第4話
次の日、速水からの電話で目が覚める。電話で言われた通りテレビをつけ地方局のローカルニュースにチャンネルを合わせると昨日、洋次たちが見つけた窓ガラスが割られた事件について放送していた。
「やけに早いな」
そう呟きながら着替えを済ませまだ気持ちよさそうに寝ている冷を起こす。
「起きろ!冷!朝だぞ」
眠そうに眼を擦りながらもそもそと起き上がる。着ていた寝巻が肌蹴ているのに気が付き思わず目を逸らす。
「早く着替えて降りて来いよ。先に朝ごはん食べてるからな」
「待ってくださいよ。洋次さん。着替えさせて下さいよ」
「朝からそんな冗談はいらん」
階段を降りると親父が出勤するところだった。
「いってらっしゃい」
「おう、冷ちゃんに優しくしてやれよ。なんせ未来の俺の娘だからな」
普通に考えればおかしな状況なのだが特に問題なくすんなりと受け入れている辺りこの親で大丈夫だろうかと心配になってくる。
リビングでは母が作った朝ごはんがすでに並んでおり席に着き先に食べ始める
「いただきます」
手元の新聞を見ると昨日、コンビニで前の二人が話していた宝石泥棒についての記事が書かれている。流石に学校での件は載ってはいないがそれにしても立て続けに物騒な話だ。今までこんなことは無かったのに。そんなことを考えながら味噌汁をすすっていると冷の降りてくる音が聞こえてくる。
「おはよう冷ちゃん。昨日は寝れた?」
「おはようございますお母さん。えぇよく眠れました」
母とあいさつを済ませ洋次の隣に座る。
「何で私より先に起きちゃうんですか。これじゃ私が優しく耳元に息を吹きかけて起こしてあげる計画が台無しじゃないですか!」
そんな計画が立っていたのか。良かった先に起きてありがとう速水。もしそんなことになっていれば起きるどころか息を吹きかけられた瞬間、凍り付いて永遠の眠りに誘われてしまうところだ。
「しょうがないだろ。速水から電話があったんだ」
「なるほど私の計画の邪魔をしたのは速水さんでしたか」
速水が氷漬けにならないことを祈りつつ冷に母には聞こえない声で朝のニュースのことを伝える。
「やけに早いですね。あのあとすぐ誰かが見つけたんでしょうか?それともやっぱりあの人影は警備の人だったとか」
「かもしれないな。取りあえず今日も速水の家に昼から集まることになったんだけどお前はそれでも良かったか?どっか行きたいところとかあったら言えよ」
「優しいですね。でもお気になさらずに今日は私も一緒に行きますよ。みなさんとももっと話がしたいですし」
そうかじゃあ午前中は少しこの近くを歩いてみるか。この時間ならそれほど暑くもないし大丈夫だろ」
「そうですね。ぜひお願いします」
朝ごはんを食べ終えると二人はひとまず家の周辺を散歩がてらぶらつくことにした。
「どうだ?暑かったらすぐ言えよ」
「大丈夫です。念のため保冷剤もいくつか持ってきてますし」
ぶらぶらと歩きながら昨日の公園の方へと足を運ぶ。途中、冷がアイスをねだったので仕方なくコンビニに寄り買ってやる。今年の夏は小遣いが全てアイス代に消えそうだなと考えながら近くのベンチに腰掛け昨日のメンバーについて冷に話してやる。
「速水さんと真奈美さんが一番付き合いが長いんですか。私、てっきり力也さんかと思ってました」
そんな話をしていると
「そうなんだよ。みんな最初は力也の方が先だって思われるんだ。俺もこいつも」
顔を上げると速水の姿があった。
「どうしたんだよお前。こんなところで」
「ちょっと軽い運動をしてただけだよ。お前こそどうしたんだ朝から二人で」
洋次が昨日はあんなことがありゆっくり案内できなかったので少し家の近くを案内しているということを伝えると
「なんだそうだったのか。それなら俺たちにも声を掛けてくれれば良かったのに」
「そのつもりだよ。単に近場だったし時間があったから周っていただけだ」
