パラダイス・ターミナル1
道中で逸れてたゴブリンどもを轢き殺し、撃ち殺しながらも、クラクの運転するプール掃除のバンのライトが金網が見えるところまでたどり着いた。
黄色く塗られ、指は通れても拳は通れないきめの細かさ、高さは背丈よりやや低い程度、上には監視カメラはあっても有刺鉄線はない。治安は海上で保つ。一歩入れば善人しかいない。それを象徴するような緩い壁だった。
その向こうにはカラフルなコンテナが、まるで積み木のように積み重ねられてならんでいる。さらにその向こうには海が広がっているはずだが、闇が覆い隠して見えなかった。
そんな金網へ向かう真っ直ぐな道を、爆走している。
「突き当りを右に、壁沿いに走れば門に出ます」
ヒニアの案内に応える代わりに、クラクはアクセルを踏み込んだ。
加速、加速、揺れる車体、迫る壁にヒニアが言葉を発するより先に、正面から衝突した。
折れ曲がった柱、千切れた金網、落ちた監視カメラ、それでもバンは突破ならず、割れたフロントガラス、外れたサイドミラー、弾けたエアバック、エンジンだけが空転し、停車していた。
……衝突の衝撃よりも、驚きの衝撃で動けないヒニアを置いてクラクは、持ち込んでたアサルトライフル二丁を引っ張り出すと、両手に持って車を降りた。
「管制塔はあっちだな」
返事も待たずにクラクは歩き出す。
「ちょっとまってよ!」
慌ててエアバックをどかして下車する。
自分の体に怪我がないのを確認しながら、ヒニアは管制塔とは何かを考える。
確か、港は門を中心に二つのエリアに分かれていて、今いる左側が物資や重機を置いたりするエリアで、右側が住民用のヨットが停泊するエリアになっていた。その中心、門を抜けてまっすぐ行った所に管理棟がある。きっとそこのことだろう。
それを口にする前に焦げ臭い臭い、振り返ればひしゃげたボンネットから煙が上がっていた。
全力で逃げる。
悠然と、だけども大股で歩いててだいぶ先にいたクラクを追い抜いた瞬間、爆発した。
爆風で押し倒され、咄嗟に両手を前に突き出しながら、ヒニアは首の後ろを焦がすのを感じた。
「やっと来たか」
身を案ずる声と聞き間違えたヒニアが顔を上げ、夜空に見つけたのは、音もなく飛来してきた、無数のドローンだった。
◇
大きさは三十センチほどの青色の六角形で、それぞれの角にプロペラがあり、中心部下に魚眼レンズのカメラを搭載、事前にプログラムされたルートを自動で飛行し、不審な物や人を見つけると中央制御端末に警報を送ると共に追跡する。
コンパウンド=アイズ2000と呼ばれるこのドローンは完全自動で確実な監視を行える、最新鋭の警備システムだった。
……しかし、対ハッキングシステムや暗視カメラ、電磁パルス対策は万全であっても所詮は空飛ぶ監視カメラであって、一切の武装を搭載しておらず、飛行のために軽量化した機体は、アサルトライフルの前ではただの的だった。
……また一台、撃ち落とす。
煙を上げ、ふよふよと落ち、地面に触れると同時にリチウムイオン電池が爆発した。
それに何の感想もなく、クラクは歩きながら次へと狙いを定める。
もういくつもコンテナを過ぎた。
点在する電灯に燃えるドローンの残骸で灯りに不自由はしてないが、それでもまだ先は闇、終わりは見えなかった。
ただ時間と、弾だけが浪費され、それにクラクはいら立ちを隠せなかった。
と、まだ飛んでたドローンたちが一斉に距離を取った。
「やっとか」
呟くのと被せるようにノイズ音が響いた。
「お待たせいたしました!」
「エキシビジョンマッチの開始です!」
同じ声が二つ、別々に聞こえてきて、続いて機械の軌道音が静かに唸った。
どこだ?
クラク、見回す。
電灯、コンテナの壁、燃えるドローン、逃げるヒニア、転がる薬莢、そしてまたコンテナ、その影よりぎゅるりと飛び出てきたのは、巨大な白いロボットだった。
高さは、コンテナと比べても6mはある。短い二本の足、ただし裏はどちらもキャタピラ、やたらと胸が前に出たボディは角ばっていて、首のない頭はまんま監視カメラ、両腕はなく立った姿で地面に先が付くほどで、その大部分がチェーンソーになっていた。
明らかに警備用ではない、だからといって軍事用にも見えない、ただ危険なロボットがそこにいた。
「レッドコーナー! 残虐非道の惨殺機械! 今夜も赤く染まるのか! チョッパーーーー!!! グリーーードぉーーーーー!!!」
「大してブルーコーナー! 突然の乱入者! そんな装備で大丈夫か! 命知らずのぉーーーー!!! しんにゅぅーーーしゃぁーーーーー!!!」
演技臭いアナウンスを無視してクラクはアサルトライフルを連射し始めた。
膝、腰、肩、カメラ、火花と共に凹みと傷を作る。だが装甲を貫通するほどには至っていない。
「さぁ! 侵入者! ルール無用の先制攻撃! 正確無比な射撃お披露目だぁ!」
「しかーし! グリードの装甲は戦車クラス! カメラも最新の防弾ガラスだ! 旧式ライフルなんかじゃ傷しかつかないぞぉ!」
その言葉に従うように、クラクは射撃を止める。
「おーーっと、諦めてしまったかぁーー!」
アナウンスを無視してクラク、銃を器用に持ち直し、グリップから銃床へ、それも逆手で、掴みなおした。
それはまるで槍投げのように、そう陰から見ていたヒニアが思うより先に、まるで槍投げのように、クラクは投擲した。
歪な形のライフルが、真っすぐ鋭い軌道で、ロボットのグリードの監視カメラ下、首のあたり、駆動するためにあるわずかな隙間に、突き刺さった
「「ああああああああっっっと!!!」」
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