137 第11話04:CHEAT②




「こっ、このっ、『氷の墓標アイス・トゥーム』! 『電光の鞭ライトニング・ウィップ』!」


 氷の最上級魔法が全く効かないと分かり、ヴィラデルは雷の中級魔法『電光の鞭ライトニング・ウィップ』を発動させる。


 ヴィラデルは初級、中級、上級全ての雷魔法SKILLを取得した証の如き『雷魔法の極者ライトニングマスター』持ちだ。従って威力の面でいえば最上級とも言える『雷落としライトニング・ストライク』の方が上だが、アレは開けた屋外でしか使えない。今の状況ではこちらを使うしかなかった。


 『電光の鞭ライトニング・ウィップ』はその名の通り、電撃の鞭を創り出しそれで対象を攻撃する魔法である。が、結果は全く同じだった。襲い掛かる電撃鞭はコーノと名乗った男の身体を素通りするばかりでダメージを毛ほども与えている様子は見られない。


「ヒャハハハハ!! 随分派手な魔法じゃあねえか! 気に入ったぜ! ちとパリパリパリパリうるせーがなあ! パリピってか!? アヒャハハハハハ!」


「くっ! このっ、舐めるなあ『氷柱の矢アイシクルアロー』!」


 ここでヴィラデルは魔法を切り替えた。純粋な属性攻撃ではなく物理攻撃へ。『氷柱の矢アイシクルアロー』は術者の魔力にもよるが巨大な氷柱を発現させ、高速で撃ち飛ばす魔法なのである。その威力は古代の戦いで使われたという巨大弩砲バリスタにも勝るとも劣らないという。

 だが、結果は前と全く変わらない。氷柱は何の手応えもなくコーノの身体を通過し、後ろの壁とドアを破壊する。


「おうおう、スゲーなあ!! ッスゲーー魔法だ!! だが、効かねえんだよォ! 存外頭悪いのかあ? 何で俺が一人で来たと思うよ!? 効かねえんだよ、テメーの魔法なんぞよォオ!!」


「黙れ! 『爆炎嵐ブレイズストーム』!」


 この時点でヴィラデルは完全に『剣空亭』への被害拡大を諦めた。最早そんな場合ではない。

 この男相手に加減など考えている場合ではなくなった。決断後の行動は早い。直ぐに建物に直接被害を齎すであろう火魔法を放ったのだから。


 しかし、受けた相手、コーノは納得しかねているようだ。


「オイオイ! この魔法は知ってるぜ! 確か火の中級魔法だろぉお!? まだ被害の事を考えてンのかあ!? ンな場合じゃあねえだろうがあ、舐めてンのか!」


 確かに言う通りかもしれない。火の上級魔法が使えれば・・・・。だが、それは思い違いである。

 ヴィラデルが所持する火魔法SKILLは『火魔法の達者ファイアスターター』までである。『極者マスター』クラスではないのだ。つまり使える魔法は中級までなのである。如何な『魔導の申し子』たるエルフであっても流石に属性の得手不得手は存在するのだ。

 そもそも氷、風、雷と3属性も『極者マスター』クラスを所持している方がおかしいとすら言えるだろう。


 だが、他の人間に火も『極者マスター』クラスであると勘違いさせる要因とも言える技術がヴィラデルにはあった。


「黙って見てなさい! 今からエルフが何故『魔導の申し子』とまで呼ばれているか、その所以を見せてあげるわ! 『吸引渦メイルシュトロウム』!」


 高熱の炎が渦状に燃え盛る全く同じ場所目掛け、ヴィラデルは局所的に渦竜巻を発生させる風の中級魔法を発動させる。大きさは人一人程で非常に小さいが、周囲の物体を強力に吸引していく。