「そうか、じゃあまた昼からよろしく。冷ちゃんも」
そう言って速水は去って行った。
「なんかすごいですね。運動も勉強もできて洋次さんは普通なのにどうして仲良くなれたんですか?」
なかなか失礼なことをいう奴だ。わずか一日で小林みたいになりかけてる。
「どうしてと言われてもあいつと小林はほんとに小さい頃からずっと一緒だからな。自然とそうなってたよ」
「いいですね。そういうの」
「さてともう少し公園の中を周ってから帰るか」
「そうですね。ついでに昨日の草むら覗いてみませんか?昼間なら何か見つかるかもしれませんし」
「そうだな」
二人は昨日、謎の人影が居た草むらに何かないか探してみた。
しばらく二人で辺りに何か落ちていないか探していると何か奥の方で反射しているのが目に入る。
「なんだこれ」
拾い上げると小さなガラスの欠片にも見えるがただの破片というより加工された跡がある」
「冷!ちょっと来てくれ」
声を聞いてこちらに駆け寄ってくる。
「なぁこれ何だと思う?」
「宝石・・・?みたいですけどわかりません。私もこういった物は詳しくはないので」
「そうか・・・」
ひとまずポケットにしまい。そろそろ他を見に行くかと冷に提案する。
「そうですね。今のところその欠片のようなもの以外特に何もなさそうですし昨日は見ていない倉庫の方へ行ってみましょうか。私、そっちは見たことがないですし」
「構わないが大したものは無いと思うぞ。ただの倉庫だし」
ここから倉庫までは少し離れているが大した距離では無い。日も高くなってきたこともあるので倉庫だけ少し見て帰ろうと思いながら近づくと声が聞こえてくる。
「あれっ?誰かいるのかな?」
公園に誰かがいることは珍しくは無いが声は倉庫の中から聞こえてくる。公園の管理者だろうか?しかしその割にやけに声を荒立てているようにも思える。何やらもめているようだ。気になった洋次は音を立てないよう近づき聞き耳を立てる。しかしさっきまで大きな声で話していた声の主が他の声に諌められ静かになったようだ。
「どうですか?わかりますか?」
声を潜めて冷が聞いてくるが首を横に振る。仕方がないので中を覗き込もうとした瞬間、少し離れたところから洋次と冷を呼ぶ声が聞こえる。
「まずい!冷、逃げるぞ」
そう言って冷の手を引きその場を離れる。幸いにも中の声の主たちはあくまで公園で遊んでいる人たちが発している声と認識したようでいっそう声を潜めるだけに終わった。
「なんだよ。二人してそんな顔で俺たちを見て」
先ほど洋次たちを呼んだのはどうやら力也と山口だった。
「何やってんだ。二人で倉庫を覗いてたみたいだけど何か面白いものでもあったか?」
呑気な声で聞いてくる山口に
「もうちょっとで中の奴にばれるところだったんだぞ。管理の人でもなさそうで何か喧嘩してるみたいで怪しかったから中で何を話しているのか聞こうとしてたのにお前らがデカい声出すからばれそうになって逃げてきたんだよ」
「そうだったのか悪かったよ」
ばつが悪そうな顔をしながら力也が謝ってくる。
「それよりお前ら二人何してるんだこんなところで。集合は昼だし速水の家だろ?」
「いやちょっと昨日のこと気になってさ。明るいときに見たら何か見つかるかなと思ったんだけど収穫は何にもなかったよ」
「山口も一緒に調べてたのか?」
「いや俺も力也も別行動でさっきたまたま会ったんだよ。ここに来た理由も一緒かな」
みんな考えることは一緒か・・・そう思いながら洋次も速水に会ったことを思い出した。
「そういえば俺も速水にさっき会ったよ。走ってるだけみたいなこと言ってたけど案外あいつも同じようなこと考えてたのかもな」
「速水と言えばあいつ昨日は酷いんだぜ。リーダーのくせに突然どっか消えちゃうし。必死にみんなで探したら『ごめん、ごめん』なんて言いながらひょっこり違うところから出てくるしなぁ力也」
「山口それ昨日も聞いたぞ確か」
「私も聞きました」
