124 第10話13:Dungeon And Forest②




「ぐぎゃあ!!!」


 まるで蛙が引き潰されたかのような悲鳴が周囲に響く。


 スティンガーアサルトトードの攻撃だった。スティンガーアサルトトードは口内に折り畳み式の非常に長い舌を持つ魔物である。

 その長い舌をまるで射出するかのように伸ばして攻撃をする、魔法攻撃でない遠距離攻撃を主体とする珍しいモンスターだが、急所に当たれば一撃で命を奪われる危険性もあるため、見かけたら最優先で倒す要注意モンスターの一種である。


「ちいっ!」


 小兵の冒険者が無数のロックエイプの影に隠れるように鎮座していたスティンガーアサルトトードの姿を発見し、一人突進する。

 再装填させてはならない。その前に仕留めねばまた犠牲者が出る。そしてそれは自分かも知れないからだ。


 前衛かのように立ちはだかる岩猿共が邪魔をする。

 これが魔物の領域の恐ろしいところだ。通常群れることの無い魔物が群れ、組むことの無い魔物が共に出現する。


 だが、小兵の冒険者、パルガにとっては然程難しい状況ではない。縫うように岩猿の間隙を進んでいく。

 ロックエイプは反応が鈍く、防御力が高い背中側に回ることが出来れば逆に迎撃される心配も少ないからだ。

 相手の弱点を突く的確かつ老獪な動きであっという間にスティンガーアサルトトードの元に辿り着いたパルガ。そして、利き手に持つ奇妙な反り・・・・・を持つ片刃・・の武器を振う。


「グギャオ!?」


 一撃のもとに頭と胴を斬り放された哀れな魔物の断末魔が昏き森に木霊する。


「ありがと、パルガさん! 一撃なんてスゴイね!」


「最近流行りの武器を手に入れてな! 良い斬れ味だろ! しかし、ジーナ! お前ぇんトコの新人は酷過ぎるぞ! 何で連れてきた!?」


 『空気槌エアハンマー』で巧みに魔法SKILLでの援護を放ちつつのケフィティアの称賛に機嫌良く武器自慢で返すパルガだったが、直ぐに耐えかねたかのように『松葉簪マツバカンザシ』リーダーであるジーナに苦言を呈す。


「い、痛い!! 痛いぃぃぃいいいいい!!」


 確かに寄宿学校の新入生という贔屓目に視ても酷い。一人は腕に大穴開けられて泣きが入り、一人は魔物の集団に囲まれるという状況にどう動けばいいのか分からず右往左往しているばかり。特に後者は体がデカい分ヒト1人分以上にスペースを喰い、足手纏い以上に邪魔な存在と化している。

 ロンダイト家の兄弟二人である。


「ええい、喧しいぞロジェット! さっさと回復薬を使わんか馬鹿者! 持ってきておるだろうが!」


 未だ痛みに耐えかねて呻く仲間であろう少年への理不尽且つあんまりなロウシェンの言葉に、普段は他人のパーティーに怒鳴ることなどしないパルガが流石にキレる。


「馬鹿はお前ぇだ! 片腕貫かれてンだろうが! 手前ぇが使うんだよ!!」


 ロジェットの片腕は未だ繋がってはいるものの明らかに骨をやられている。回復薬の瓶の蓋すら開けるのに苦労することは容易に想像がつくであろうというものだ。


 パルガが言ったことは、冒険者同士であれば仲間への気遣いとすら言えぬほどの暗黙の了解に似たようなものだ。

 そしてまた、仲間への回復を担当する者は事前に回復魔法を使えるような『回復役』をパーティー内であらかじめ決めていなければ、最もレベルの低い者、戦闘能力の低い者、更には位置的に近き者がその役目を担うことがこれまた不文律の如く当然であり、ロウシェンは他の誰が見ても一目瞭然に全ての項目で該当していた。


 しかしそれでもロウシェンは一瞬反抗的な視線を怒鳴ったパルガへと返し、これは無意識に近いものだったのかもしれないが、援護のために彼らの周りを取り囲む一校教師陣だった『松葉簪マツバカンザシ』の面々に助けを求めるかのようにも視線を送った。


