257 第17話20:決着‼ 帝国の切り札VS王国の最終兵器!
これが普通の生命体であるならば、反応は違っていただろう。片腕をもぎ取られたのだから。
しかし、『キカイヘイ』にとっては、通常、生命体が受けるであろう痛覚や、四肢の一つを失う衝撃も皆無、もしくは少ないものであるかのようだ。
即座に残る右腕を構えたのが、その証拠である。
腕飛ばしが来る。誰もが確信できる動きであった。
「ロケットブースト・パンチ」
肘の噴射装置が点火される。
ハークが組んだ
一度だけ、この時のみ、どうしても反撃を許してしまう。寧ろ、甘んじて受けなければいけない。
狙いは未だ空中にいるフーゲインだった。
彼は不敵に笑う。予想通りだ、と。
ランバートを抜かした戦闘組の中で、最も物理防御能力、耐久力双方が高いのは圧倒的にフーゲインである。
だからこそ、彼は右腕を攻撃する役を買って出たようなものだった。放たれる右腕で反撃可能な位置にいる者達の中、彼が最も攻撃され易いからである。
迫る噴射鉄拳に対し、フーゲインは即座にとあるSKILL発動の構えを取る。
ハークとの決闘時、遂に使用できなかった秘技中の秘技だ。
「『
相手の攻撃方向と攻撃手段、更には攻撃を受ける瞬間、これら全てを事前に見極め可能であるならば、受けた攻撃に反応し、自動で瞬時に反撃する技である。
ハークがあの戦いで二度目の距離を取った際に、『ヤマツナミ』を使った突進戦法を再度選択してくるならば、そこに合わせて使用するつもりの技であった。
結局、双剣の構えを取られ、窮地に陥る結果となったが。
噴射鉄拳は、空中で待ち構えるフーゲインの左腕にまず接触した。
さすがに重さも威力も別格だ。左腕に痛みが奔る。が、それこそがSKILL発動の合図だった。
攻撃に対して無理に逆らう事なく、受けた勢いを利用し、身体を高速回転させる。その勢いのまま旋風脚が飛んできた拳の横合いに決まり、見事、鉄拳を逸らしていた。
一方のハークは、更なる追撃を目指し突撃していた。元より腕一本で済ますつもりなど毛頭ない。ここは攻め時なのだ。
虎丸がもぎ取った腕の付け根より妙な管が垂れ下がっており、
『キカイヘイ』の内部から飛び出た数本の蔦の様な管はどう視ても、いわゆる生物感というものに欠けていたが、何かの液体を放出していた。
血液の様な赤ではなく、薄い土気色で粘性も持っている。
ただ、今はそのことに意識を向けるべきではない。
注視する一点は同じだが、ハークの意識の方角は『精霊視』に傾いていた。
ハークはホンの数日前に、トゥケイオスの地にてエルザルドから聞いた『スケルトンは魔物だが、動きの原理はゴーレムに近い』という話を思い起こしていた。
そして、外見からに皆がまずゴーレムだと予想し、その後、ヴィラデルの『もしかすると、ゴーレム作成技術を流用しているかも』という推測の元に、トゥケイオス防衛戦中盤、その最後に出現した巨大なる髑髏の集積体に当てはめる。
あの時、ハークは集積体の胸部中心部にあった魔石の集合体を攻撃し、粉砕することで敵の撃破に成功していたのである。
同じような原理、流用された技術。
ならば、と当たりをつけ注視するハークの『精霊視』が、巧妙に隠されつつも千切れる寸前の、魔力により練り上げられし繰り糸を確かに発見していたのであった。
僅かに視得た魔力の糸より逆算し、ハークは弓引くように『斬魔刀』を引き絞り、狙いを定める。
「ここだ! 奥義・『
ハークは、虎丸がもぎ取った『キカイヘイ』の左腕、そのぽっかりと開いた傷口めがけて渾身の『朧穿』をねじり込む。