冷にもつっこみを入れられがっくりと肩を落とすしぐさをする山口を笑いながら力也が
「なぁ良かったら今からどっかで昼飯、食いにいかないか?折角だし」
「私、かき氷が食べたいです!」
「冷ちゃんそれ飯じゃない」
「お前さっきもアイス食ったけどお腹大丈夫か?」
「そうなのか?お腹、悪くなったら大変だ気を付けないと」
多分、力也の思っているお腹の心配と俺の思っている心配は少し違うがまぁ置いておこう。話すのも面倒だし。
「じゃあ親に昼、いらないって連絡入れるから待っててくれよ。何も言わずに出てきたから」
そう言って洋次は携帯を取り出す。
「それにしても冷ちゃんてスタイルいいよね。うちの姉貴なんか酷いぜ」
「えっ力也ん家、姉貴いるの?」
「スタイルいいですか?洋次さんには気を付けろって叱られてるんですけど」
「あいつそんなこと言ってんの酷い奴だな」
人が電話をしている間、好き放題、三人はしゃべり続けた。
「終わったよ。どこ行く予定なんだ?」
「駅前のファミレスでいいかなって思ってるんだけど」
この町は基本的に駅周辺には困らない程度には何でも揃っているが少し駅を離れると洋次たちの住む住宅街が並びそこにはコンビニか昔からの個人商店しかない。なので買い物や学生が学校帰りにだべる場所のも全て駅に集中する。そのため学校のある日は帰りにゲーセンやファミレスなどに気軽に寄れて便利なのだがこういった休みの日などは家から少し距離があるため面倒だ。と言っても徒歩で二十分ほどなので距離としてはそれほどではないのだが何故こうも力が有り余っているであろう学生というのは歩くことに不満を感じるのだろうか。そんな距離を歩きながら四人は昨日の話をする。
「学校のやつ朝からニュースやってたよな。俺びっくりしたよ。あんな早くテレビでやるなんて」
「そんなのやってたのか?」
「力也は知らないのか?俺も速水に教えてもらって見たよ」
「私は見てません」
「お前は寝てたからな」
「寝てたってどこで?」
山口の質問に思わず墓穴を掘りそうになるも何とか誤魔化しながら店にたどり着く。外で昼を済ます予定だった力也と山口は自転車で来ていたため店の隣にある駐輪場に止めるため店を一旦通り過ぎ空きスペースに入る。すると先客がいたようで彼は自転車を出そうとしていた。
「あれ?中島じゃん!久しぶり」
「力也か。あと山口と三輪も・・・そっちのかわいい子は?誘拐?」
知り合いに会うたび毎回言われている気がするがもう慣れてきた。そう思いながら洋次は冷を紹介する。
「へーそんなかわいい子が何か弱みでも握ったの?」
酷いやつだな全く。どいつもこいつも。冷はと言えばかわいいと言われて嬉しそうな顔をしていて洋次が貶されていることにすら気が付いていない。
「それよりお前も昼飯?」
「力也もか。俺は最近出来た彼女とランチタイムを楽しむのだよ。男たちよ」
「何だと。聞いてないぞ」
「言ってないからな。それにしても今日は珍しくお前らのグループによく会うな」
「グループ?」
洋次の疑問に
「あぁさっきは飯田が親の買い物の荷物持ちさせられてるところに会ったしその前は速水に会ったよ」
「あの二人にか、速水の呼んでやれば良かったな。飯田は・・・いいだろ・・・」
「洋次さんそれはちょっと寒いです」
「たまたまだ流せ・・・」
「おっと女の子、待たせてるんでじゃあな。むさくるしい男たちと誘拐犯よ」
そう言い残し中島は去って行った。
その後ファミレスに入った俺たちがアルバイトで働いていた同級生にまたもや外道扱いされランチタイムに一杯になった席という席から好奇の目を向けられ続けたのは言うまでもない。もちろん洋次の言うことを聞かず冷がスペシャルメニューという名の巨大アイスを食べたことも・・・俺の財布が軽くなったことも・・・
昼食を済ませ直接、速水の家に向かった洋次たちは途中、荷物持ち飯田と中川と合流。小林とは速水の家の前で会った。中に入ると今日は速水のお母さんがいるようでみんなを嬉しそうに迎えてくれた。
