第11話

「なるほどな。だが志々見には後藤という子分がいる。昨日話しただろ?そいつは志々見に言われれば人だって殺すかもしれない。あんたの頭をやったのもそいつが中心だ。あいつがいる限り志々見から宝石を奪うのはかなり難しい」

 「だとすると山口の奴もやばいかもしれないな」

 それを聞いた財前が少し体を震わせる。

 「間違いなく志々見が宝石をその後藤って奴に預けているのは間違いないんだな?」

 「あぁそれは間違いない。後藤が志々見を裏切ることは間違いなく無いだろうし後藤は基本的には外には出ない。だから丁度いいんだ」

 「もう一つあんたらはどうやって店から盗んだんだ。もうどちらにせよ俺たちにはばれてるんだ。あんな大胆な方法で未だに捕まらないっておかしいだろ」

 「それは・・・俺もよく分からない・・・嘘じゃない・・・本当に分からないんだ。ただ志々見の奴に絶対に大丈夫って言われて金も欲しかったしつい乗ってしまったんだ。けれど俺たち素人じゃ盗んだはいいもののさばき方が分からなくてイライラしてあいつから取りあえず奪ってやろうって考えたりしたんだけどうまく行かなくて・・・」

 どうやらこの男、想像以上にオツムの具合はよろしくないようだ。しかしここまでボロボロと話をしたところを見るとこちら側に引き込めたと思っていいだろう。

 「あんたには志々見の奴をその後藤って奴と引き離す仕事を手伝ってもらいたい。簡単な話だろ?」

 「ちゃんと取り分はくれるんだろうな?」

 「当たり前だ。そもそも俺たちは宝石の方には興味がない全部あんたにくれてやるよ」

 「本当だろうな。約束だぞ」

 「あぁそれでまずあんたにやってもらいたいんだが・・・」




 一通り話終えた後、念のため先に財前を退出させる。しばらくたったのを確認し洋次たちも部屋を出る。終わったことを隣の部屋で聞いているはずの3人に教えようと中を覗くと肝心な仕事を忘れて歌い呆けていた。

 「あっ洋次さん。一緒に歌いませんか?」

 冷の向けてくるマイクを手で遮り小林に文句を言う。

 「お前らなぁ。分かってんのか?」

 「しょうがないじゃんか。あんたたち話が長いんだもの。ちゃんと歌いながらあんたらの話は聞いてたわよ。それに冷ちゃんがカラオケ知らないって言うから」

 「ごめんなさい。私、珍しくてつい・・・」

 「いいんだよ冷ちゃん。私たちも一緒に楽しんだんだから同罪よ」

 これ以上言っても仕方がないだろう。2人は冷に付き合っただけだろうし今のところ事はうまく進んでいる。洋次は冷が渡そうとしていたマイクを受け取り

 「一緒に歌うか?」

 「はい!」

 冷以外には不評だったのは言うまでもない。




 「なるほどな。後は財前に志々見を引っ張りだして貰うだけだな」

 「あぁその後は山口の出番だ」

 家に戻った5人は今日のことを報告する。飯田の方はまだ帰ってきていないようだ。

 「飯田からの報告によると志々見の奴は昼ぐらいから誰かと電話で話しながら公園の方へ向かったらしい。ただ途中で迎えの車に乗り込んで行ってしまったらしくて今は後藤の家を張っているらしいんだがその後藤って奴は全く外には出てこないらしい。今はやけに機嫌の良い財前が帰って来て2人らしいそうだがそっちはうまく行ってそうだな」

 「あぁただその志々見を乗せた車ってのは気になるな」

 「それは俺も気になったんだがシルバーのワンボックスってところしか見えなかったらしい。ただやけに周囲を警戒しながら人影の少ない場所だったから隠れるのに苦労したって言ってたよ」

 そこまで用心しているとなると志々見自身もその車の運転手も怪しく思えてくる。

 「だがまぁ後藤が宝石の残りを持っているのは間違い無いだろう。土曜日の夜、あいつらから宝石を奪った後それを警察にでも届けるか。志々見と財前の指紋をべっとりとつけて送れば流石に捕まるだろ。もちろんあの2人以外の指紋は拭き取っておくけどな」

