=マルサン

 今のところ最も若い古龍の一体。好奇心旺盛な男子口調。光沢のある深緑色の鱗を持つ。人間種が使う長距離相互通信法器の周波数がボルドーの『通話コール』受信領域に非常に近い関係で、意図せず内容を傍受してしまうことが多く、その為か実は人間種に詳しい。

 ゆえに人間種は侮りがたいと考えているようで、穏健派。

 ブルガリア=アールレンに対しては慕ってはいるけれども、同時に口煩い存在であるとも思っているらしい。戦えば強いのだが、戦闘は大嫌い。



・ロンドニア=リオ

 ボルドー=マルサンと同程度のかなり若い古龍。ただしボルドーよりは年長。元気の良い男子口調。岩の様な甲殻を持つ黄金色の巨大な地龍。受けた恩義は絶対に忘れない律義者。龍王国ドラガニア開祖、初代女王と幼き頃出会い、共に苦難を乗り越え合った経緯から、彼女の子孫をずっと守護している。

 龍王国ドラガニアは西大陸第三位もの国土の広さを持つが、その大部分、約九割が砂漠地帯でその中心地にあるオアシスに首都が存在し、そこにロンドニアが鎮座している。オアシスの水が枯れず、誰にも攻められることなく平和でいられるのは間違いなく彼のおかげ。

 ただし、実はロンドニアにとっては、ドラガニア王家以外はどうでもいい存在であるため、ヴァージニア=バレンシアのように人間種全体を守護する訳ではないらしい。

 一応、穏健派。ここ数百年で、アレクサンドリアやキールの勧めにより人間種の料理の味を知った。醤油系の味が大いに好みとのこと。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る