旋回突きは内部より露出した黒ずんだ蔦の如き管を思いのほか簡単に貫き、ハークの狙い通り『キカイヘイ』の胴体内部中心にまで到達、そこへ配置されていた魔晶石と思しき物体を粉々に打ち砕いていた。
敵の構造の要への破壊達成、その手応えを確かに感じ、ハークは刀身のほぼ全てを『キカイヘイ』内部に納めた『斬魔刀』を素早く、そして注意深く引き抜いた。
「ブ…………」
「ぬ?」
「……ブ……ピピー、ガガッ……」
奇妙奇天烈な断末魔を残し、『キカイヘイ』は一ツ目の灯火を失うと同時に力無く崩れ落ち、それきりピクリとも動かなくなった。生物体にはしばしば見られる、神経の痙攣の如き仕草も一切無かった。
「や、やったのかい、ハーク?」
「どうやらそのようだ」
多少、おっかなびっくり近寄ってきていたシアの質問にハークは答える。恐らくではあったものの、危機感はもはや感じなかった。完全に沈黙している。
「一時はどーなることかとも思ったケド、ハークの予測が当たったようね。ちょっと呆気ないくらいだったワ」
勝手なことを言うヴィラデルの言葉は無視し、ハークはフーゲインに話し掛けた。
「フーゲイン殿、無事か?」
「ああ、ちょっと左腕を痛めたぐらいさ。問題無え。早く大将に加勢しようぜ」
「そうだな。しかし」
ハークはほぼ後方へとくるりと振り向く。
「さすがは名に聞こえし最強が騎士だな」
「全くだねぇ」
ハークが感心するかのように呟いた言葉に、シアも同意を示す。
彼らの視界の先で、ランバートはまさしく『キカイヘイ』と一歩も引かずに一騎打ちを繰り広げていた。
襲い掛かる巨体から引かず、打ち下ろされる拳を盾で受けて止め、いなし、時には余裕を持って躱している。
自信満々であった通り、未だ真面な攻撃を一撃たりとも受けていないかのように視える。彼にとって、拳を飛ばしてくる攻撃と、強烈な熱を浴びせかける攻撃以外は、あまり脅威ではないかのようだ。
「アタシたちエルフ族には羨ましい限りヨねぇ。どんなに頑張ってもあんなにカッチコチには成れないもの」
ヴィラデルが無いもの
ただ、ランバート側からの攻撃が敵の装甲を貫通できるかどうかは、また別の話だ。
「おう、早えな⁉ もう片付いたのか!」
複数の視線に気がついたのか、ランバートの方から声がかかる。
「うむ! 戦いに加わろう! 攻略の仕方も判った!」
ハークが宣言の如くに助太刀を申し出ると、意外な言葉がランバートより発せられた。
「ホンの少しだけ待ってくれや! コイツに俺の攻撃が真っ正面から通じるかどうか、まだ試してねえ!」
後顧の憂いが無くなったので、自分の最大の力をぶつけ、試してみたくなったのだろう。
ハークにもその気持ちは充分理解できた。しかし、そうなるとランバートは先程の『剛撃』と『瞬動』を高い次元で併せたかのような技、『瞬撃』より強力な攻撃手段を、未だ持っているということになる。
「おおっ、大将! アレをやんのか⁉」
「応! いい機会だ、アイツにも見せてやるとするか! リィズ‼」
ランバートは戦いの際中、一息吸うと愛娘の名を大声で呼ぶ。
途端に、やや離れた場所より慌てた返事が返ってきた。父親の指示の元、リィズはアルティナ達と共に重傷を負ったエヴァンジェリンを連れて些か距離を取っていたのである。それでも、眼に届かぬ場所まで、という訳でもない。
「はっ、はいっ‼」
「その場所からでも何とか視えるだろ⁉ よーーーく目を凝らして視ておけよ! 今から見せるのが、我がワレンシュタイン家の前身、初代ウィンベル卿から脈々と受け継がれてきた技! いつかお前が当主として受け継ぐSKILLだ!」
「えっ、ええっ⁉」
リィズは父親が突然開始した超展開に確実についていけていないが、ランバートは構わず続けていく。しかも、『キカイヘイ』の攻撃を完全に防ぎながらである。