「昨日はお疲れ。狭いけど適当に座ってくれ。お茶はそこにあるやつ勝手に飲んでくれていいから」
速水に言われ全員がお茶に飛びつく。流石にお昼を過ぎると温度はどんどんと上がり冷は特に苦しそうだった。洋次もそれがあったので自分が飲みたいのを我慢し先に渡してやる。
「ありがとうございます。溶けちゃうかと思いました」
「ほんと冷ちゃんの言う通りね。私もここに来るだけで汗かいちゃった。三輪、私にも注いで」
小林に自分用に注いだコップを渡してやる。すると俺も俺もと結局、全員に洋次が配ることになった。
「そろそろみんな落ち着いたか?」
全員が飲み終えたのを確認して速水が切り出す。
「今日、集まったのはまず一つは公園での幽霊探し。二つ目は学校での出来事。そして一番大事な三つ目」
てっきりさっき言った二つと誰もが思っていたため驚きの顔をし生唾を飲み込む。
「夏休みの宿題をどうするかだ!」
「もったいぶって何だよそれ」
飯田が文句を言うと横から中川が
「飯田君は特に三つめ大事だと思うけど。期末も真っ赤って言ってたし」
「中川さん結構、飯田に言うね」
「過ぎたことだ。補修も受けたし再テストもクリアした俺は無敵だ」
無敵どころが連敗だぞ飯田。そう言ってやりたかったが既に飯田のライフは瀕死のようなので止めを刺すのはかわいそうだろうだろうと黙っていると横から止めのカンスト攻撃をする女が口を開いた。
「あんただけ来年は後輩ね」
小林の一撃に倒れる真似をしながらも涙目の飯田に冷が声を掛ける。
「大丈夫ですよきっと。ここのみなさんは飯田さんのこと見捨てませんから」
「冷ちゃんそんな甘やかしたら駄目よ。そんなのだから三輪なんてのに騙されるのよ」
飛び火を一刻も早く消すために話題を変える。
「それよりも一つ目と二つ目の問題の話をしよう。そっちが最優先だ」
「そうだな。冗談って訳でもなかったがさっきの話は置いておくとして問題は昨日の話の続きだ」
そこで速水は昨日の学校でのことを朝のニュースの内容も交えながらみんなの前で整理していく。
「ーーっというぐらいかな。分かっているのは。少なくとも俺たちが誰かに見られたという話は出ていないし誰も疑うことはないだろう。まぁ疑われたところでやってないんだから何の問題はないんだが面倒に巻き込まれるのも困るし学校でのことは全員秘密だ」
全員が頷く。
「あとは公園での話だがこれは怪しいやつを実際に見た洋次たちに聞くのがいいかな?」
速水に急にバトンを渡され戸惑うも一呼吸置き話始める。
「えっと俺たち四人が見たのは変な人影なんだけどさ。公園の南側って池があるじゃん。その池の奥は背の高い雑草だらけで基本は誰も寄り付かないんだけどそこに誰かいたんだよね。最初は捕まえようとして池の両側から回り込んだんだけど結構、足が速くて取り逃がしちまった。でっここまでが昨日話したことなんだけど俺さ、あいつが何かを探しているように見えたんだよね」
「学校のやつといい夜中に何かを探すの流行ってるのか?」
山口の答えを欲していない問いを無視し話を続ける。
「それでさ、今日たまたま冷に昨日の仕切り直しも兼ねて朝から近くの案内をしてたんだけどその時、あの公園にも寄ってさ、ついでだからあいつの探し物を探してみたんだよね。そしたらあいつが探してたのか知らないんだけどこんなものが落ちてたんだ」
洋次はポケットから今朝拾った宝石にもガラスの破片にも見える小さな石を取り出しみんなに見せる。
「綺麗な石ね。ダイヤかなにか?」
「いや、宝石なんてちゃんと見たことないし分からないけどもしかしたらそうかも」
「だとしたらまずいだろ。そういえば宝石泥棒まだ捕まってないじゃん。そいつの落とし物かもよ」
「洋次、脅すわけじゃないけどまずいだろ。それは流石に届けた方がいいぞ」
