第10話

「さて飯も食い終わったし。ゲームでもしようぜ」

 「私たち三輪のお姉さんの部屋に行ってくるわね。行こう2人とも」

 3人はそそくさと部屋を出ていき残ったのはむさい男5人。しばらく無言が続くも飯田がその間を壊すように話を始める。

 「ぶっちゃけ志々見の奴が山口の名前を出さないように脅すのってできると思うか?」

 「正直、難しいだろうな。財前なんかも破れかぶれで話してしまう可能性だったあるだろうし」

 「本当に馬鹿だな山口はさ。もっと早く相談してればこんなことにならなかったのに」

 「そう言うなって」

 さっきまで明るさを取り戻していた山口がまた下を向いて大人しくなる。飯田にしては珍しく人を責める。

 「いや、なんかさ。付き合いも長いんだしもっと頼ってほしかったなって。大丈夫だ。何とかしてやるさ」

 飯田なりに何とか助けてやりたいと思っているのだろう。洋次は飯田の言葉に何故か自分が励まされていることに胸の辺りが暖かくなったような気がした。

 「で、本題なんだけど・・・どうやったらあんなかわいい女の子と恋人になれるの?三輪だけずるいだろ。友達だろ?助け合おうぜ」

 気のせいだったようだ・・・

 夜も更け全員がうとうととしだす。隣の部屋から聞こえてくる笑い声も小さくなったのが分かる。そろそろ寝るか。その前にトイレでも・・・そう思い部屋を出ると首筋に寒気が走る。

 「洋次さん」

 小声で呼び止められ思わずこの年でちびるところだった。

 「なんだ冷か。どうした?溶けそうなのか?」

 「その時はリビングの冷凍庫にでも入るから大丈夫です」

 冗談に聞こえないから困る。

 「そんなことより大丈夫でしょうか?山口さんも洋次さんも危ない目に会ったりしませんか?」

 「大丈夫だよ。なんとかなるさ。だから心配しないで寝ろ。お前のことも守ってやるから」

 そう声を掛け部屋に戻らせた。その日は全員、いつも以上に涼しくよく眠れたらしいが理由は言わないことにした。



 次の日、一番に目を覚ました洋次はまだ寝ているみんなを起こさないよう静かに部屋を抜け出しリビングへと向かう。

 すると先に起きていた母が朝の挨拶より先に尋ねてくる。

 「洋次、あなた山口君って昨日、上で寝てる子たちの中にいる?さっきお母さんから電話があって昨日の昼間出て行ったきり連絡も無く帰って来てないんですって」

 思っていたより山口の親は心配性らしい。流石に男子高校生ということもあり1日2日は特に親が動くことは無いだろうとあまい考えをしていたがこれは早期に解決して山口を帰さないと大事になるな。頭のなかではそう考えながら

 「いや、いないよ。昨日は昼間に1度会ったきり見てないな」

 と嘘をつく。正直、こんな嘘もバレずにつき続けられるのもしれた日数だろう。後でみんなが下に降りる前に口裏をもう1度合わせておかないと、そう思いながら冷蔵庫から麦茶を取り出す。

 「お昼はどうするの?」

 「外に出てると思うから昼はいいよ」

 「朝ごはんもうすぐできるからみんな起こしてきなさい」

 コップに残った麦茶を飲み干し階段を上がると速水と山口はすでに起きていたようでまだ眠ったままの2人を起こす。

 「起きろよ。飯だぞ」

 すると眠たそうに目をこすりながら2人が起き上がる。

 「おはよう。みんなは」

 「こっちは全員、起きたよ。女子は・・・」

 言いかけたタイミングで姉の部屋から4人が出てくる。

 「小林、髪型すごいぞ」

 「うるさい。見るな」

 「洋次さんみなさんおはようございます」

 「おはよう」

 何人かはまだ寝足りないといった顔を浮かべながら朝ごはんを食べ始める。あとでコーヒーを山口に持っていってやろう。そう考えながら洋次は目の前のご飯を片付ける。

 「大勢で集まって何してるの?」

 母親の問いかけに飯田が

 「夏休みの宿題ですよ。みんなで終わらせようって夏祭り前に」

 「そう、えらいわね」

 本当に夏祭り前に終われは一番なのだがそう考えながら食器を片付け家族に見られないようにコーヒーを持って2階に上がる。部屋では山口が昨日買ってきたコンビニ弁当を食べ終え一服しているところだった。

 「ほらコーヒーでも飲めよ」

 手渡してから砂糖とミルクを忘れたことに気がつくが山口はこのままでいいと洋次の手からカップを受け取りそれを飲み始める。

 「頭の怪我どうだ?」

 「風呂でおもいっきり洗えないのがちょっとつらいな。でも大したことない」

 「ほんとにごめんな」

 「謝るなら俺を含めてみんなにお前がどんな目に会ってたかをすぐに話さなかったことだよ。夜中、力也が寝言でもブツブツ言ってたよ」

 「ごめん・・・」

 「まぁすぐに終わらせるさ」

 いつもの山口と違うこともあり沈黙が流れる。それを破るかのように食べ終えたみんなが部屋に入って来る。

 「なに辛気臭い顔を2人でしてるんだ?腹ごしらえは済んだんだから洋次は俺と行くぞ」

 「食べてすぐだぞ。少しぐらいゆっくりさせろ」

 ゆっくりと立ち上がり携帯と財布を持ったことを確認する。

 「財前に会って来るよ。冷たちは後からゆっくり来てくれればいいから。何かあったら連絡くれ」

 昨日と同じく力也と2人、駅の方へと向かう。だが今日2人が向かうのは昨日のゲームセンターではなく財前たちが根城にしている後藤の家だ。なので後で飯田も合流することになっているが志々見が一日、家から出ないこともあるのと違い財前は朝からどこかへ出かけることが多いという。それを聞いていた洋次たちは出かける前の財前をおさえようと早く出ることに決めていた。