 だが、戦闘中にロウシェン役立たずに構う暇が誰にある筈も無い。

 彼の視線に気付くことも無く、襲い掛かるロックエイプの拳を左手の剣で受け止め、右手の剣で同じロックエイプの首を斬り裂いたリードが叫ぶように言う。


「早くしやがれ、ロウシェン!」


 その言葉で漸く己の反撥に折り合いをつけたロウシェンは、背中に反抗心を漲らせながら弟の治療に取り掛かり始めた。

 それを見届けつつ、ケフィティアの『空気槌エアハンマー』にて体勢を崩されたロックエイプをまた一体仕留め終わったジーナが大声で言う。


「ゴメンよ、パルガさん! ただ、アタシらのパーティーメンバーじゃあないんだ! アタシらもギルド長からの依頼なんだよ!」


「ちぃっ! あの親爺の案件かよ! あの親爺の名前を出せば何でも受けてくれるとは思うなよ!?」


 パルガは平均レベル28という、現在、ソーディアンギルド本部に所属する冒険者の中ではトップを争う高レベル冒険者3人パーティーのリーダーだ。

 彼自身はこの街の出身者ではないが、西の街道建設の折に魔物の領域が発見される前からソーディアンの冒険者ギルド本部に所属していた。

 それ故、同じホームギルド所属同士として、ジーナ達『松葉簪マツバカンザシ』との面々とも顔見知り以上の軽口を叩き合う関係を築いていた。


 今も『松葉簪マツバカンザシ』3人と、己の率いる自身のパーティー3人とで見事な連携を披露していた。

 既に敵のロックエイプの数は襲ってきた当初の半分以下。パルガがたった今倒したばかりのスティンガーアサルトトードも、他に潜んでいる気配は無い。

 大勢は決しかけていた。とはいえ気を抜くものは6人の中には誰もいない。


「オイオイ、手伝ってくれねえのかよ旦那ぁ!?」


 またもケフィティアの『空気槌エアハンマー』にて顔面を直撃され意識朦朧としたロックエイプを片付けたリードが不満を表すように口を尖らせて抗議する。


「ええい、チキショウ! お前らのお蔭でもう今更先頭集団には追いつけねえからな! 手伝ってやらあ! だが、必ず後でお代はいただくからな!」


「ツケで頼むよ! もしくは請求先はオッチャンで頼まぁ!」


「でーい、調子の良い事ばかり言いやがってクソガキが!」


 リードとパルガの漫才の様な駆け引きに、ケフィティアが「ぷっ」っと噴き出した様な声を出したのを皮切りに戦闘中だというのに彼ら6人は何処か和やかな雰囲気になり、逆にその事で余計な力が抜けたのか、次々と残りの岩猿を始末していった。



 一仕事という名の一戦終わった『松葉簪マツバカンザシ』とパルガ達パーティーは休憩がてら互いの情報交換という面目で雑談を始めていた。

 その中で、当然の如く見た目の奇妙な、それでいて未知の美しさを持つパルガの新武器に注目が集まるのは当然の成り行きであった。


「パルガさん、その武器どうしたの? スティンガーアサルトトードを一撃でぶった斬るなんて凄い斬れ味じゃない」


 まずはジーナがその話題にて口火を切った。


「何だお前ぇら、知らねえのか? 最近、古都で売り出された流行りの最新武器よ! 『カタナ』ってヤツさ!」


 そう言ってパルガは自慢するかのように鞘からその『カタナ』を引き抜き、その刀身を披露した。

 カンテラの灯りを受け、鋭い刃が周囲に煌びやかな光を放つ。


「へぇ、こんなに綺麗な武器だったのか」


「私たちの教え子……っていうか~、知り合いのコも持ってるけどまじまじと見せて貰ったことは無かったものね~」


「ホントに美しいわね。でも、『カタナ』って名前もそうだけど、流行ってることも今初めて聞いたわ。私達、実は街の外での調査任務に就いててさ、戻ってきたらギルド長に寄宿学校の臨時講師させられちゃってカンヅメになってたのよ」


