パラダイス・ターミナル2

 化け物が溢れる時代、対抗策に化け物を、と考えるのは自然な流れだった。


 その流れに、少年たちの夢と希望が合わさってドローンが産まれた。


 自立戦闘用ロボットの実現、しかし夢と現実とはどこでも仲が悪い。


 思い描いた巨大ロボットはコストや実用性の面から否定されて、小型で個性がなく、プロペラが六枚もあったり、二足歩行できなかったり、挙句武器は銃器か自爆だったりと、面白くないものが主流となった。


 そこからサイボーグにグレるものもいたが、諦めなかったものたちは最新テクノロジーに魔術と狂気を合成して、夢の巨大ロボットを作っていた。


 そして自慢のロボットを見せ合い、戦わせるため、あちこちにコロシアムまでこさえるようになった。


 その多くが非合法ながら、それらを利用して優秀なロボットやその製作者を発掘しようと、当初の政府は黙認していた。


 しかしその隙に犯罪組織が入り込み、賭博やテロへの流用と闇サイドへ多くの利益を奪い去れら、駄目押しに表に出たばかりで地盤を強化したい退魔百家からのネガティブキャンペーンにより、巨大ロボット、延いてはドローンの開発が大きく遅れることとなった。


 ロボットコロシアムは全て地下に潜り、アンダーグラウンドなネットでも娯楽の一つに成り下がっていた。


 ホワイト・グリードは、そんなコロシアムで活躍するために作られた。


 ◇


 首をやられても、ロボットのグリードは出血もしなければ死にもせず、降参もしなかった。


 だけどもカメラには支障が出ているらしく、動きがぎこちなくなる。


 それを力任せに押しつぶすように両足のキャタピラを空回りさせると同時に、右腕のチェーンソーを起動、甲高い音を上げながら天高く突き上げ、目前の敵、クラクへと突撃した。


 ただ踏みつければそれで即死の体格差、本来なら自身と同じ無差別級のロボット用の巨大チェーンソーで斬りかかったのは機械ゆえの応用力のなさだった。


 背後のコンテナを切り裂きつつ降りてくる走る刃に、クラクは迷わず回避に跳んだ。


 刹那に爆発、チェーンソーがコンクリートに触れての結果だった。


「おーーっと! これは危なかったーー!!!」


「だけどまーだだー! グリードの攻撃は終わっていないーー!!!」


 盛り上がる実況、それに応えるようグリードが追撃する。


 左腕起動、腰を前に倒し、箒で掃くように追撃する。


 チュイン。


 小さくだけども強烈な音で掠れたコンクリートが削り飛ばされる。


 それが背後に迫るのに、クラクは振り向きもせず走り、反対側のコンテナへ。到着と同時に側面を蹴っての三角飛びでグリードへと跳んだ。


 それをよ予測するように、右手のチェーンソーが待ち構えていた。


「「おーーーーっとおわったかーーーー!!!」」


 重なる実況の中、クラクは空中でまだ持ってた右手のライフルを投げつけた。


 狙いはチェーンソー、回転する鋸の鎖が引き込まれる穴、首に刺した時のような正確な投擲が吸い込まれ、巻き込まれた。


 バギン!


 一つながら多くが混ざった、コクのある破壊音、巻き込まれたライフルはひしゃげ、中の銃弾が暴発、チェーンが外れフレームは歪み、それでも止まらなかったモーターが引きちぎれた。


 クラクが手をかけ、よじ登ったのは、バチバチと火花を漏らして上がらなくなった、壊れたチェーンソーだった。そして肘から肩へ、駆け上る。


 グリードは棒立ちだった。壊れた腕に張り付いた人間をどうにかするプログラムがなかったのもあるが、そもそも首が回らず見えてもなかった。


 そして、次にクラクの姿を捉えてもなすすべなく、刺さったライフルで首をこじ開けられ、されるがままに内部をほじくり返されて、沈黙した。


 ◇


 人間が巨大ロボットをやっつける。


 漫画やアニメや映画やホラでなら知ってる世界、ヒニアは今現実に目の前にあっても、空想としか思えなかった。


 それが魔法や銃火器や、そういう納得のいくものではなくて、槍として使われた二丁の銃と、あとは人力での解体ともなれば、ますます現実味がない。


 彼は今のところ味方で、相手は敵で、だから喜ばしい状況なのだが、それが一層、これは夢なんじゃないかと思わせた。


 そんなヒニアの目の前にドチャリと金属の何かが落とされる。


 黒金色の金属のロープ、千切れたチェーンソーの残骸らしかった。


「聞こえてんだろ!!!」


 クラクの怒声が夜のコンテナに響く。


「こんな雑魚! いくらきてもこうなるだけだ! 本気で勝ちたきゃでこい!!!」


 耳を塞ぎたくなるほどの大声、敵に見つかるとかは考えないのか、ヒニアが思ったのとほぼ同時に二つの笑い声が輪唱する。


「そうくると思ったよ!」


「お望みどおり来てやった!」


 声は放送ではなかった。


 そして闇の中でもわかる、巨体の動き、跳んで、降りてきたのは、二台の、赤と緑の巨大ロボットだった。


 先程の白に比べたら三分の二ほど、スマートな造形はより人に近い。背中にはバーニアらしき光、赤は二刀を、緑は銃と盾を持っていた。


 そして何よりもその頭部、載っているのはカメラではなく、人の上半身だった。


「グリードを実力と思うな!」


「あれは組み立てが簡単だったから動かしてただけだ!」


がチャンピオンなのはこのヴァルハラだぁ!」


「生身での参戦はルール上OK! 問題なく殺してやる!」


「「無敗のチャンピオン!! ツヴァイハンダーの実力見せてやる!!!」」


 彼らは、ヒニアの目にはそっくりな異形に見えた。

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