231 第16話07:Upper CLASS
前日に実戦という名の大暴れを行ったからといって、日課の稽古を全く行わないという選択は、ハークには有り得ない。
とは言え、いつもより大分遅い開始時間である。もう時刻は昼に近づいていた。
仕方のないことである。
ハークは昨日、この街とそこに住む人々の為、限界近くまで己の身を削りつつ戦ったのだから。
ステイタス数値的に言って、魔法力持久力共に残量一桁台にまで達していたのである。眠りにつく前にも色々あったが、実はその時には既に精も根も尽き果てていた。
特に魔法力を表すMPは、基本的に睡眠でしか真面に回復する手段が無い。
その為、ハークと共に睡眠を摂った従魔たちの内、虎丸は日の出と共に完全に目を醒ましていたのだが、主であるハークの起床を促すことなくこの時刻まで寝るに任せていたのだ。
欠伸を噛み殺しながら、ハークは昨夜とはうって変わって閑散とした領主の館内、その中庭にて伸びをして、鍛錬前の柔軟を軽く行う。
昨夜まではこの館を囲む城壁内に、トゥケイオスの街中の人間が全員集まり、ごった返していたが、民家や商店などの被害はごく少ない状況により、今朝方から皆、自宅へと帰されていた。
数百万、或いは数千万という軍勢に攻められながらも、街の被害は不思議なほど少ない。ハークの今居る領主の館、そこを囲む旧城壁と周辺の建物の窓ガラス、さらには東門ぐらいである。
それ故、昨夜のことを悪い夢のように捉えてしまっている住民も、数としては決して少なくはないらしい。敵であった骸骨の化物の死体というか、残骸すらも残っていないということもこれを助長していた。
戦闘痕が少ないのだ。
東門も破壊されたのは扉の部分だけであり、周辺の建物の被害も、窓ガラスほぼ全てとはいえ、原因は日毬の上級風魔法『
唯一、領主の館を取り囲む、そこが嘗ては一つの城であったことを示す旧城壁のみが、甚大な被害を被っていた。
外側はほぼ満遍なく表面を引っ掻かれたかのように削られており、南側中央辺りは特に大きく抉られて、後少しで崩されかねないほどだった。
更には北壁の天辺も広範囲に亘って焼かれた痕がある。これは、少数とはいえ敵に侵入を許し、迎撃に出たアルティナ麾下の魔法使い達が一斉に火炎魔法を放った結果であった。
今はリィズの父親である辺境伯ランバート=グラン=ワレンシュタインが率いて来た土木作業兵たちが中心となって修復を進めている。
人数が多く、能力も高いが故か、みるみる新築同様に仕上がっていく光景は視てて面白い。
その様子を横目で拝見しながら、昼近いとはいえソーディアンよりもやや北の地に来た所為か、それとも穏やかな季節への移り変わりなのか、柔らかな日差しの下で柔軟を終えたハークは虎丸と『念話』を繋ぐ。
『虎丸、儂のえむぴぃは、今どうだ?』
『えーっと、ちょっと待って欲しいッス』
虎丸はいつも通り、主の隣にちょこんと腰を下ろしている。常なる状態の殆どが威風堂々、覇は辺りを払わんばかりの様子である虎丸は、言わば迫力があり過ぎる存在である。こうしていることは無用な威を周囲に撒き散らさぬ意味も持っていた。
ただ、その頭の上に、手の平ほどにまで小さくなった日毬がちょこんと乗っかっているさまは、まるで愛らしい髪飾りを着けているかのようである。ハークからすると実に微笑ましく思えてしまう。
『やっぱり九割近く回復しているッスね。SPも同じくらいッス』
『ほう、一応予想の通りとはいえ、実に有り難いものだな』
昨夜の戦いの後、ハークは何と二つもレベルが上昇していた。
本来レベルの上がり難いエルフ族のハークが、一度の戦闘で複数レベルアップというのは、何度も自身より大幅にレベルの高い相手を倒す経験を重ねている彼であっても本当に数えるほどしかない。
とはいえ、一度の戦闘と締め括るには先の戦いは時間も規模も数も膨大であった。ハーク達は少なくとも万は軽く超える数のスケルトンを討伐していたのだ。