「なるほどな。道理で最近見かけねえと思ってたぜ。またあのジジイから厄介事を押し付けられてるんだろうと誰かが噂してたが、アタリだったわけだな」


 そう言ってパルガはカッハッハと豪快に笑う。小柄な体格に似合わず、その声はしゃがれた野太いものであった。


「ンじゃあ、俺様が教えてやるぜ。コイツを紹介した武器屋のオヤジ曰く、この武器は最新技術の塊だ。強靭で攻撃力付加値が高く、しかも、しかもだ、この武器に慣れれば慣れる程その付加値が伸びるという魔法のような武器らしい。その分、値はスゲエ張ったがな。オマケにまだ真面に作成できるのは2店舗しかねえ。今じゃあ製作待ち半年だそうだ」


「半年ぃ!? どーなってんのそれ? 良く手に入れられたね」


 ジーナの当然とも言える反応に、パルガは意味ありげに含み笑いを返す。


「まあ、俺の場合は運が良かったぜ。古都で一番デケエ鍛冶職人店で最初は頼んだんだが、そン時でも完成予定は1か月後だったからな」


「この街で一番デカい鍛冶職人店っていうと、モンド=トヴァリさんの店だね。何か少し黒い噂のあった店じゃない?」


「ん? そんな噂あったのか? 良いモン開発してそれが売れて売れまくって忙しくて仕方が無い、そうとしか見えなかったがな。まあ、それでよ、その店のオヤジに、そんなに待てねえ、って言ったらよ、もう一店舗『カタナ』の製作を請け負ってるっつう店を紹介してもらったのさ。んで、先日完成したのがコレよ。見ろよ、良い武器だろう?」


 パルガは本当に気に入っているらしく、頬ずりしそうな勢いで自らのメインウェポンを見詰めている。


「へえ、俺も頼もうかな、そこで」


「あ~~~、どうだろうな。そっちの店舗は小さい上に個人店舗らしくてな。今頃はそっちも注文溜まってンじゃあねえか? ……まあ、武器談議はこれぐらいにしてもよ……」


 キレの良いところでパルガは『カタナ』の話を自ら打ち切り視線を移した。

 その視線の先に居たのは、パルガや『松葉簪マツバカンザシ』達の情報交換に毛ほども参加する気配も見せずに荒い息のまま蹲る二人の兄弟の姿があった。


「アレ、寄宿学校の生徒なんだろ? こんなこと言いたかねえが質が落ちたな……、ソーディアンの寄宿学校も」


「あーーー、それがさ、彼ら三校からの遠征生徒なんだよ」


「三校? ああ、王都の寄宿学校か。ありゃあ確かに碌でもねえな」


「おい、貴様!! 今何と言った!?」


 そんなにパルガの声は大きくなかったし、距離もロンダイト兄弟に届くほどでもなかった筈である。だが、悪口というのは言われた相手の耳だけに届くもので、血相変えてロウシェンを立ち上がらせる結果となった。