 「流石にまだ出てないだろ」

 「どうだろうな。いなかったら昨日のゲーセンに行けばいいさ」

 「そんな簡単に見つかるか?」

 昨日と同じように2人で会話をしながら後藤の家を目指す。目的の家は山口たちと同じ洋次の家とは駅を挟んで反対側だが場所はかなり離れた洋次たちの住宅地よりさらに後から出来たまだ新しい地区にある。そのため歩いているとまだできて間もない家がいくつも並んでいる中、外観はまだ新しいものの明らかに両隣とは違い庭が荒れ放題の家が一軒建っている。

 「誰がどう見てもここしかないだろ」

 力也の意見に同意する。誰が見てもあまり関わりたくない輩が住んでいるとしか思えない雰囲気を放っている。

 「どうする?出てくるの待ってみるか?」

 「ピンポンダッシュしてみるのはどうだ?」

 小学生のような案をだす力也に呆れる。

 「最近のインターホンってカメラがついてるからばれるだろ」

 「そこは何とかして顔を隠しながらさ」

 「おい、隠れろ!」

 思わず力也の袖を引っ張り近くの家の影に隠れる。これだけみれはただの不審者だ。捕まるのは志々見たちではなく洋次たちだ。だが人通りがないことが幸いし通報の心配はなさそうだ。

 「財前だ。こんな朝からどこ行くんだ」

 「速水にメールするからお前は見張ってろ」

 「こっちに来る。逃げろ洋次」

 財前から目を離さないようにしつつ急いでその場を離れる。

 「つけるぞ。こんな朝からどこに行くんだ?」

 洋次たちが歩いてきた駅までの道をどんどんと進んでいく財前を見逃さないように距離を取りながら後をつける。

 「なんか探偵みたいだな」

 「馬鹿なこと言って無いで行くぞ」

 わざわざ双眼鏡で覗く力也を引っ張って後を追う。どうやら朝ご飯を食べるらしい。牛丼屋に入っていくのを確認するとその間に中を伺いながら家にいる速水に連絡をとる。

 「今、駅前のすき牛で飯、食ってるよ。取りあえず接触したら昨日お前が言った通りにすればいいんだな?」

 「あぁもう少ししたら女の子3人がそっちに行くから接触は合流してからにしてくれ」

 「了解」

 しばらくすると冷たちがやってくる。

 「お疲れ様です」

 「どこにいるの?」

 「あそこだよ。あっ出てきた。じゃあお前らは俺たちの後から離れて来てくれ」

 「分かりました。2人とも気を付けて」

 店を出た財前を追う。ふらふらとあてもなく歩く後ろから力也が声を掛ける。

 「よう」

 振り向いた財前の肩に両サイドから2人で腕を乗せる。

 「ちょっと話があるんだけどさ」

 「俺にはねぇよ」

 「そう言うなって少しそこの店に入ろうぜ」

 そういうと洋次は24時間営業のカラオケボックスへ誘う。

 「俺は忙しいんだ」

 「またゲーセンでも行くのか?だったら俺たちにちょっとぐらい付き合ってくれてもいいだろ?」

 怒らせないようにしつつ強引に進行方向を塞ぎ店に誘導する。店内に入ると夜勤で眠たそうな店員がだらしのない声で料金説明をしてくる。洋次は一番安いプランを選び店員の誘導に従って部屋へ入る。ここであれば話し声を聞かれにくくちょうどいい。入口の方を見ると後ろからついて来ていた3人が隣の部屋へと案内されているところだった。

 「早速、話に入るけど本当にお前、山口の居場所知らねえのか?」

 「知らないって昨日も言ってるだろ。しつこいな。家にでも帰ってるんだろ?」

 「それが家にも知り合いのところにもいないみたいでさ。まさか志々見と一緒に埋めたりしてないだろうな?」

 「ふざけんな!」

 そう怒鳴ると部屋を出ようとするので力也が扉の前に立ち席に座らせる。

 「待てよ。そう怒るなよ。悪かったから」

 「実は今日、あんたに会いに来た理由は志々見が持ってるお宝のことなんだけどさ」

 それを聞いて腰を浮かせて帰るタイミングを図っていた財前の腰が下がる。

 「どういう意味だよ」

 食いついた。2人は顔を見合わせる。

 「あんたさ本当のところ志々見のことどう思ってんの?」

 「どうってなんだよ」

 「正直に言えよ。ここなら誰にも聞かれる心配もないし話しやすいように最初に言っておくと俺たちは志々見のことが大嫌いだ」

 そういいながら財前の顔色を伺う。平静を装っているが体が少し反応したのに気が付く。

 「それと俺が志々見をどう思っているかがどう関係あるんだよ」

 「大有りさ。俺たちはこの頭の仕返しに志々見から宝石を奪ってやろうって考えてる。もちろんあんたにも仕返ししてやりたいがここからが本題だ。俺たちに協力しないか?そうすればこの頭のことはチャラにしてやるよ」

 「知らねぇよ。頭のことなんて。それに信じられるかよそんな話」

 「信じるも何もやってもらうさ。悪くない案だと思ったんだがな。俺たちは志々見に仕返しできる。あんたは知りもしない俺たちからの仕返しに会わなくて済む上にお宝を独り占めできる。まぁそこまで臆病だとは思わなかったよ。残念だ」

 そう言って外に出る仕草をすると簡単に引っ掛かる。こうも簡単だと逆に騙されているのは自分たちではないかと疑いたくなる。

 「話だけ聞いてやってもいいぞ」

 腰を落とし座り込んだのを見て力也が志々見から宝石を奪う計画について話始める。

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