速水の神妙な顔をしながら言ってくるので怖くなる。
「まぁまぁ洋次だってそれが高いものかガラクタか分からない程の目しかなかった訳だし許してやれよ」
流石に失礼じゃないか山口も。確かに値段は分からないが少なくとも洋次にもそれなりの値段がするものだというのは目安がついていたし警察に言う前に昨日の事件と何か関係があるのではないかと思ったからこそである。そのことをみんなに伝えると
「三輪にしては珍しく色々考えてるわね。まぁ確かに最近出た宝石泥棒、ガラスの割れた学校と何かを探す人影、公園でこちらも何かを探す人影にその場所に落ちてた宝石とあればついつい関連を考えてしまうわよ」
珍しくフォローをくれる小林に感謝しながら話を続ける。
「正直、素人考えだけどその線を疑ってる。ただまぁ速水の言う通りこれを持って歩くのは軽率だったよ。後で交番にでも届けるよ」
速水もそれを聞き安心したようで
「悪かったよ。お前が変なことに巻き込まれるのは嫌だからな」
「さてこれからどうする?学校のは取りあえず騒ぎになっちゃってるから当分は近づくのは無理だろうし公園の方、もう少し探してみるか。今度は幽霊じゃなくて盗人だけど」
「そうなると夜はあまり適さないな。人、それも泥棒相手となると幽霊より危ないし」
「そうは言っても昼間に公園に潜んでる間抜けな泥棒はいねぇだろ」
山口の反論に洋次ももっともだと思ってしまう。ただいくら夏で夜の人通りも少なからずあるとはいえ駅前の通りと違い住宅街は昼間とは違いかなり閑散としている。男だけならまだしも女の子を連れて泥棒探しは肝試しより怖いかもしれない。
「山口の言いたいこともわかるよ。でもケガなんてしたらどうするんだ」
「速水はビビりすぎだよ。まだ泥棒って決まった訳じゃないんだし。幽霊じゃなければ妖怪かもな。そう思わないか飯田?」
「力也は元気だな、俺はどっちも嫌だけどしいて言えば美少女を希望します」
「かわいい幽霊や妖怪ってのもなんだが美少女泥棒は現実にはいねぇよ」
「そうか、ならどっちもいらないな」
「私は続けてもいいよ。気になってもやもやするし。ただ幸子と冷ちゃんは止めといた方がいいよきっと」
「真奈美、危ないよ。ねぇ冷ちゃん?」
中川の同意が無駄なのは洋次にはすぐに分かった。
「私はもう少しみなさんのお手伝いしたいですよ。楽しいですし」
「二人ともやる気満々だな。よし決定、調査続行!」
力也に無理やり続行を宣言され困った顔をする速水だが呆れながら
「わかったよ。ただし女子は昼間だけな」
「そんなの駄目よ」
小林が食いつく。中川も二人が行くなら私もと乗っかり始め嫌がっているのは飯田ぐらいだ。その飯田も力也に説得?をされ結局、全員で昼も夜も調べることになった。
「そうと決まれば作戦会議だ!」
大きな声で宣言する力也の方を向きまずは昨日調べたところを飯田が紙に書いた簡素な公園の地図にチェックを入れていく。
「まぁ昨日は時間も無かったし結局、こっちは倉庫の周りを軽く調べただけだったけど特に何も見当たらなかったよ。倉庫にもちゃんと鍵がかかってたし」
倉庫と言えばと朝のことを思い出し話をする。
「今日、冷とその倉庫を覗きにいったんだけど中に人がいたぞ。それも管理の人とは違うような、あと喧嘩してるような口ぶりだった・・・はっきりとは分からないけど」
「あいまいね」
「しょうがないだろ。話の内容聞こうとしてたら邪魔が入ったんだよ」
「邪魔?どんなだ?」
それを聞いてそろそろと二人の手が挙がる。それを見て中川があららっと声を出す。
「なんだお前らがか。何やったんだ二人で」
「お二人は単に私たちに気づいて声を掛けただけですよ」
「タイミングは最悪だったけどな」
洋次が一言付け足す。
「だって知らなかったんだもん!二人でイチャイチャしてあわよくば倉庫でなんて洋次が寡作してると考えてたら自然にでっかい声が・・・」
「山口・・・なんて悲しい男なんだ・・・」
