パラダイス・ターミナル4

 ツヴァイハインダーは自分が何を召喚したのかはわからなかった。


 ただ、魂を捧げればどんな願いでもかなえると聞いていた。


 それで、最初に願ったのは『敗北』だった。


 最強の挑戦者、ヴァルハラでの最強を打ち砕く強敵、それこそが何もかもを捨てて恋焦がれたものだった。


 ……結果、望みは叶わなかった。


 何度も何度も戦って、強敵ではあってもそれだけで、死なないだけで面白みはなかった。


 何百何千と戦い続け、さきに相手の方が折れた。


 そこから出された妥協案『ツヴァイハインダーを二つにする』体を二つに分けて、だけども意思と魂は一つのままで、よりリアルな人形遊びができる、お代はタダ、到底臨むべきものではなかったが、他になかったのでそれで我慢した。


 ただ、そこには予想を超えた副作用があった。


 ツヴァイハインダーは必ず二つ、命は一つ、ゆえに、片方が壊され殺されたとしても、もう片方が無事ならば、正確には二つが同時に死なない限り、死なない。


 だから命知らずな闘い方もできるのだが、それにもすぐに飽きた。


 そんな時、今回のバカ騒ぎに誘われたのだった。


 ◇


 右半身生身のガンフロントのパイロット、油断なく構えながらも、その異形の右側が歪に膨らみ、生身の左半身が這い出てくる。


 今頃、向こうの左半身が同じようにこの青黒い霧の中に引きずり込まれているころだろう。


 こうしてツヴァイハインダーは二つを維持している。


 扱い方を工夫すれば不死身の体、だがこれはゲームに関係ないこと、むしろ余計なことと、深く意識せず、戦略に組み入れようとはしなかった。


 なくても誰にも負けない。それがツヴァイハインダーというチャンピオンだった。


「さぁああああああああ!!! ファイナルラウンドだぁああああ!!!」


 回復する隙を与えず襲い掛かる緑の巨体、ガンフロント、右腕の銃をクラクへと向ける。


 外見はサイズこそ巨大なブローバック銃、だが構造は大きく変わり、銃口を覗けばガトリング砲が回転していた。


 戦闘機用の機関砲を巨大ロボット用に改修したのがこの銃の正体だった。


 外される安全装置、銃身が回転し始めるまで数秒、その間にクラクは立ち上がり、腰から左手が拳銃を引き抜いた。


 狙撃、狙われる。


 その銃弾が届くと実感しながらも、ツヴァイハインダーに恐れはない。


 相手のどんな動きにでも対応し、返せる。パイロットむき出しのデザインで不敗でいられる自信を技量が反応していた。


 銃声、だがそれより早く左腕の盾は掲げられ、そのままでは眉間を打ち抜いたであろう弾丸を弾いて止めた。


 代わりにその姿を見えなくなったが構わない。


 十分の回転を感じて引き金を引く。


 爆音、火炎放射のような閃光を吐き出しながら、徹甲弾が毎分四千発の速度で乱射される。


 ばばばばばばぱぱぱばばばぱぱぱばぱばぱばぱばぱぱぱぱぱぱ!!!


 盾越しにも響くとても良い音楽、うっとりする。


 ガトリングの回転と連射、そして安物の徹甲弾ゆえに、この銃の命中率は低い。その分ばらける弾丸は、点ではなく面での破壊を可能にしていた。


 姿は確認できない。だが確実に逃げきれないだろうとの確信が、ツヴァイハインダーにはあった。


 ……その変化に気が付いたのは這い出たばかり、復活したばかりの左半身生身だった。


 操縦の邪魔にならないよう、端により、何となく見上げた盾の端、クラクに撃たれたであろう部分に、亀裂のようなものが見て取れた。


 だがそれは、動いて、広がっていた。


「おい」


 思わず口にした左半身生身、だが次に聞いたのは、ぺチリ、と間抜けな音だった。


 何の音か、疑問はガンフロントが大きく揺れて振り落とされた。ぶれる銃口、ずれる盾、ふらつく足元が倒れてないのはオートバランサーのお陰、急に運転が酷くなった。


 何事か、左半身生身の生の左目が見たのは、コントローラーを手放してる右半身生身、それどころか力なくうなだれ、揺れに揺られて上を向いた顔は、白目をむいていた。


 その生身のこめかみに、ぷっつりと穴が空いて、血が噴き出ている。


 即死、銃創、攻撃、そして気が付く。


 撃たれていた。


 恐らく盾を撃った時、ほぼ同時に真上に撃って、落ちてくる弾丸で、殺したのだ。


 ガンフロントは動いていない。ならばおおよその位置は予測できる。後は練習と離れと、ガトリングで撃たれてなお怯まない、狂気、もしくは途轍もない幸運だろう。


 ともかく、右半身生身は撃ち殺され、今度は左半身生身から這い出てくることになる。


 死んでも蘇るが、痛くないわけではない。


 不快に思いながら右半身生身の右半身の生身が青黒い霧に飲まれていなくなるのをしばし待つ。


 ……が、途端に感じたことのない途方もない激痛が、左半身生身に襲い掛かる。


「「ぎゃああああああ!!!」」


 悲鳴は輪唱、右半身生身も復活しているようで、だけども這い出ることできないで、半端な位置で引っ掛かって、まるで右半身と左半身がぴったりとくっついたようだった。


 異物、何か、頭にめり込んでいる。


 二つが同時に感じ、一つだけがそれが弾丸だと感じられた。


 ……這い上ってきたクラクは二つ同時に見えた。


 慌ててコントローラーに手を伸ばす二つ、だが一人であって二つである右手と左手は相互の連携が取れず、まともに掴むことすらできなかった。


 時間切れ、揺れるガンフロントの上に仁王立ち、右手一つを重なる二つの頭にのせると、そのまま掴んで持ち上げた。


 吐血に真っ赤な口は、笑っていた。


「ミンチになる。ロボット乗りにとって最高の最後だろ?」


 意味は理解できない二つ、それでも身の危険を感じ続けてる二つ、連携などお構いなしに手と足を暴れさせる。


 だがクラクには無力、何事もなかったかのように振りかぶって、投げた。


 その先には未だに止まってないガトリング銃、その銃口から放たれる閃光、毎分四千発連射の徹甲弾の中に放り込まれ、二つはまとめてミンチとなり、一人だか二人だかわからなくなって死んだ。

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