256 第17話19:決戦! 帝国の切り札VS王国の最終兵器!




 シアによって砕かれ、フーゲインの『零距離打ワン・インチ』によって完全に分け隔てられた巨大な岩塊だったものの隙間から、強烈な光が差し込む。

 その光の源二つの正確な位置が一瞬だけ解れば、ヴィラデル、そして日毬には充分だった。


『行くわよ、日毬ちゃん!』


「キューーーーーーーン!」


 ヴィラデルの指示の元、日毬は得意の全力発動で光源の目前目掛けて極大の『風の断層盾エア・シールド』を発動した。空気を遮断し、これにて発せられる敵からの熱量を少しでも防ぐ算段だった。近づくべく距離を稼ぐために。

 しかし、これだけではない。


「『氷壁アイスウォール』っ!」


 続けて、ヴィラデルからも手加減無しの氷魔法が放たれる。日毬の『風の断層盾エア・シールド』よりも更に『キカイヘイ』の目前で出現させた文字通りの氷壁は、断層構造になっており、敵の痛烈な光を散らすかのように撥ね返すと共に、そのシルエット、そして赤熱したかの様な光源を浮かび上がらせていた。


「行くぞぉっ! 虎丸! ランバート殿!」


「ガウアーッ!」


「応さァア!」


 ハークの最終突撃合図と共に虎丸、並びにランバートは駆け出す。

 虎丸は驚異的な加速力をいつものように発揮し、シアが破壊し、フーゲインが弾き飛ばした岩塊の群れを突き抜けつつ、瞬く間に音速を突破した。

 ほぼ全力に近い速度だが、今やハークもレベル三十。トゥケイオス防衛戦を経て、更なる加速に耐え得る身体となっていた。


 一方、神速の精霊獣に比べれば、いくらレベルで勝ると言えどヒト族では牛歩の歩みに等しい。堅牢な代わりに重い鎧を含めた重装備では尚のことである。

 だからこそ、ランバートはSKILLを発動させる。


「『瞬撃』ィイイイ!」


 もしこの時、ランバートの姿を横から視る者がいれば、その者の眼にはランバートが霞んだように視えたことであろう。

 『瞬撃』。それは、高速移動SKILLである『瞬動』を完全にマスターした者のみが使用できる、『剛撃』と複合させた超高等SKILLであった。

 その速度は凄まじく、初動だけとはいえ、虎丸に引き離されず突撃をする。


『今よ! 日毬ちゃん!』


 ヴィラデルからの合図と共に、日毬は自身の造り出した『風の断層盾エア・シールド』から意識を手放した。風の精霊たちによって紡がれていた強固な結びつきが突然解かれ、真空の盾が瞬時に霧散する。

 同時に、ヴィラデルも維持していた『氷壁アイスウォール』への魔力をカットする。

 途端に、『氷壁アイスウォール』はただの氷の塊と化し、熱量に負けて融解し始める。


 その氷の塊ごと、ハークは貫いた。


「奥義・『朧穿おぼろうがち』ぃ‼」


 そして、瞬き一つ分遅れて、ランバートの『瞬撃』も敵の顕わになった胸部装甲に到達していた。

 僅かな時間差の元、音すら置き去りに打ち込まれた双方の攻撃は、ともに装甲の内部にまでは刃は通っていないものの、赤き装甲板をものの見事に破壊し尽くし、その機能を完全なる停止にまで追い込んでいた。


 衝撃をモロに受けた二体が大きく仰け反り、たたらを踏む。


「クォオオッ!」


「ナニッ、『ブレストブレイズ』ガ、打チ破ラレルカッ⁉」


 二体の『キカイヘイ』は、それぞれ胸元の真っ赤な装甲板からバチバチと火花と煙を発しながらも、まるで慌てて庇うような動きと共に胸部装甲板を再び閉じる。

 途端に、いや、その直前から締め切られた鍛冶場かの如き周囲の気温が、平常なものへと戻り始めていた。


「やったぜ! ……って、何じゃあこりゃああ⁉」


 漸く周囲を視れる余裕となったフーゲインがまず気づく。周囲の景色が一変していることに。


「これは……、ホントに酷いね」


 シアが耐えかねたかのように言う。周囲の岩は焼け爛れたように黒ずみ、一部中まで溶ける一歩手前だったようだ。荒地とはいえ所々に見えていた小さく儚い草木はまとめて炭化、或いは灰と化して微風に漂う。


「虎丸。それにランバート殿も一時下がってくれ。取り敢えず仕切り直しだ」


『了解ッス!』


「おう。足の下が熱くて堪らねえや。靴でも熱いぜ」


 ハークの指示通り、虎丸とランバートが元の位置に戻る様に後ろ跳びで素早く距離を取る。虎丸の肉球は特別製で、意思次第で自由自在に硬軟を変化させることができるらしいが、耐えられる温度にも限度はあるだろう。