『黒き宝珠』は無機物であるが故に、アレから経験値を得たかどうかは正直微妙なところであったが。
兎も角、ハークはこれにて遂に大台のレベル三十へと到達することとなった。
ハークも漸く、というか、逆にあっという間というか、名実ともに強者の仲間入りを果たしたと言えるだろう。
なので虎丸にステイタスの数値まで詳しく鑑定して貰ったところ、攻撃力と魔導力、精神力に最大魔法力の値が異常なほど伸びていたのだ。
特に精神力などは二十四もの伸びを見せていた。
他の数値ならばまだ良いものの、精神力は格別上昇するような訓練を行った覚えは無い。ステイタス値はレベルの上昇だけではなく、実に緩やかだが訓練や修練で伸ばすことが可能だからだ。
不可解な数値な上昇に、更に詳しく虎丸に鑑定を行ってもらった結果、ハークの『クラス』名がいつの間にやら変更されていた。
『クラス』というものは、前にソーディアンの冒険者ギルド寄宿学校にて教わったところ、その人物の武装や戦い方、そして生き方や功罪までをも反映させた、その人物を端的に評する項目であるという。
早い話が、その人物自体を出来得る限り最短で説明するものであるとのことだが、極々稀に、レベルの上昇と同時に突如変更されることもあるらしい。
変更されていたクラス名は『
今までは『
しかし、今度の『
おまけに見慣れぬスキル、『
こういう時には元レベル百の龍であった知恵袋ことエルザルドの出番である。
しかし、ここで思ってもみない事態が起こった。
何とエルザルドの中にも『
エルザルドは生前の彼単体ですら膨大な知識量を誇る存在である。
しかし、真にとんでもないのは他の同族が持ち得る知識を我がものとすることの出来る龍言語魔法、『
この魔法によりエルザルドのみならず龍種は、己だけでなく己以外の龍種が得た知識すらも、他の『
例えばエルザルド自体はそれ程人間種というモノに詳しくも無く、過去の交流も乏しい。が、幼き頃は人間の世界で生活し、育った同族もいれば、今尚、現在進行形で人間の生活圏に身を置く別の同族もいる。
龍種は群れることの少ない種族であるためか、個体差が激しく、得意なこと、興味ある事柄は正に千差万別、自身の目につくもの全ての原理を解き明かさねば気の済まぬ者から、身近な料理という文化にのめり込み、尽きぬ寿命と巨大な胃袋とで全てを味わってみようと決意する者、更には集めた知識を総動員してどこまで高度なものを創り出せるのか試したことのある者など、誠に多種多様なのである。
これら龍種の知識を総動員出来得るということは、この世の森羅万象全ての知識を修めていると言っても過言ではないくらいなのである。
にも拘らず、エルザルドの知識の中に無いということは、それこそ『
というのも、取得した前後の経緯から、この『
何しろ、精霊種は非常に珍しい存在で、人間族が住む生活圏で視られることすら稀であり、半ば伝説的な存在となっている。
三カ月くらい前、ギルド寄宿学校で歴史のサルディン先生が雑談代わりにこれを世間一般の常識として披露した際、共に授業を受けていた全ての生徒達が、教室の一番後ろで大人しく寝そべっていた虎丸へと一斉に振り向き、視線を向けたのは印象深い。
エルザルドに依れば、そんな存在を一体でも従魔とした人間種は歴史上でも数名しか過去におらず、二体目となれば正に推して知るべしといったところなのだそうだ。
故に虎丸に続いて日毬という第二の精霊種を従魔としたハークは、人間種の紡いだ歴史上に於いても、今現在、唯一無二である可能性が非常に高く、よって、それが取得条件に関わるであろう『
よって、このクラスの詳細もエルザルドですら把握せしめるものではない。
ただ、クラス変化と同時に見知らぬスキルを入手したことから、上位クラスであるのは確実だという。
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