 「そんなことできるのかよ」

 「2人揃って縛り付けとけば手に触れさせることぐらい簡単だろ?」

 その縛り付けるのが難しいのだが・・・財前はともかくとして志々見を縛り付けるのは相当、難しい。

 「ところで頼んでおいた偽の宝石はどうなってる?」

 「それならここに」

 冷がいつの間にか洋次の部屋に置かれていたどこかで見たクーラーボックスから本物にしか見えない氷でできた宝石を取り出す。

 「すごいなこれ。どうやったんだ」

 「秘密です」

 「つめてっでもこれならあいつら騙されそうだな。それでこれをどう使うんだ?」

 「まぁ財前にやる用だな」

 「そろそろ飯田が帰って来るころだな」

 ちょうどその時、洋次の携帯が鳴る。

 「飯田からだ」

 そう言って電話に出る。

 「お疲れ飯田。今どこだ?」

 返事がない。

 「お前が持っている。宝石を全て返せ」

 「誰だお前!飯田はどこだ!」

 「今日の夜10時、中央公園の廃倉庫まで来い。警察に言えば殺す」

 そう一言、告げると電話は途切れた。

 「どうした?飯田に何かあったのか?」

 速水が問いかける。

 「飯田が志々見に捕まった。今日の夜10時に公園の廃倉庫に来いって」

 「そんな!」

 思わず中川が悲鳴に近い声を上げる。

 「俺のせいだ・・・」

 「速水のせいじゃねぇよ元はと言えば俺が巻き込んだから・・・」

 「今更、公開してもしょうがないだろ。それよりも飯田を助けないと」

 力也に言われ我に返る。すぐに洋次は宝石の場所を確認する。

 「流石に飯田がさらわれたとなっては本物を渡すしかないな。俺が1人で行くよ。みんなはここで待機しておいてくれ念のため携帯を通話状態にしておくから」

 「私も行きます」

 冷が声を上げるがそれを力也が止める。

 「いや、念のため俺が後をつける。もちろんばれないようにかなり離れた位置からだがお前がなんと言おうとついていく」

 力也は言い出したら聞かない。それにやはり自分1人で飯田を助けるのは難しいだろう。

 「分かった。でも気を付けてくれ。飯田のためにも」

 「俺は財前を当たってみるよ。あいつは今回のことには関係ないだろうけど何か知っているかもしれないし。山口は絶対にここを動くなよ。お前まで捕まったらまずい」

 悔しそうな顔で頷く山口にお前はこいつら3人を守ってやってくれ。大丈夫、俺と洋次が飯田を連れて帰るから」

 「宝石はこのバッグの中だ。念のためこれも持って行け」

 速水が防犯ブザーを渡す。いくら遅い時間とはいえ誰かが通りかかる可能性もある。それに力也に知らせることもできる。

 「10時か・・・長いな・・・」

 夜までの時間が焦りと不安を倍増させる。その時、速水に朝、渡された携帯が音をたてる。財前と連絡を取るためだけに速水がどこからか調達してきたプリペイド式の携帯だ。

 「はい」

 「財前だ。今、後藤の家に帰ったら誰もいないんだ。宝石も消えてる。どうなってるんだ。お前ら騙したのか!」

 耳障りな声が頭を突き抜ける。飯田のことがなければそれも気にはならなかっただろう。だがこんな奴でも飯田と山口を助けるには使うしかない洋次たちに残された駒の1つだ。大きく息を吸い込み吐き出す。

 「いや、俺たちは何も知らない。こっちも面倒なことになった。一度、会って話がしたい。今日、会った場所に来れれるか?」

 「・・・分かった」

 しぶしぶだが了承してくれたようだ。ひとまず会うのは力也だけとなり1人部屋を出ていく。

 「それにしてもどうして飯田くんが・・・」

 「中川の言う通りだ。何で飯田が探ってるって気が付いたんだ。俺はあいつらと一緒に行動してたし面識のある速水や三輪ならともかく志々見もあいつのことは知らないだろうし」

 「そうよね。男子の中で一番、接点が薄いのよね。その接点も中学が一緒ってだけで志々見とは話をしたことすら無いだろうし」

 「飯田が言っていた志々見を乗せた車の持ち主が飯田を知っていたとか?」

 「それが一番考えられるわね」

 「とにかく飯田を助けるためにも最低限の準備をしておこう」

 「そうですね」


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