「ところでよ。視得たか、ハーク?」


「ランバート殿もか」


 ハークの脳裏には、『キカイヘイ』の胸部装甲が再び元のように閉じられる直前の光景が浮かんでいた。


「どうしたんだ? 大将、ハーク?」


「胸部の装甲破壊、お見事ってトコロだったワよ? お二人サン」


 ヴィラデルのねぎらいに対しても、ランバートの顔に笑みは無い。


「その破壊した赤い装甲板だがな。仕舞われる瞬間、ホンの少しだが回復、いや、修復され始めていた」


「マジかよ⁉」


 フーゲインの確認に対し、ハークも肯く。


「うむ、間違いなくあの装甲、というかあの『キカイヘイ』自体に再生能力が備わっているな。視ろ、虎丸が最初に傷付けた方の奴を」


 全員の視線が同じ方向に向く。それを確認したヴィラデルがまず口を開く。


「あれほど無数に傷ついてた爪の傷跡が……、ほとんど消えているワ……」


「眼が良いなァ、エルフ族はよ。あ~~、俺も視得たぜ。ホントだな……」


「再生能力まで備えているンだね。厄介なシロモンだねえ、全く」


「シアの言う通りだな。まぁ、再生能力はあのトロール程ではないが、早く倒さんと尚更厄介なことに成りかねん」


「全くだ。アイツら今度は自分らから攻めてこねえ。機能が回復するのを待ってやがるンだろう。もう一度、さっきの『ブレストブレイズ』だったっけか、あれをやられたら今度こそ凌げぬかもしれん。そこでだ、ハーク」


 ハークの身長はランバートよりも大分低いが、今現在は虎丸に跨った状態であったため、少し見上げられる形になる。

 ランバートと視線を合わせたハークは、彼の瞳に決意に似た闘志が満ちているのに気がついた。


「ここは勝負に出るべきだ。一体は俺が受け持つ。残り全員の戦力を合わせ、もう一体を撃破してくれ」


「ちょっ、待ってくれ大将! アレの頑強さはマジでおかしいぐらいなんだぜ⁉」


「心配すんじゃねえよ、フーゲイン。俺はこの国一『堅い』男だぜ。俺の武器でヤツらの装甲をブチ破れるかどうかはやってみんと判らんが、最悪、負けることだけはねえ」


「了解した。ランバート殿」


「おい、ハーク⁉」


「フーゲイン殿、心配は分かるが、今のランバート殿の提案が最も勝率が高いと判断できる。我々は今、時間勝負をしている。時間をかければ我々の状況は悪くなる一方だ」


「確かにそうだね! ランバートさんに一体受け持ってもらう間に、あたしらでもう一体をブッ倒せば良いってことだしね!」


「ガウッ!」


 気合を入れ直し、肩を回すようにぶるんと巨槌を振るうシア。それを視て虎丸も、早くも闘志全開の気持ちを抑えるかのように吠えた。


「シアの言う通りだよ。フーゲイン殿、ランバート殿の身を案じるならば、我らが素早く敵を倒してしまえば良い」


 つまりは、戦力の分断後の一点集中で各個撃破、である。

 数的優位をどちらかで極端に作り、早めに決着させてからもう片方の戦力に合流するのだ。もう一方の戦力はとにかく負けることなく、時間稼ぎに徹すれば良い。


「そうか、そういうことか。よぉし、やったるぜえ!」


 理解したフーゲインが胸の前で拳を合わせる。ガツンという硬質な音が周囲に響いた。


「よし、では頼むぞ」


 一人、片側の『キカイヘイ』へと一騎討ちを仕掛けるが為、ランバートはハークらの集団から離脱する。

 たった一人で集団から別れるこのような状況であれば、幾分寂しく映ろうとも仕方の無い筈なのだが、雄々しくもあり、寧ろ頼もし気なその後ろ姿を見送りつつ、ヴィラデルが口を開いた。


