アビス・プラント3

 闇の勢力『ダイワ―ル帝国』ははるか昔から存在した。


 一説には紀元前や人類の発祥とほぼ同じとのたまう歴史家もいるが、少なくとも2004年の段階で公に存在を確認されている。


 彼らは人々の不幸を直接的なエネルギー源とする闇の力を操り、より力を得ようと社会に不幸と混乱をまき散らす、秘密組織だった。


 同時に、彼らと対となり戦う光の勢力『ミニィーネ』もまた、同じ時期より存在し、彼らと戦いを繰り広げてきた。


 彼女らは精霊によって選ばれた、女子中学生の二人から七人から構成されていて、ステッキを中心としたアイテムで変死する魔法戦士だった。


 彼女らは一年限定でダイワ―ルと戦い、世代交代を重ねながら幸福と平穏を守る存在だった。


 二つの組織の激闘は人知れずに続いていたが、他の闇と同様、常闇の時代が全てを公にした。


 真っ先に被害を受けたのはミニィーネ側、女子中学生を戦わせることに人権派が介入、加えてネットに個人情報が流されたことでプライベートは崩壊し、そこへダイワ―ルの攻撃を受けたことにより、当時のメンバーの一人が重傷を負って下半身不随となった。


 これに、立ち上がったのが狩人同盟だった。


 闇と戦う同志を救うべく、有志が集まり、ありとあらゆる協力体制を引くことで、最初の段階から、本来ならば変身が馴染んで年末商戦辺りに加わる最終変身が可能になった。


 対するダイワ―ルも百鬼ナキリと手を組むことになった。


 ……そして現在、長をチョーワールになったダイワ―ルは、過去最悪の組織となった。


 これまでは、学校の給食を全部ピーマンと人参に変えたり、練習頑張った学芸会にちょっかい出したり、闇の力で公園の花壇を萎びさせたりする程度の軽犯罪だったにもかかわらず、一気に飛んでテロリストとなった。


 広大な畑に除草剤撒いてピーマンと人参を根絶やしにしたり、と子供の集まる学芸会に毒ガス撒いたり、闇の力で攫った子供を花に変えて公園に植えたりした。


 彼らが麻薬ビジネスに手を出したのは利益が大きいからだった。


 偽物の幸福を売りつけ、禁断症状の不幸でたっぷり潤う。


 ミニィーネとは直接戦うことを避け、影へ闇へ、裏の世界へ潜伏することで安全を確保、ちゃくちゃくと力を蓄え、これまでで最大の規模へと成長した。


 表に出ることを主とする百鬼ナキリとは袂を分かつことになりそうだが、それでもやっていけると、チョーワールは考えていた。


 今が黄金時代、その一歩手前だと、彼らは確信していた。


 ◇


「……期待外れ、ですね」


 チョーワールは心の底から落胆のため息をついた。


 クラク、現れればその場は壊滅する。


 現段階において、クラクは脅威度ランキングで百位辺りを上がったり下がったりしている。ダイワ―ルが七十位前後と考えればかなり格下である。


 しかし、これはクラク個人による順位、ダイワ―ルのような組織と比べてそれだけの脅威と考えられてのことだった。


 それがどれほどか、襲撃の知らせを聞いてチョーワールは、正直戦うことを楽しみにしていた。


 今の闇の力は最大規模、これでならミニィーネ全員を相手にしても負けはしないだろう。


 それを確かめるべく、実戦テスト、地上が一人、また一人と消されるたびに緊張よりも喜びが勝った。


 そしてついにここまで来た。


 しかしどうだ。消耗しきって虫の息だ。


 当然と言えば当然だが、こんなのを殺しても価値はない。


 ならばいっそ撤退してくれればとも思うのだが、その気はないようだった。


 殺気が伸びる。


 隠す気もないどす黒い気配、銃口から伸びて、チョーワールの顔にかかる。


 発砲、違わず殺気通り、読めるなら受けるのもかわすのも容易い。


 抜き放った剣『ワルサーベル』にて弾き、失せぐ。


 その隙を逃さないのは流石と言っておこう。


 銃弾に匹敵する加速、手早い動きで銃をしまい、斬撃の間合いにて、抜刀する。


 美しい黒刀、禍々しい妖刀、振られる一刀は確かに脅威的だった。


 だが、敵ではない。


 刃と刃、かち合い火花、落ちきる前に、クラクの身が吹っ飛ぶ。


 純粋な身体能力に加えて闇の力のブースト、巧なら受け流される雑な技だったが、クラクはまともに受けて飛んで、水槽の一つに激突した。


 漏れ出るバイオ液、零れ落ちた出し殻脳、一台数億の高級機材だが、どうせ廃棄予定、惜しくもない。


 それよりもなかなか立ち上がらないクラクにいら立つ。


「どうした? 終わりか?」


 安い挑発、だが返事はない。


 死んでは、ない。気絶もしてない。


 ただ寝そべった姿勢で、何やらぶつぶつと独り言をつぶやいている。


「まさか、祈ってるわけでもなかろう」


 言って呪文の可能性を思い出し、耳を澄ます。


「……いいから、泣き言は後にしろ」


 独り言、呪文ではない。


「おい」


「ちょっと黙ってろ!」


 怒声、黙らせて、そしてクラクはまた、


 その姿は、いかれていた。


 それは、初めからかとチョーワールは冷めきった心の中で笑う。


 こんなところに


 そんなやつ、この手を下すまでもないだろう。


「ちょうどいい。とっておきを見せてやろう」


 チョーワールはワルサーベルで宙を斬ると赤い切れ目が現れる。


 それが広がり、這い出てきたのは兵隊の最新モデルだった。


「殺せ」


 命じると、兵隊たちは速やかに従った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る