 とはいえ、明らかな強者である熟練冒険者に憤怒の勢いだけで新人が対抗できる筈も無し。


「それが助けて貰った人に対する言葉使いか?」


 パルガの一睨みで忽ち怯んでしまう。

 それでも貴族たるプライドによる反撥心は抑えられなかったのか、誰にも聞こえぬ声音で、こちらが助けてくれと頼んだわけではない、などと独り言ちていた。

 だが、悪口というものは意外な距離でも相手の耳に入ってしまうものなのであった。


「あ? よくそんな口が利けたモンだ。コレだから三校出身者とは組みたくねえと言われちまうのさ」


 ムッとしたパルガがロウシェンに詰め寄ろうとするのをリードがまあまあと宥めつつ塞き止める。

 一方、ロウシェンの方は弟のロジェットがMPの尽きかけた蒼い顔で止めに入る。


「兄上、もう我々は帰りましょう……」


「黙れロジェット! 我ら栄光ある王都寄宿学校生がこのままおめおめと帰れる筈がないであろうが! 貴様恥ずかしくないのか!? 帰るのであれば貴様だけで帰れ!」


 この一言は、発した本人は最後まで全く気付くことは無かったのだが、相当に己を追い込む発言結果となってしまっていた。

 というのも、一校で、というよりジョゼフによって鋭い倫理観のバランス感覚を植え付けられていた『松葉簪マツバカンザシ』は、この面倒極まりない状況の発端はそもそもロンダイト兄弟に責が所在するのは当然としても、今起きている口論に関してだけは大人気ない発言をし続けるパルガも悪いと中立的に一歩引いた心境であった。

 が、それがロウシェンが今放った一言によって覆ってしまった。


「何てこと言うの!? ロジェットは遮二無二突進するアンタを守ろうと、魔法を使いまくった所為でそうなっているのよ!? 兄弟とは言え少しは仲間を労わるとか出来ないの!?」


 所謂脳筋な長男と違い、次男ロジェットは魔法SKILL主体で戦う魔法職『魔法士マジックユーザー』だった。つまりはケフィティアと同じ職種なのである。

 同じ職業、同じ職種、同じ役割であるだけにその苦労が良く分かる。それだけにケフィティアは黙っていられなかった。

 そして、今ケフィティアが語った言葉は、不幸なことにロウシェン以外のこの場に居る人物達にとって共通認識であった。

 普段怒る気配の無い者に怒られることほど、驚き慄くことはない。ロウシェンも同様で流石に口を一瞬噤む。


 ここでケフィティアがあと2、3ほどお小言で追撃できていればこの口論はそこで終了し、後の悲劇にも繋がらなかったかもしれない。

 だが、今は怒鳴れるような状況ではなかったことを思い出し、ケフィティアも口を噤み口撃はそこで途切れてしまった。今は魔物の領域内に居るのだから。


 そして今、容赦のない追撃を撃つ人間がパルガでなければ。


「一体どういう教育受けてンだ? 三校はマジでどうしようもねえな」


「な、なんだと!? 一度ならず二度までも!! いくら冒険者の先達といっても容認できぬぞ!! 我が栄光ある三校を貶める発言は許さん!!」


「おい、ロウシェン、もうやめろって。お前が言えた立場じゃあねえってこと思い出せ。あと、ここは魔物の巣窟だぞ? そこまで大きな声出すんじゃあねえ」


「しっ、しかしっ! 母校への謂れのない中傷を甘んじて受けるわけにはいかぬっ!」


「謂れの無え? 何だ王都の連中は知らねえのか? 三校卒業生の評判はマジに各地で最悪なんだぞ?」


「な、何!? 貴様、嘘を吐くな! 我ら三校生徒は卒業した後も栄光の道を歩んでおると聞かされておるわ!」


「パルガさんも、もうそれぐらいに……」


「栄光の道? 何だそりゃ? 頭膿んでるのか? それとも花畑でも育ててンのか? お前の所属する三校卒業生共は横柄で我が儘、不遜でしかも根気がねえってことでもう有名だ。ちょっと面倒臭え依頼だと直ぐに逃げちまうしな。おまけに冒険者間のルールも知らねえし、基礎が出来てねえからレベル以下の実力しかねえ。俺も一度だけ組んだことがあるが、もう二度と、金積まれたってゴメンだね」


「なんだと!? そ、そんな馬鹿なことが……!!」


「ロウシェン! 手前ぇもいい加減にしろや! 全員警戒! 何か来たぞ!」



 現れたのは今まで見たことの無い巨大な魔物であった。それが3体も。


「ジャイアントシェルクラブだ! しかもかなりデケエぞ!」


 平民の身でやたらと自分に突っかかってくる一校の講師だった男が叫ぶように言う。


「おい、コイツ等明らかにレベル20以上あるぞ! 突進されたら止めようが……って来やがるぞぉ!?」


 パルガとかいうさっきからロウシェンの所属する王都第三校を侮辱し続ける無礼な輩も叫ぶ。


(ヤツ等は敵だ。耳を貸すな)


 身の内から語りかけてくる内なる声に従い、無視をする。


「危ねえ! ロジェット、避けろぉっ!!」


 無視するつもりが、この場に於いて唯一の味方である弟の名前を呼ばれ反応してしまう。

 視線を送れば巨大な甲殻類の化物が、ロジェットに向けて巨大な爪をまるで盾の如く構えながら突撃する光景が目に飛び込んできた。


(たった今走り出したというのに何と言う速度だ!?)