「じゃあ、やりましょうか、ハーク! 時間をかける気は無いんでしょう?」


「ああ、最短で決めよう。皆、力を貸してくれ!」


 その場にいる全員が「応!」の声と共に、一斉に構え、虎丸はそんな彼ら全てに『念話』を繋ぐ。



 まず前衛を務めるフーゲイン、シア、ハーク、虎丸が距離を詰めるべく動き出した。

 傷つけられた内部装甲の再生に務めている最中であるためか、自分から攻撃を仕掛ける素振りの無かった向かって左側の『キカイヘイ』が単体で反応を示した。


 迎撃の体勢を取ったそれに、まずはヴィラデルの全力魔法が発動される。


「『氷の墓標アイス・トゥーム』っ‼」


 『キカイヘイ』二体との本格的な戦闘開始時、一番最初にヴィラデル自身が放った魔法と、全くの同じ魔法を再度この時に放ったのである。

 ただし、狙いが少し違っていた。具体的には下に。


「ムッ⁉」


 腰から下だけ・・を氷の檻の中に捕らえられた『キカイヘイ』が、珍しく焦りを滲ませた声を上げる。

 両足を氷に捕えられたことに危機感を感じたのか、『キカイヘイ』が即座に左拳を振り上げた。拳を落として『氷の墓標アイス・トゥーム』の氷を砕くつもりなのだろう。


「させやしないよっ!」


 下に注意を逸らされていた『キカイヘイ』の至近距離、振り被った左手のすぐ傍に、虎丸に跨ったシアが存在していた。

 彼女は虎丸の背から飛び降りつつ、同時にSKILLを発動させる。


「『剛撃』ィ‼」


 暴風と共にシアの巨槌が振るわれた。全力で右に向かって繰り出されたその一撃が、『キカイヘイ』の左腕を同方向へと引き延ばさせた。

 自らの胴体とは正反対の方向に伸ばされた左腕は、この瞬間、攻撃にも防御にも無用の長物と化す。


 この機を逃さず、虎丸の背にシアと一緒に跨っていたもう一人の人物が跳躍する。

 『斬魔刀』を引き絞るように構えるハークであった。

 伸ばされた左腕の付け根目掛けて、既に跳び出していた。

 だが、『キカイヘイ』の攻撃手段が両足と左手を封じられたこの時点でも残されていないわけでもなかった。右腕である。

 内部装甲とはいえ、自身に傷をつけた存在を無視できる筈もない。『キカイヘイ』はその残された右腕を迎撃のために振り被る。

 そこに向かって全力で突撃を敢行しているフーゲインに気づかずに。


「うおぉおおおお! 『龍翔咆哮脚レイジングドラゴンシュート』ォオオ、おおおぉわァっったぁああああーーー‼」


 巨大な全身全霊での闘気を纏った飛翔轟脚が、今度は『キカイヘイ』の右腕を、真上に向かって弾き飛ばしていた。


「よぉっしゃあっ! 今だぜ、ハーク!」


「いっけぇーー!」


 フーゲインとシアの声援を受け、ハークも剣技を発動させる。


「奥義・『大日輪』‼」


 手加減なく振られた『斬魔刀』の刃が、『キカイヘイ』のガラ空きとなった左肩、その付け根を包む蛇腹状の装甲と接触し、無数の火花を生む。

 ハークがこの場所に狙いを定めたのは、幾つか理由がある。


 その一つが前世の経験であった。

 ハークが思い起こしていたのは、戦国という世がもうすぐ終了するという刹那、戦場で見かけた高名な南蛮かぶれ武将が身に着けていた西洋甲冑なるものであった。


 全身を質の良い鉄で覆ったかのようなその姿に、一目視て脅威と判断したものだが、後に故有ってまじまじと近距離で細部まで拝見させてもらった際には、尚のこと脅威と共に感心もさせられたものだった。

 何しろ関節部も含め、鉄に包まれぬ箇所が、本当にほぼ無かったからだ。何と時には鉄砲の弾ですら防ぐという。日ノ本の鎧にはそこまで精巧かつ強靭なものは無かった。


 とはいえ、例え全身くまなく覆うとはいっても稼働させねばならない箇所、関節部では限度もある。他に比べれば幾分か脆いものだった。

 狙うならばそこ、と思い定めたものである。

 『キカイヘイ』の関節部、蛇腹状の構造も、拝見させてもらった西洋甲冑の中、関節部にあった。


 なれば、狙うは左肩の関節部、その一点である。

 ハークの奥義・『大日輪』は左肩付け根から片腕ごと斬り落とす事はできなかったものの、装甲を貫通させ、切っ先は空洞な内部に僅かではあったが侵入させており、前面を半ばまで斬り裂いた。

 それで充分だった。


『今だ、日毬!』


「キュ、キュン!」


 持ち前の巨大な魔導力に任せて日毬が『岩塊の盾ロックシールド』を連続で発動させる。加減ゼロの岩塊の小山が、氷の檻に両足を閉じ込められ動けぬ『キカイヘイ』を挟み込むかのように前後に出現していた。


 ドドッ‼


 シアとハークを運び終えた虎丸が、突如現出した垂直の崖を備える岩塊山、双方・・を足蹴にして飛翔する。

 巨大で分厚い岩山は、レベル四十を超える虎丸の身体能力を見事耐え抜き、見事二度の方向転換、並びに急加速の手助けをしていた。

 そう。虎丸は一度『キカイヘイ』の裏手へと通過、日毬の岩塊山で跳ね返るように飛び、反対側、『キカイヘイ』の表側に生成されたもう一つの岩塊山で再度の方向転換、そして自身の最高速度への到達を瞬時に行ってのけたのである。


『今度こそやってやれ! 虎丸!』


ガウッランッガウァアアアアペイジイイイアア・ゴッッアガァアタイッッガァアアァアアアアアアーーーーーー!!!」


 虎丸最高最強技が、『キカイヘイ』の左腕をついに吹き飛ばした。




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