第6話

 「しかし驚いたよ。まさかお前がこんなことになってるなんて何で速水は教えてくれなかったんだ?」

 次の日、速水から話を聞きつけた力也と飯田、それから山口が駆け付けた。

 「ほんとだよな。朝からメール来てさ。びっくりしたよ。なぁ山口?」

 洋次が喋る間もなく3人が交互に話し始める。

 「あぁほんとに冷や汗かいたよ。犯人たちはわかって無いんだろ?怖いよな。それにしても角材で殴られてそれだけのケガで済むなんてお前頑丈だよな」

 「でもよ。何で襲った奴は三輪なんかを狙ったんだ?」

 「そうだよな。洋次は何か無いのか?心当たりは」

 それを聞いて1つ気になることを思い出し襲われたとき着ていた服を探す。そういえばあの服は母が持って帰ってしまったのだ。仕方がないので力也に冷と連絡を取ってもらいあの石のことを母に聞いて貰うことにした。

 「石かそういえば拾ったって言ってたな。やっぱりあれ本物だったのか?」

 「分からない。ただ俺の上着のポケットを漁ってたような気がする。すっかり忘れてたよ警察に言うの、こんな大事なことなのに」

 「まぁそれは冷ちゃんの報告を待ってからでいいんじゃないか」

 しばらく3人と談笑していると昨日、駆け付けてくれたメンバーと冷が顔を出した。

 「どうだった?」

 「お母さんに聞きましたがそんなものはどこにも入っていなかったそうです」

 申し訳なさそうな顔をする冷を慰めながらやはりあれが自分が襲われた原因だろうかと考える。

 「まぁ倒れた時に落とした可能性だってある訳だしあまりそこに繋げるのは早とちりじゃないか?」

 山口にしては珍しくまともだ。確かにあんな小さなものをそのままポケットにしまっていればいつ無くしてもおかしくない。ただそうなるとますます襲われた理由が分からない。

 「そう言えば昨日の志々見の話どうなったんだ」

 突然、洋次からその名前が出たことに昨日ここにいなかった3人の顔が曇る。

 「志々見ってあの志々見か?あいつがどうしたんだ?」

 山口の問いかけに速水が昨日、洋次たちに話したことを伝える。

 「まじかよ。あいつ戻って来てたのか。最悪だな」

 「飯田の言う通りだ」

 「そう言えば力也はあいつに会ったんだよな。速水が言ってたけど」

 昨日の話を思い出し洋次は聞いてみる。すると歯切れの悪そうな声を出しながら力也が答える。

 「あぁ・・・確かに会ったよ。なんかあいつと一緒にいた奴がいちゃもんつけてきてさ。流石に部活やってるのに喧嘩はまずいよなって思ってたらさ何故か志々見の奴がそれを仲裁したんだよ。正直、喧嘩したところで負ける気は無かったんだけどなんだか俺の知ってる志々見と違ってて不気味だったよ」

 「速水さんはその志々見って人が宝石泥棒や洋次さんを襲った犯人じゃないかって考えてるんですよね?」

 「まぁ憶測だけどね。それだと色々簡単に話が付くんだけど。そうはいかないだろうね」

 「ところで三輪はいつ退院できるんだ?」

 山口が話をガラッと変えてくれたおかげで重い空気が変わる。

 「そうだな。明日、検査して特に問題なければ明後日には帰れそうだよ」

 「そんな早く帰れるのか。良かったじゃん洋次。今度の夏祭り間に合うじゃんか」

 「夏祭りあるんですか!」

 思わぬところに冷が飛びつく。

 「そっか冷ちゃんは初めてだよな。来週末あのいつもの公園であるんだよ。出店とか花火とかあって結構、頑張ってるんだぜ」

 「かき氷ありますか?」

 「当然!アイスもあるぞ」

 目をキラキラさせながら遠いところを見ている冷に呆れながらも癒された洋次はホッとしたのかお腹が鳴る。

 「もうそんな時間か。悪かったな体を休めたいのに大勢で話し込んじまって、そろそろ帰るよ」

 「気にするな。力也がそんな気遣いなんて気持ち悪い。冷はどうする?中川のところ行くか?」

 「いえ、今日はここに残ってます。夜は洋次さんのお家に帰りますけど」

 それを聞いて1人あの家に置くことを不安に感じたものの病院に泊まることはできないだろうしかといって今日も中川の家というのは中川にも中川の両親にも悪い。そしてなにより冷が雪女であることがばれる確率が高くなってしまう。それを考えればまだ洋次の部屋が氷河期になる方がまだましだ。

 「みんなありがとう。じゃあな」

 「またな」

 それぞれが散っていったのを確認してから冷を横に座らせる。

 「しかしここ数日、大イベントのバーゲンセールだな。今まで生きてきて何も起こらなかったことが奇跡ってぐらい事件に巻き込まれてるな」

 それを聞いて冷がしょんぼりとした顔をする。どうやら自分が批判されていると思っているようだ。その勘違いをフォローするため話を続ける。

 「別にお前は関係ないさ。むしろ悪かったと思ってる。こんなゴタゴタに巻き込んだ上に酷いことまで言ってしまって」

 「いえ実際、私が来てからですし。洋次さんの周りが騒がしくなってしまったのはそれだけならまだしもこんな大怪我まで」

 「気にするほどの怪我じゃないさ。退院だって明後日な訳だしすぐに犯人も捕まるだろうから心配するなって。退院したらアイス食べに行こうな」

 そう言ってやるとすこしばかりか安心した様子を顔に浮かべた。

 看護師が昼食を持ってくるのを見ると冷が立ち上がったので帰るのかと思い忘れ物は無いかと訪ねようとした時、冷が看護師から洋次の昼食を受け取る。

 「悪いな。ここに置いてくれ」

 そう言いさて食べるかと体を起こし箸を取ろうとすると冷が先に取ってしまう。どうしたのだろうと冷の方を見ると

 「私が食べさせてあげます」

 と予想外のことを言われ驚く。

 「いいよ。それぐらい一人で食べられるから」

 「いいえ、口を開けて下さい」

 「恥ずかしいからいいって」

 そんな押し問答を何度か続けていると30代と思われる看護師から折角の彼女の厚意を何を考えているのか、これだから男はというお話とお叱りを受けたため周りの患者からの視線に耐えながら冷に食べさせてもらうはめになった。

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