サウス・ホスピタル2
教師の両親の家に長女として産まれ、下に弟と妹がいる三人兄弟、幼少期から成績優秀、医療大学へは特待生で入学、医師免許取得後は大学病院に外科医として勤めるも半年で辞めしばしニート、常闇の時代開始とほぼ同時期にNPOの『国境を無視する医師団』に所属し各国を飛び回る。
この辺りから経歴が怪しくなり、NPOに入って三年で脱退、その後は独立し整形外科医となる。持ち前の美貌と確かな腕前から瞬く間に人気となり、顧客はセレブに限らず、独裁国家の重鎮から闇組織の幹部に至るまで、金さえもらえれば誰でも美しく改造していった。
四年後、脱税で起訴され、その間パスポートを没収され、国内に閉じ込められる。その間に地元大学病院に在籍、税務署へのご機嫌取りか、高額で難しい手術を積極的にかなり安い費用で行うようになる。
税金問題が片付いた後も大学病院にはパートタイムで所属し続け、同時に整形外科医としても活動を再開する。このころから、美貌と能力から有名人となり、一代で稼いだ費用でセレブ入りを果たす。
……そして二年前、彼女に対して告発があった。
彼女は血の貴族である。
『魔法をきわめて神から知識を得て現世を救済しよう、そのためならばあらゆる犠牲は許される』
熱狂、秘密、信仰を美徳とし、合理的思索を嫌う魔術カルト、それとスキャンダルはあったにせよ、人命も救っている美人女医がそこに属しているというのは、興味を惹かれてもゴシップの域を出ていなかった。
しかし、退魔百家の襲撃により、ゴシップでは済まなくなった。
病院での惨劇、入院患者と手術中のバスケ選手を含めて二十八人が死亡、爆発と火災により病棟は全壊、さらには状況を収めようとした警察隊と退魔百家との間で小競り合いまで発生した。
この窮地を幸運にも逃れることができたのだが、本人が無実かどうかではなく、退魔百家が狙っているというだけで、危険人物として扱われるようになった。
……彼女が、この島に来たのはちょうど一年前だった。
原則途中入島を認めていないリッチメンズアイランドだったが、医者として勤務し続けることを条件に特別に認めたのだった。
当然トップシークレット、島外に漏らすのは当然で、島民の間でも腫物を触るような扱いだった。
◇
モルチオ、彼女は、ヒニアの顧客の一人だった。
気さくな物言い、庶民的な感覚、若干レズの気配はあったものの、セレブよりもこちら側に近い人物として、ヒニアは好きな方だった。
そんな彼女が、目の前にいる。
立場は、テロリスト側にしか見えなかった。
その登場に、クラクは大きなため息を吐き出した。
最早怒りの感情は感じられない。ただ、がっかりといった感じだった。
「何よ失礼ね」
モルチオの言葉に、クラクの返事はぶっ放すことだった。
まだ残ってたサブマシンガンの弾、だけどもそれらは彼女の前に出た男らが肩を組むように壁となり、全部を体に受けて防いだ。
当然、穴は空いても血は流れない。
「ほんとやめてよ」
壁の横からひょっこりと顔を出す。
「言っとくけど、私は今回の件には関係ないんだからね」
その言葉に返事するように、クラクは空になったサブマシンガンを投げつける。
急いで顔を引っ込めるモルチオ、だけど銃は壁の男の顔にめり込んで止まった。
「こいつらもー、もともと死んでたの。それを生きてる風に見えかけろって、こいつらの子供が言ったんだよ」
言葉の意味を、ヒニアは掴み損ねていた。
「美容整形、綺麗な外見、文句も言わず、淡々とルーチンワークだけをこなす。操る職員がいなくなっちゃって、暴走してるけどー。上手くやればずーーっと長生き、平和でしょ?」
これでやっとヒニアにはわかった。
遺産相続、相続税、それとあるかは知らないけれど年金、人が死ぬとセレブであってもお金を取られる。だから生きていることにして、損失を減らそうとしているのだ。
それは明らかに外道で、平和には程遠いとヒニアは感じた。
だけど、クラクは違ったみたいだ。
「……念のために聞くが、お前は、プラントとコーポレーションと、後白い寄生虫使いの男について、何にも知らないよなぁ?」
期待してない、馬鹿にしたような口調、よくわからないけど、彼女がクラクを悪魔にするほど怒らせた相手じゃないらしい。
「知るわけないでしょそんなの」
「じゃあいい」
言葉を切って、クラクは、背を向けた。
そして来た道を戻っていく。
「ちょっと!」
慌てたモルチオの声に振り返りもしない。
ただ大きくため息をついて、がっかりを全身で表現していた。
「はいそうですかって、返らせるわけにはいかないのよね。知られちゃったし」
パン!
モルチオが手を叩くと、ざ! 音がした。
談話室、座っていただけの人たちが一斉に立ち上がり、こちらに向かってあるkぢあしていた。
それに彼女の背後から、控えていたのか、同じような服装の男女が現れる。
それは来た道も同じ、無表情、瞬きも呼吸もない人たちが、ずらりと並んでヒニアとクラクを取り囲む。
「生きてない人形、だけど耐久力は折り紙付き、銃のないあんたに突破できる?」
合図に、人形と呼ばれた人たちが迫って来る。
「必要ない」
これに慌てることもなく、クラクは、一番近くの一人の顔面に拳を叩きこんだ。
吹き飛ぶ男、凹んだ顔、その鼻の穴から、青い炎が灯ると、一気に顔面全部に噴き出した。
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