 ロジェットの方はというと、先程までに無駄な魔法を連発していたが故かその場からすぐに動き出せる気配が無い。

 思わず足が前に動く。

 が。


(何を考えている!? お前は将軍の職を継がねばならんのだぞ!?)


 心の内の声がまた邪魔をする。今動けば、まだ間に合う。間に合うが……。

 またも心の声が語りかけてくる。


(愚弟など捨て置け! 貴様は将軍職を継ぐ大事な体なのだぞ! 予備など問題ではない! 貴様が第3将軍の座を継がなければ、王子の計画が……!)


 知った事か、と思った。

 幼き頃より共に苦楽を過ごし、陰に日向に自分を支えてくれた大切な弟だ。

 見捨てられる筈など無い。


 走馬灯さえ脳裏によぎる中、彼は奔り出す。死の危機すら無視して。

 そして、悪魔のくびきを抜けて。


「動かんかロジェットぉおおおお!!」


 弟に体当たりを敢行しその場を退かせると、視界いっぱいに迫り来る盾爪が二つ映った。



「ロウシェン!!」


 まるで全速力で走る戦馬車に轢かれたかのように、ロウシェンの身体は空に放り出された。

 そして力無く地に落ちる。その姿は完全に意識を失っているとしか判断出来なかった。


「あ、兄上!?」


「チキショウ!」


 ロジェットは倒れ伏した兄しか視ていなかったが、リード達はロウシェンを轢いたジャイアントシェルクラブを目で追っていた。

 その巨大ヤドカリがぴたりと停止し、ゆったりとその向きを変える。依然倒れたままのロウシェンの方へと。


(まずい!)


 リードは迷うことなく、その進路上へと我が身を踊り出した。止められる保証など無い。同レベル帯であったとしても、ジャイアントシェルクラブの突進は受けるのではなく回避が常道であるのだから。


「何してやがる! お前までやられちまうぞ、リード!!」


 パルガの言いたいことは分かっていた。何故、そんな奴貴族の生意気なガキのために自分の命まで危険に曝す必要があるのか、と。


 確かに自分の身体まで担保に差し出す必要も、義理なども無い。

 リードは第一寄宿学校の講師であったが、それは臨時のものだ。しかも期間も満了している。

 更に言うならば、自分の後ろに倒れ伏す生徒も一校の生徒ではない。王都にある三校の生徒なのだ。たった一日二日指導に関わったくらいの、赤の他人でしかない。


(やれやれがチキショウめ!)


 だがそれが、リードの性分だった。赤の他人であろうと、ムカつく貴族の子供であろうと、彼には関係の無いことだった。

 それでもやっちまう・・・・・のがリードという男なのである。


 無理という言葉が脳裏に浮かぶ。それでも、ここは動かぬとばかりにスタンスを広げ、両手の剣をバツの字に構える。


「やめなさいバカァア!」


「ガウォォオオオオオオオオオオ!!」


 悲痛なケフィティアの叫び声が上がる直後、それをまるで塗りつぶすかのように巨大で強烈な獣の咆哮が辺りを斬り裂いた。


 あまりの大音響に全てのものがびくりと一瞬動きを止めてしまう。

 それはジャイアントシェルクラブすら同様であった。


 その場の敵味方全てが共通して視線を向けた咆哮の発生源に、それは居た。

 しなやかで美しく輝く光沢を放つ、白と黒の縞、その毛皮に身を包む魔獣。


 虎丸だった。


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