飯田にそんな目を向けられる奴は初めて見たよ・・・そう思いながら横の冷を見るとこっちはこっちであわよくばって何でしょうというような顔でこちらを見ている。
「その話は置いておくとして少しでもいい、何か聞き取れなかったか?二人共」
「うーんそうだな。俺はわからないな。冷はどうだった?」
「そうですね。速水さんの期待に応えたいですが私が聞こえたのは『石を無くした』としか聞こえませんでしたね。後は全く」
「「えっ」」
全員がその言葉に食いつく。
「今、なんて言った。冷!」
洋次は思わず冷にぶつかりそうなほど近づいてしまう。
「だから『石を無くした』って」
「それ今回のと何か関係あるんじゃないか?」
そう言いながらも速水自身もあまり自信が無いようだ。それもそうだろう真っ昼間(厳密には朝だが)そんな物騒な話をいくら人の寄り付きにくい倉庫だとはいえいつ誰かが通ってもおかしくない場所でするのはあまりにも不自然なきがする。とは言え他に何も手掛かりになりそうなことも無くそこを辿ってみるしかないと言う結論に達した。
「あと誰か気になったことはあるか?何でもいいが」
速水の問いかけに何か思い出そうと頭を捻りながら全員考えるものの何も浮かばないまま時間だけが少しずつ過ぎていく。
「そうだな。公園で見かけた人影なんだけど・・・」
飯田が口を開くとさっきまで唸っていた全員の頭が次の言葉に集中する。
「いや、そんな真剣な目で見られても困るんだけど。あの時の多分、男なんだろうけどどっかで見たような気がするんだよ。体格とか、まぁどこにでもいそうな感じだから気のせいってのが本当のところなんだろうけどさ何となく気持ち悪さが残ってるんだよな。ずっと」
「例え気のせいでも重要だぞ。はっきり言って情報も少ないからな」
「あぁ速水の言う通りだよ。飯田、もしかすると昨日の人影、お前の知り合いかもしれないぞ」
「三輪、ビビらせるなよ。それがもし本当なら俺の知り合いがこの間の泥棒を働いた可能性があるってことじゃないか」
「まだそうとは決まってないだろ。俺の持ってるこの石だったただの子供のおもちゃの可能性もあるわけだし」
「そうだな。ちょっと汚れと傷があるからかパッと見ただのガラスの欠片だよな。ダイヤとかだったらもっと綺麗なんだろ?盗まれたのだってそういう高いやつだろうし」
山口の意見に頷きながらも速水は念のため警察に届けるよう言ってくる。
「確かにこれがガラクタだったら恥ずかしいけど昨日のこともあるしな。帰りに交番にでも寄って笑われてくるよ。ガラスのゴミ公園で拾いましたって」
「それで済むのが一番だな。よし大した話も無いんだし取りあえずまとめるぞ」
「珍しいな。力也がまとめ役やるなんて」
「ほっとけ、それよりもまず学校の事件についてはひとまず警察と学校に任せてノータッチで公園の噂については肝試しも兼ねて継続ってことでいいな」
「前半はあってるが後半は初耳だぞ」
「固いこと言うなよ洋次」
「いや俺だけじゃなくてみんな説明しろって顔だけどな」
「あれー?違ったか?まぁいいじゃねぇか。このままどっちもすっきりしないのも嫌だし。せめて片方だけでも正体突き止めようぜ!なぁ?飯田」
いきなり話を振られ困惑する飯田をしり目に力也は話を続ける。
「さすがに女子3人は危ないかもしれないだろうから止めといたほうがいいだろうけど。俺らなら大丈夫だろ」
その自信がどこからくるのかはわからないが取りあえず小林が怒っているのだけはわかる。これはでかいのが来るな。そう思った洋次のカンが外れる。
「そんなのずるいですよ。私だって昨日のあれ気になって夜も眠れずアイスも喉を通らずなんですよ」
丸わかりの大嘘を付きながら反論したのは小林ではなく冷だった。小林はと言えば自分のセリフを取られてどこに怒りをぶつけようかと困った顔をしてこちらを見ている。
「そうは言っても全く危なくないわけじゃないからね」