「あぁあ!? なんだあ!?」


 驚いてはいるようだがコーノに影響は無いようだ。髪の毛や服の裾に全くの動きが見られないことからそれが分かる。正直、ヴィラデルにはどうなっているか分からない。『生と死の狭間に居るものデスエスケイパー』とやらが一体どんな効果を持つSKILLであるかなど判然としないが、先の『効かねえんだよ、テメーの魔法なんぞ』の台詞から超強力な魔法無効化フィールドを自身の周りに出現させるSKILLだと仮定することも出来るとヴィラデルは考えていた。

 そうであるならば、圧倒的な威力でならば打ち破ることが出来るかも知れない。彼女はそう考えた、いや、そこに賭けた。


 強力な吸引効果により熱の収縮が産まれる。だが、それだけではない。

 彼女の眼は広がりかけた火の精霊が再び集まり、風の精霊と融合していく様子を捉えていた。


(---今だ! あの至近距離で防ぐことは出来ない! 灰になってしまいなさい!)


 ヴィラデルは完璧な着火タイミングで発動させた。


「はじけて混ざれ! 『爆裂魔法フレアストオオオオオム』!」


 ヴィラデルのその言葉と共に中心点から一際強い光がカッ、と周囲を照らす。同時に彼女は大剣を掴むと自身の背後にあった窓ガラスに飛び込むがごとく突き破り空中に身を躍らせていた。

 ヴィラデルが宿泊していた部屋は3階のスイートルームである。落下しながらヴィラデルは『風の断層盾エア・シールド』で自身の周囲を覆い、同時に大剣も盾の如く構える。


 そして大爆発が起こった。



「……う……」


 軽い脳震盪から回復したヴィラデルの瞳に映ったのは、まず木っ端微塵に破壊された『剣空亭』の宿舎であった。崩れて重なり合う残骸でよく見えないが、『剣空亭』のオーナーやその家族と従業員たちの住む母屋にまで被害は及んではいない筈だ。そういう風に調節したのだから。

 そして彼らは今、領主の館に向かっている筈であろう。何か不測の事態が起きた際には受け入れてくれる手筈になっていたからだ。


 今放った魔法は、ついこの前ソーディアンが賊に襲われた際の迎撃戦でも使用したが、ここまで至近距離で発動したのはヴィラデルにも初めての経験だった。

 右の肩口に火傷を負ったようだが、そこ以外はどうやら熱風を凌ぐことが出来たらしい。吹っ飛ばされた衝撃もまた完全には無効化できずに地面に身体を叩きつけられたようだがレベル37の頑強な肉体のお陰で軽い脳震盪以外の目立った外傷はない。


(自分の放った魔法で自分がダメージを受ける、か……。笑えないわねえ)


 ヴィラデルが先程放った魔法、『混成魔法』は、ヴィラデルオリジナルの魔法ではなく、エルフオリジナルの魔法であった。火の精霊の魔法に風の精霊の魔法を混成させ、お互いがお互いを高め合い威力を何倍にも引き上げる技術テクニックである。

 ただし、効果の長い魔法に同一人物の魔力で別属性の魔法を重ねて発動してしまい、反発させてしまう事は極めて稀に偶発的に発生することはあるがそれとは威力等の面が全くの別物だ。『混成魔法』の領域にまで威力を引き上げるには、先に発動した魔法と後に発動した魔法の作用点が完全に一致していなければならない。更に魔導の効果を生む精霊の動きも逐一把握する必要もあり、『精霊視』の先天性SKILLを所持していなければ実行は絶対に不可能である。

 『精霊視』SKILLはエルフ族の素質を持った者しか習得できない、この世界でも非常に珍しい先天性SKILLの一つである。故に『混成魔法』はエルフオリジナルにしてオンリーなる魔法なのだった。


(流石に骨も残らなかったかしらね)


 やり過ぎをヴィラデルが感じたのも束の間、瓦礫を抜け出て、いや、透り抜けてくる人影を見つけ、彼女は驚愕する。そしてここで初めて恐怖感も抱いた。


「な……、そんな……馬鹿な……」


 コーノであった。




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