第12話
「そろそろ行くよ。力也、頼むぞ」
リュックを背負い時計を確認する。時刻は9時半を指していた。
「そんな顔するな。冷」
不安そうな顔を並べるみんなの中でも特に暗い顔をしている冷に声を掛ける。速水が全員に作戦を伝える。家族はリビングでテレビを見ているようだ。音を立てないように玄関の扉を開ける。ゆっくりと外にでて一息つく。襲われてけがをしたすぐにこんな時間から1人外に出るのは少し不安に感じるが今日は飯田を助けるという使命が洋次を後押ししてくれる。力也が後ろからついて来てくれる。そう自分に言い聞かせて公園へ向かう。遅い時間の住宅街ということもあり人通りは少ないものの夏ということもあり何人かに出くわす。そのたびに途中で奪いに来たのではと構えるため前に中々進まない。これでは公園に着く前に倒れてしまうなと1人苦笑する。入口にたどり着くと人影は無く昼間の様子が嘘のように静まり返っていた。廃倉庫は以前は公園を管理する人たちが使う道具を補完したり休憩ができるようになっていたようだが新しく小屋が建てられた後は誰も入れないように鍵が掛けられ放置されているはずだ。誤って子供が近づかないよう周りには柵が敷かれている。だが今日はその誰もいないはずの場所から聞こえてくる声を頼りに洋次はその柵をくぐり入口へと近づく。扉の鍵は壊され中から明かりが漏れている。
「約束通り持ってきたぞ」
すると志々見が顔を覗かせ中に入るよう手招きをする。
洋次は万が一襲われるようなら手に持った懐中電灯で殴ってやろうと強く握りしめながら恐る恐る中に入る。
すると目の前にさるわぐつを加え手足を縛られた飯田が目に入る。
「持ってきたものを渡せ」
「先に飯田を放せ」
「いいや宝石が先だ」
仕方がないので背負っていたリュックを志々見の方へ投げる。それを拾い確認をしている間に飯田に近寄り縄を外してやる。
「確かに本物だ。さて後はお前らをどうするかだ」
「目的の物は渡しただろ。帰らせてもらうぞ」
飯田を連れていそいそと出て行こうとする洋次の前に志々見が立ちふさがる。
「そうはいかないな。俺たちのこと調べたんだろ?」
志々見の威圧的な話し方に少し怯むも相手は1人だ。2人なら外には力也もいる。ところが志々見はおかしなことを言い始める。
「全部聞いてるぜ。なぁ?ーーーー財前」
丁度、明かりの影から見たことのある顔が姿を現す。
「残念だったな。こいつを丸め込もうとしてたみたいだが全部、知ってるんだよ。馬鹿な奴らだ。お前らが二度と口を聞けないようにしたら次は山口だ。まぁあいつにはいざという時の替え玉として命ぐらいは取らないでやるつもりだったが調子に乗った罰だ。あんな間抜けと付き合ってるせいでかわいそうに」
山口を馬鹿にされ自分の置かれている立場すら忘れ志々見に飛び掛かる。しかし喧嘩などしたことがない洋次が志々見に勝てる訳もなく。振り回した拳は空を切る。
「いいのか?そこで転がってる奴をほっておいて」
後ろを振り向いた瞬間、腹部に激痛が走る。思わずうめき声が漏れる。膝をついたところにもう一度、今度はまだ治っていない頭部に痛みが走る。ポケットを探られ通話状態の携帯をたたき壊される。
「生意気な真似しやがって早くこいつらを連れてここを離れるぞ」
力也が来ることを祈りながら洋次は必死で大きな声を絞り出す。その声が響く中・・・
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