「力也、俺は何だったら冷ちゃんに譲っても・・・」
「飯田、譲る必要は無いだろ。冷、力也はこんな奴だが一応心配してるんだ」
冷が何者で少なくともここにいる誰よりも安心なのは洋次もわかっているとはいえ見た目も行動も女の子だ。何かないとも言えない。洋次も正直なところ反対だ。
「そうだよ。危ないから止めておいた方がいいよ。ねぇ真奈美?」
中川が小林に同意を求めるが相手が悪い。こいつも冷と同じで納得いっていない。
「ごめん幸子。私も冷ちゃんと同意見。なんかもやもやして嫌なのよ」
「そうは言っても危ないだろ。本当なら全員行くべきじゃないけど力也は言っても聞かないだろうから、何か分かればちゃんと隠さずみんなと共有するし、そうだろ?洋次?」
速水の言う通りだ。別に行かなかったからと言って隠すつもりはないしこいつらの意見だって必要だ。
「い・や・よ!だったら男子だけで行けばいいわ。こっちは2人で調べに行くから!ねぇ?冷ちゃん?」
「はい!止めても無駄ですよ洋次さん!どちらが先に謎を解決するか勝負です!」
楽しそうな冷の顔と真剣な小林の顔を見てこれは説得は無理だなとあきらめの顔を速水に向けるとため息を付きながら仕方がないとあきらめたように
「わかったよ。ただし2人では無しだ。俺たちと常に一緒に行動すること。それがこちらの最大限の譲歩だ。それが飲めないなら俺は降りるよ」
そう言いながらも速水のことだどんなことがあっても降りないだろう。そのことは小林自身もわかっている。だがわかっているからこそその案を飲む。
「いいわよ。冷ちゃんもいいよね?」
「私は問題ありません!でも幸子さんは今回は待ってて下さい」
「それは嫌だよー。みんなが行くなら私だって置いてかないでよ。そっちの方が怖いよ」
「結局、全員だな。飯田はどうする?後で話てやってもいいけど」
「意地悪なこと言うな。山口。俺だって中川さんと一緒でおいてけぼりは嫌だよ。それならまだ美人の幽霊探してる方がましだ」
「まだ言ってるのか。残念だがいそうなのはかわいい妖怪でも美人の幽霊でもなくて脂ぎったおっさんの可能性の方が高いぞ」
「いや、俺の記憶が言っている!あれはきっとかわいい子だ。だから俺の何かを刺激したんだ!誰かな?俺の記憶を辿ってたどり着いてみせるぜ」
なんだか変なテンションになってしまっている飯田を心配そうな目で見つめる冷に言いつける。
「お前、絶対に速水の言うこと聞くんだぞ。じゃないとアイス食べさせないからな」
「そんなーDVですよDV!」
「やかましい。そんな言葉何処で覚えて来たんだ。もっとそれより覚えることあるだろ」
「ええぃイチャイチャを見せつけやがって小林!三輪に寂しい女の鉄槌を下してやれ!」
「誰が寂しい女だ。飯田、お前はここで死ぬか?」
「俺の部屋を事件現場にするのはちょっと・・・できれば山口の家とかで・・・」
「俺の家かよ!」
飯田の軽い話から雰囲気が変わり後は夜が来るまでくだらない話で盛り上がりながら夏休みの1日、数時間を楽しんだ。
「流石に夏とはいえ暗くなったな」
夏とはいえ時間は6時半をまわっている。うっすらと暗くなり日が落ちかけている時間になり速水の親が仕事から帰宅したこともありひとまず解散することにした。
「取りあえず昨日のこともあるし今日は無しだ。明日から考えよう」
話はそれでまとまりそれぞれ家路へと着く。洋次も冷を連れ帰ろうとする。
「今日、拾った石は帰りに交番に寄って届けるよ。行くぞ小林もこっちだろ?」
「私、さっき親からメール来て駅で会うことになってるから。じゃあね冷ちゃん」
そう言って走って行った小林を見送った後
「俺たちも行くか」
「はい、そうですね」
いつもと違う道を通りながら冷に話しかける。
「なぁ今日の朝の倉庫の声聞こえてたって言ってたよな。あれやっぱり関係あると思うか?」
洋次は今日の話を整理しようと冷に尋ねる。
