46 第5話04:魔を操るもの②
背に負った大太刀を抜き払い、迫り来るモンスターの一団に向けて一目散に突進するハーク。
砂塵巻き上げ迫り来る敵団の光景はハークにとっても数えるほどしかない前世での合戦の記憶を思い起こさせてくれる。
「うおっしゃああーーー!!」
自然と己の口から鬨の声の如き雄叫びが発せられた。
最初に経験した合戦はまだまだ未熟も未熟、餓鬼の時分であった。
何もかも欠け、何もかもが最も足りぬ頃であったが、気力と野望だけは最も滾り漲っていた。
その時代を思い出し、跳ぶが如く駆ける。何故かとても良い気分だ。
「ゴアアアアアーーッ!!」
まるでその主人の気持ちが乗り移ったかのように虎丸も気勢良く咆哮を挙げハークに続く。
『虎丸! 一発デカいのをブチ込んで斬り込む! その後に続いて出来得るだけ残りに
『
念話を終えるや否やハークは敵先頭集団に跳び込むように肉薄した。ここまで近付けば目には映らずとも標的の詳細な情報を彼は把握している。虎丸が先程教えてくれたように動きの迅さに怖さは感じない。体躯は虎丸と同じ猛獣型で彼よりも二回りほど小さい。つまりは平均的な大人の男性ほどだ。
一気に間合いを詰めたハークはその勢いを殺すことなく、空中で身体を捻りながら宣言通りのどデカい一発を繰り出した。
「奥義・『大日輪』!! おおりゃあ!」
真円を描く刃の軌道に巻き込まれた4匹ものインビジブルハウンドが全身を水平に両断され、更に一匹が顔面を脳まで割られ、一匹が肩を深く斬り裂かれていた。
血飛沫を上げて哀れな犠牲者の死体が舞う。計5匹が一撃のもとに絶命し、一匹が戦闘不能レベルの重傷を受けている。14対4。圧倒的な数的有利だったモンスターたちがイキナリその数を半分近くまで減少させらされた。
その事実に一瞬凍りついたように動きを止めてしまったことも無理からぬことだったであろう。
そこに主人の後ろギリギリ『大日輪』に巻き込まれぬ位置で追い駆けていた虎丸が一気にトップスピードへと加速する。
疾風の如く殺到した虎丸の爪刃に、残り8匹のインビジブルハウンドの内6匹までもが何が起きたかも判ることなく一瞬にしてその身を深く抉られ、ある者は血を噴き出しながら吹っ飛び、またある者は大きく肉を裂かれて地に倒れ込んだ。
その地に伏した一匹にトドメを刺すべくシアが追い縋り、戦士系近接SKILLを素早く発動させる。
「『剛撃』!! ふぅん!」
軽く跳躍した反動を利用して振り降ろされる大槌の狙いは顔面。既に虎丸の容赦のない一撃によって大量のHPを奪われていたインビジブルハウンドは、自らの血糊によって露わになった頭部への一撃を躱すことも、そして、純粋な魔力の塊で包まれることで攻撃力を倍加させた打鎚を凌ぐことも出来ずに絶命した。
シアに遅れ馳せながらもシンもまた、虎丸の攻撃を受け吹っ飛ばされた別の個体へと肉迫していく。
インビジブルハウンドも敵を迎撃すべくその身を起こそうとするが、左前脚が折れているようで体勢を整えるのが間に合わない。そこにシンの突きが左前脚付け根付近に吸い込まれるように刺さった。
「ゴォオアア!?」
苦悶の呻き声が上がる。が、その一撃では命を刈り取るまでには達しない。
動きの止まったシンに向かって、まだ無事な2匹が迫っていた。
彼らはレベル18、19の個体とこの集団の中では実力者であるが、未だ無傷であるのはその実力のお蔭ではない。元々ハーク達から最も離れた位置におり、先程も最後尾を走っていたからに過ぎない。
その2匹が半ば以上まで埋まった剣を引き抜こうと動きを止めたシンの背後を狙って迫りつつあった。存在を気付かせぬ最大戦速で、である。
だが、幸運もそれまでだった。突然、その2匹に紅いシャワーが降り注ぎ、その姿をハッキリと露わにした。
ハークである。初撃『大日輪』で一刀のもとに両断した先刻の一体の
そのままハークはシンの元に駆け付け、上段唐竹割りの要領で瀕死でありながら未だ抵抗していたインビジブルハウンドの首を斬り落とした。
「シン! 集団戦ではなるべく突き攻撃は使うな! 足が止まったところを狙い討たれるぞ!」
そして一言のアドバイスを挟みつつ別の標的の元へと駆けていく。辛うじてシンはその小さな背中に向けて、「お、おう」と了解の意を示すのみだった。
同族の血を浴びてすっかり濡れ鼠と化した2体のインビジブルハウンドの元へハークは迫る。その背に、こちらも先程、モンスターを1体仕留めて来たばかりのシアが合流した。
共に新たな標的へと肉迫する彼らは、一瞬のアイコンタクトを交わし左右へと別れた。
ハークが左。シアが右。
両断された同族の半身をぶつけられたものの、倒れることも大きく体勢を崩されることもなく堪えることが出来た2体の魔物達は、充分な迎撃準備を整える時間があった。が、それでも明らかな実力差と破壊的な攻撃力の前には成す術無く蹂躙されるのみ。
まず左のインビジブルハウンドが絶命した。
ハークの太刀筋を止めること敵わず、躱すことも不可能で、受けて耐えることなど言語道断だとすれば、結果はどうなるか。一刀両断、一撃必殺である。SKILLを使うまでもない。
陽の構えから一文字に振られた『斬魔刀』は、一応、刃を迎撃すべく開けた咢から肛門までを一閃に斬り開いた。
もんどりうって倒れるインビジブルハウンドだったものの横で、もう1体の魔物も死の危機を迎えていた。
「『連撃』っ!!」
シアの所有する近接SKILL2つ、その内のもう片方を発動したのだ。
打ちつけ、横殴り、カチ上げ。次々と連続攻撃が決まり、魔物の体力は成す術無く減少していく。
『連撃』。改変事象を含むことの無い単一の魔法力を近接武器に纏わせるところまでは先刻の『剛撃』と同じだが、一撃の攻撃力を倍増させる『剛撃』と違い、『連撃』の効果は複数攻撃で一気にたたみ掛ける所謂スピードアップだ。
速度だけはハークの全力に匹敵するほどの
ヒトの肉体の稼働限界に迫る程のシアの動きを、一足先に敵を片付けたハークは感心しながら見ていた。
〈ほう。このような魔力の使い方があるのか〉
彼の目は魔力がまるで保護膜の様に武器をコーティングしているさまも、その後ろで爆発するかのように噴射することで暴力的な加速度を生み出していることも全て捉えていた。
〈動きを最適化できれば、さらに迅くなるだろう〉
7発目の振り回しが決まったところでその魔物は既に死に体となっていることが見て取れた。次で確実に決まるな、と思ったところで別の方面から魔力の発動兆候をハークは捉える。
眼を向けると虎丸が『
「ガウッウウォーー!!」
恐らく虎丸としては『ソニッククロー』と叫んでいるのであろう。声帯構造の無い魔獣の喉では意味ある人語は発声できないのだ。
既に虎丸自身によって手傷を負わされているインビジブルハウンドに対して
2体がほぼ同時に吹っ飛ぶ。誰が見ても、2体ともHPはとうに尽きているとしか判断せざるを得ないものだった。
既に倒された魔物は11体。もはや勝敗の帰趨は決していた。
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