パラダイス・ターミナル3
コロシアムは、使用している電池のサイズでの階級とは別に、いくつかルールによる区分が存在する。
通常の自立型を一対一で戦わせる『スタンダード』、無数のロボットを動かす単一サーバーを襲い合う『ウォーゲーム』、そして直接運転し殺しあうのが『ヴァルハラ』だった。
巨大ロボットに乗り戦う、昔から続くアニメの延長線上、夢の実現、当然非合法、しかし命がけゆえに八百長もなく、最も盛り上がるルールだった。
そこで、無敗のチャンピオンがツヴァイハンダーだった。
一見すれば赤毛くせ毛の小太り男、パッとしない外見ながら設計も開発も制作も運転もこなす天才だった。
黄金時代、あらゆる国、人種から挑戦を受け、これらを打ち倒し、殺して、勝利してきた。
しかし暗黒時代、あらゆる敵を殺しつくしたチャンピオンを前に、憧れは抱いても挑もうとの心意気は育たず、挑戦者不在の時期が続いた。
戦いのない半年が過ぎて、姿をくらましていたツヴァイハンダーだ再び公に現れた時、彼は二つになっていた。
そして復帰戦第一戦は、ツヴァイハインダー対ツヴァイハインダーだった。
◇
異形だった。
そっくりの二人、それぞれの右半身、左半身は同じ赤い髪、同じ顔、同じ笑みを浮かべている。
対して残り半身は、青黒い靄が人の輪郭を形作っていた。
契約者、そうクラクは聞いている。
契約先は何者か、代価は何か、細かいところまでは聞いていないが、人ではなくなったとは、会う前から知っていた。
それが事実だと一目でわかる。
目と目の間、鼻の先端からヘソを通って縦に真っ二つに、割かれてあの靄を通して繋がっている。一人だが二つ、自分で自分と戦うための暴挙、それでも満足できなかったとも聞いていた。
そのツヴァイハンダー、緑のガンフロント、赤のツーソード、それぞれ前回と前々回の優勝ロボットだった。
どちらもクラクの背丈より倍は大きい。
「先発はツーソードからだぁああ!!!」
絶叫と同時に左半身生身のツヴァイハンダーが叫び、ツーソードが大きく踏み込み、右手の刀を振り下ろす。
これを当然横へと跳んで回避に出るクラク、だったが、その身を穿ったのは踏み込んでた足の方だった。
人ならば絶対に地についていたはずの足、しかし如何なるバランス感覚か、地面すれすれで、音もなく進んでいた。
衝撃は交通事故、大柄なクラクでもこれには流石に後方へと吹っ飛ぶ。
ダメージ、最低限に抑えるため小まめに地に足をつけ減速し、同時に跳ねて見えてないはずの後方のグリード残骸を駆け上る。
そして胸の高さにまで跳んだ体へ、今度こそツーソードの刀が襲いかかる。
横から見れば、柱にしか見えないほど長大な片刃の刃、しかしその刀身は薄く、夜風を切り裂く音だけで斬れ味を語っていた。
比べてあまりにも小さすぎるクラク、抜刀する。
夜の闇に紛れてなお暗い刀身、ツーソードの刀とかち合う。
火花、響く金属音、そしてクラクが吹っ飛んだ。
コートをたなびかせ、ヒニアを飛び越え、コンテナ側面に掠れ、蹴り離れ、きりもみ飛んでいく。
物理法則にのっとった当然の結果、だが切り傷のないクラクへ、背中のバーニア吹かしてツーソードが飛び、追跡する。
そして連撃、圧倒的な速度、絶え間ない斬撃、一撃一撃がクラクを飛ばしてゆく。
その全てを防ぎ切ったクラクだったが、重力には逆らえず、終に地に落ち、転がって止まった。
背後は海、コンテナは遠く、敵は高い。
それでもクラクは怯まず、真っすぐ立ち上がると、静かに手の刀を握りなおした。
海を背に、持つ右腕は下へ、刀はへその高さで、地面に平行に、構えた。
戦う意識、折れぬ戦意、本物の勇者、だけども矮小だ。
あざ笑いながらツヴァイハインダーの一つがなおツーソードを突っ込ませる。
……だが、その動きがピタリと止まる。
強張る手足、跳ね上がる動悸、操作ミスしなかったのは日頃の鍛錬の賜物、そこから刀を交差し防御に入ったのは経験によるものだった。
だが、歴戦のチャンピオンにそうさせる原因を見つけ出すのに、少々の時間がかかった。
……機械を操りそれ以外を軽視しているツヴァイハインダーが、自分があの刀に気おされていると認めるまで、たっぷり二呼吸かかった。
夜の海をバックとする刀に、外見上の変化は見られない。
ならばこれは本能か? あるいは霊感か? 強者の直観か?
答えを求めてる間に、クラクは動いた。
ゆっくりと刀を上げて頭上へ、真っすぐ突き上げて刹那、斬り下ろす。
シン!
耳に刺さる静寂、遅れて夜風がかき乱される。
ずるりと取れたのは二本の刀、交差した柱のような金属が、同じ線で両断されていた。
それはツーソード本体も、その背後のコンテナも、そして乗っていたツヴァイハインダー自身も、一刀両断だった。
「…………マジかよ」
自身の一つとツーソードを撃破され、驚きを隠せないもう一つ、だがその目はクラクを見逃さなかった。
膝をつき、刀を杖にし体を支え、開いてる左手で口を押え、それでも抑えきれないほどの、吐血、吐き出している。
体力か、寿命か、魔力か、魂か、何を消費しているかまではツヴァイハインダーにもわからなかったが、次はないとは見て取れた。
「「なら、殺せる」」
一つから、声が二つ聞こえた。
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