「そうですね。私の聞き間違えって線も無くは無いですが何か良くないことをしている人だろうという臭いはしますね」
「それは俺も思う。あと飯田の言っていた会ったことあるかもしれない人影はどうだ?」
「あの暗闇でそう感じたってことは可能性としては高いんじゃないでしょうか。飯田さんは自信なさげでしたけど」
「そうだよな。飯田の知り合いで怪しそうな奴か・・・さっぱりだな」
「そういえば昨日、山口さんが言っていましたけど速水さんが途中で一人いなくなったってあれはどういうことでしょう」
「速水のことだから何か考えが会ったんだろ」
「やけに信用してますね」
何だか棘のある言い方だな。何か怒ってるのだろうか。そう考えながら洋次は速水を擁護する。
「そりゃそうさあいつとは一番付き合い長いしな。他の誰よりも信用してるさ」
「その割に洋次さん速水さんのこと下の名前で呼びませんね。真奈美さんは名前で呼んでるのに」
「小林は苗字で呼んでるだろ。あれはあいつの親の前だったからで、それに速水は何となくそのままできて今更変えにくいからだよ。なんだやけに速水のことで食いつくな」
明らかに今までと違う雰囲気を漂わせている。どうしたのだろう。そんな不安が洋次をイラつかせる。
「それは今はいいんです。実は本人の前だったのでさっきは端折ったんですけどあの倉庫にいた人たちこうも言ってたんです。『大丈夫、速水の奴なら』って話の前後が聞こえていなかったので何とも言えませんがここだけは確かです」
それを聞いて思わず足を止める。
「なんだそれ聞いて無いぞ」
「えぇ今、言いましたから」
「そういうことじゃねぇ。お前まさか速水を疑ってるんじゃ?」
「あくまでそう聞こえたって話であってその後は知りませんよ。ただ速水さんは少し他の人より謎が多いみたいなのでこの件にも絡んでるのかなと思っただけです」
冷静にそう言われてしまうとどう反論していいのか分からなくなる。思わずその気持ちを怒りに変えて冷にぶつけてしまう。
「流石に速水を疑うのは怒るぞ。たかが昨日会っただけの化け物にわかるわけないだろ。もうちょっとましな嘘つけよ」
思わず口に出してしまいハッとするが遅い。肩を震わせながら冷がこちらを見ている。
「化け物って自分ではもちろんわかったいますけど口に出されるのは腹が立ちます。分かるわけ無いですよね。昨日あっただけの化け物のことなんか。こっちは心配だから色々考えて話してるのに。私だって速水さんがそんな人だとは思いたくはないですよ。だからこそ洋次さんを信用して話したのにもういいです」
「待てよ!」
洋次の制止も聞かずどんどんと歩いて行ってしまう。捕まえようと手を掴むと掴んだところから氷出し思わず手を引く。
「お前・・・!わかったよ。知らねえよそんな強情な雪女は山にでも帰れよ。大体、いきなり見ず知らずの化け物に婚約者なんて言われる身にもなってみろよ」
しまったと思いつつも出してしまった言葉は止まらない。そのまま冷は振り返ることなく見えなくなった。
1人ぽつんと取り残された洋次は捨てられた子犬のようにトボトボと交番を目指す。その間も後悔の気持ちと溜まっていた感情とが交互にやってくる。こうやってわざわざゴミかもしれない石を届けることすら億劫になってくる。何でこんなものを持っていかなければならないんだ。こんなもの持って行ったところで笑われるかもし本物なら犯人かの如く聞かれるに決まっている。そんな面倒に巻き込まれるぐらいならいっそ失くしたことにして捨ててしまおう。そんなことを考えてポケットに手を入れた瞬間・・・・何か後ろ小さな声と大きな音が鳴った。いや後ろじゃないこの音は・・・どろりとした鉄の臭いがしたものが首筋を通ったとき洋次の記憶はそこで一旦、途切れる・・・・
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