91 第8話12:皆の安全を守るだけという簡単なお仕事②
程無くしてハーク達一行はファイアサーペントを視認する。
10メートルほどの距離を保ち、部隊を展開させたシン達に対して紅き鱗を持つ炎蛇はしきりに威嚇を繰り返している。まだ自らの『火炎噴射』が届かぬことを知っているからだ。
〈お手並み拝見というヤツだが……、逆に儂が緊張してしまっているな……〉
ああは言ってみたものの、ハークのような人物にとって只見ているだけ、というのは想像以上に辛い。
自分が戦う方が圧倒的に気楽だからだ。
見守っていると、全体の中からシアとシンのみが部隊を離れていく。
〈ほう。あの時の手を使うか〉
ハークが思い出したのは、ジャイアントホーンボア戦で自分が使った手だ。
モンスターは本能的に相手の強弱が判るというから、必ず強者を警戒する。その程度に差はあるが、
ファイアサーペントが身体ごと振り向くのを見て2人が間合いを詰める。そこに『火炎噴射』が襲い掛かった。
「ぐっ!!」
視界を覆う炎に、あの日のドラゴン『
「今だ! 突撃っ!!」
「「「応!!」」」
3人の分隊長の指揮の元、部隊が有機的に動き出し、突貫を開始する。
並んだ槍の林、その穂先が横合いからファイアサーペントを襲う。鱗に邪魔され表面を滑るだけの槍も多かったが、数本が表皮にまで到達していた。
「ギュオオオオオオ!!」
ダメージなど僅かであろうが、火炎巨蛇が怒りの咆哮を上げ、部隊の方に振り向き『火炎噴射』を発射しようとする。
問題はここだ。弱者の攻撃タイミングを作りそれを成功させても、その後をどうフォローするか。
「『
ここでテルセウスからの援護が入る。先の若干尖った無数の石弾がテルセウスの目の前の空間から出現し、ファイアサーペントの顔面を襲う。
〈おお!? 印地打ちか!〉
『印地打ち』とはハークの前世で
平たく言えば石を投げ合うという行為なのだが、石投げは矢や鉄砲の弾のように金が掛からない上に、眼などの急所に当たれば大きく戦闘力を削ぐばかりか命を奪うこともある。大抵の村には一人か二人はこの印地打ちの名人がいたものである。
良く思うのだが、もし、この印地打ちの名人が現代に生きたとすれば物凄い剛速球投手となって、甲子園やプロを沸かせる存在となることだろう。
戦国期の戦はこの印地打ちをまず行い、矢を射かけ、それから両軍入り乱れての乱戦や騎馬の突撃敢行などの本格的な戦闘が始まるというのが殆どの流れであった。ここに末期、鉄砲が入り込むわけだが、江戸期が始まるまでは大体この流れだったという。
安価で大事な戦の初戦でもあり、印地打ちが強いというのは地味に雑兵にとっての強さの条件の一であったのだ。
忍びなどにもこの印地打ちの達者はいて、暗殺の手段にもなった。
そして今、前世の達人たちに匹敵するほどの石弾がたった一人の元からファイアサーペントに襲い掛かる。
〈やはり、魔法とは便利だ〉
つくづくそう思う。前世であればまず大怪我は免れ得ぬ。急所を庇うのが一瞬でも遅れれば死の危険すらあるだろう。
ただ、レベルとステータスの存在する今世では、レベル差が無ければこれ程の攻撃も牽制程度だという。弾力のある表皮と紅鱗に阻まれた石礫の連弾は、それでも対象の意識を術者に向けさせることには成功した。
「今だ! アルテオさん!」
「いくぞぉ! せいやぁああ!」
『火炎放射』が途切れ、ファイアサーペントの意識が逸れた瞬間を狙って、丁度挟み撃ちの恰好になったシンとアルテオが同時に突撃する。
先に到達したシンの袈裟斬りが巨蛇の顔面を斬り裂き、片目を潰す。怯んだそこに、アルテオが全力で追撃を決めた。空中で飛び上がり、一回転しながらの勢いを利用し横一文字に得物を振ったのである。
〈ほう、『大日輪』のつもりか〉
彼女の動きはハークの刀SKILL、奥義『大日輪』をなぞったものであることは明白であった。
残念ながらSKILLとしての発動は出来ないようだが、何度も練習したのだろう、一応サマになっていた。横への振りだけでも練習を積めば、早晩習得できるかもしれない。
まだ刀としての特性を発揮しきれてはいないものの、体重を乗せきった回転斬りは見事、ファイアサーペントの首を斬り裂き、トドメを刺した。
2戦目、今度はジャイアントシェルクラブが相手だ。とはいえ、レベルは11しかない。
巨大宿借という二つ名のワリには名前負けだ。横幅はともかく縦幅というか全高は人とほぼ変わらない。どうもレベルによって身体の大きさ、つまりは成長度合いに違いがあるようだ。
今回はエタンニの知識が非常に役に立つこととなった。
「ジャイアントシェルクラブは肥大化した背中の甲殻が邪魔して左右への前腕可動範囲が殆どありません。後ろに回れば旋回速度も鈍いので攻撃し放題でしょうが、同レベル帯では背中の甲殻を貫通させてまでダメージを与えるのは至難の業です。そこでギルドでは以下の戦法が推奨されています。まず、魔法使い役がジャイアントシェルクラブの動きを止め、その隙をついて前衛の盾役か防御能力の高い人員2人でそれぞれ片方ずつの鋏の動きを止めます。そこを硬い甲殻に覆われていない腹目掛けアタッカーが攻撃するという寸法です。シンさんやオー……じゃなかった、シアならレベルも高く、使っている武器も相当攻撃力が高いようですから、そのまま背中の甲殻を破壊して倒すことも容易だとは思いますが、ここは安全度の高い敵を利用してみてはどうでしょうか?」
伊達にギルド長に優秀とまで言われてはいないらしい。
彼女の作戦立案に穴が無いことを確認してハークが頷くのを見て、シンも彼女のというかギルド推奨の戦法通りで行くこととなった。
まず、テルセウスが雷の矢を放つ魔法、『
この魔法は、雷系統魔法の中でも初級魔法なため威力が低く、相手を少しの間だけ痺れさせ動きを止めるモノである。また、射出速度が非常に速く、視てから避けるのはまず不可能ということだ。
現に、暢気に構えていたワケでもないジャイアントシェルクラブに『
そこにシアとシンが全力で走り間合いを詰めて、動きの止まった鋏を、それぞれ大槌と盾で地面に押さえ付けた。
暴れるジャイアントシェルクラブだが、ステータス差もさることながら、この体勢のように上から左右の鋏を同時に圧し掛かられると自重のバランスも相まって抜け出されにくくなるらしい。
弱点を晒し動くことも反撃することも出来ないジャイアントシェルクラブの元に、シンの「今だ! 突撃!」の号令と共に若い衆10人の持つ槍がガラ空きの腹部目掛け真っ直ぐに突進する。
10本残らず突き刺さった槍穂は、その内数本が深々と内部まで侵入し絶命寸前の大ダメージを与えた。そこへテルセウスがアルテオと共に間合いを詰め、トドメを刺すことで決着した。
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