「よっ!」
ここでランバートは後方へと大きく飛んだ。明らかな助走距離の確保、ハークにはそう視えた。
構えを取る。腰を落とし、槍と大盾を前方に向け固定するかのようだ。突撃の体勢であることは一目瞭然であった。
「我らが開祖、『赤髭卿』は実に解り易く名付けたよ! 『超必殺技』、ってなァ!」
絶対に初撃で防ぐこと適わぬ、故に必殺の奥義と言える技は確かにある。それを『超』えるというのだから、些か大仰とも思えたが、ハークも刮目せざるを得なかった。
「行くぞぉ‼」
音がする程に大地を踏みしめたランバート。
別に娘から固唾を飲んで一挙手一投足を注目されているから張り切って、ではない。そうと信じたい。
その証拠に、ランバートの周囲一帯が、彼が発する魔力に飲み込まれるかのように包まれていく。
濃密な闘志を内に秘めた大気中の魔力。正に『闘気』。
「ゲット・レディ!」
ランバートがハークには解らぬ謎の言葉を発した直後だった。距離を取っていた筈の彼の身体が、めり込むように『キカイヘイ』に接触していた。
ハークの眼にも僅かにしか捉えられぬ速度だった。視えたのは本気の虎丸と何度も共に戦ってきたが故である。つまりは本気の虎丸の速度、最速且つ最強の技でもある『ランペイジ・タイガー』と同等の速度に迫る一撃であると言えた。
ランバートの大盾は、『キカイヘイ』の腹部にあたる装甲に人間大の窪みを造り、大槍は刃の中ほどまでが埋まっていた。恐らく、というよりほぼ確実に装甲を貫通し、内部まで到達している。
だが、ここで終わりでもなかった。
音を超えた圧倒的なランバートの速度に引き摺られるように、巨大な鉄槌を模した濃密な『闘気』が遅れて『キカイヘイ』に衝突したのである。
「バスタァアアアアアアアーーーー・ウォーーーーーーーーーー‼‼」
そして闘気が爆発した。そうとしか視えなかった。
内容を知るフーゲイン以外は、揃って眼を限界まで見開いていた。虎丸でさえも。
ハーク達に対してあれほどの堅牢さを誇っていた装甲が
異常な威力であった。『キカイヘイ』は自身の肘から先を砲弾に変えて飛ばしたが、ランバートの場合は全身を砲弾と変えたに等しい。
要するに、超速のぶちかましである。単純なだけに強力で、それだけに恐ろしい。
確かに『超必殺』技と呼ぶに相応しいのかもしれない。分かっていても、凌ぐことは容易ではないことだろう。
防ぐことはまず不可能、躱すも視えぬでは博打、技に入られれば止めようもない。
憐れバラバラとなった『キカイヘイ』が荒地の上をガランゴロンと転がっていく。
ハークがトドメを刺したもう一体と比べて、遥かに完膚なきまで破壊された感があった。
だが、最も違うところが一つある。
『キカイヘイ』の一ツ目、赤い光が消えていなかったのだ。
「戦闘不能状態ヲ確認。『
前触れなく、ボッ、と炎が発せられた。血を全身から吹き出すかのように。あの日のゲンバを想起させた。
そして、ハークの視界の中で、千切れかけた魔力の糸を辿り、物理的に離れ離れになっていた両腕両足にも燃え移り、瞬時に炎が包み込んでいた。
「何ッ⁉」
「あの状態で⁉」
「何事だい⁉ あ熱つつっ⁉」
その時、ハークと虎丸は主従揃って一つの予感に捉われた。
ハークはうなじの毛がチリチリし、虎丸は髭を引っ張られるような感覚。
『ご主人!』
『うむ! 日毬、『
「キュンッ!」
『ヴィラデル! 貴様もだ! 日毬の『
『楽勝よ! 任せて!』
「皆、下がれ! 『
最後に一番手前へとハークが『
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