偏愛

    

 第一部

 

 それは言わば一目惚れだった。

 僕が初めて彼女と出会ったのは高校一年の冬休みの時だった。図書室に用事があり、本を探していた僕は窓際の席に腰かけて読書する彼女と初めて出会った。出会ったという言葉もあるいは不適かもしれない。言葉を交わした訳ではない。僕が一方的に彼女を気に入ってしまったのだ。

 彼女の第一印象はどこか儚げで触れてしまえば壊れてしまいそうな感じだった。

 綺麗な人だと思って見とれていたら目が合ってしまい、僕はすぐに逸らしてしまった。以来、何度か学校で見かけるようになってからはできるだけ目が合わないように彼女を見つめた。以前から校内で見かけていたのかもしれないが、以前の僕はなぜか彼女の魅力に気づけなかった。あの日図書館で出会わなければ一生彼女の美しさに気づくこともなかっただろう。

 僕はその女の子を密かにヒメと呼ぶことにした。色白でまるでお姫様のように可愛らしく、箱入り娘のような雰囲気を漂わせていたからだ。僕は浮世離れしたヒメにどこか弱弱しい印象を抱いた。

 

 学年が上がって、偶然にもヒメと同じクラスになり、僕はとても喜んだ。

 しかし、臆病な僕は彼女に話しかける勇気を持っていなかった。いつもただ遠巻きに見つめることしかできなかった。目を合わせられないのも相変わらずだった。

 ヒメは物静かで休み時間もずっと本を読んでいた。他の誰かと話しているのを見たことがない。クラスに居心地の悪さを感じていた僕はヒメにより一層好感を持った。クラスの男子は皆体育会系で気質的に僕と合わなかった。僕は人付き合いが苦手だった。今まで他人の考えていることが分からなくて随分と苦しんできた。なぜ他人が笑っているのかわからないのだ。それはヒメも同じようで、何が面白いのかわからないような下世話なことで笑い合っているクラスメートをヒメはどこか醒めたような眼で見つめていた。たまにクラスの男子がヒメに絡むことがあり、僕は内心で彼女が汚されているような嫌な気持ちになったが、彼女は冷たくあしらっていた。

ヒメは一体何を考えているのだろう。授業の間もそんなことが思考を占めるようになっていた。彼女の眼には僕もあの無頼の輩と同じように映っているのだろうか。いや、あるいはこの世の全てのものが下らなく見えているのかもしれない。言葉を交わすことができれば、きっと何かわかるのだろうが、その勇気がない。少し話すだけ。たったそれだけの勇気すら持てない自分が情けなかった。

 

 僕が二年に上がり、ヒメと同じクラスになった頃から奇妙なことが起きるようになった。

 部活を終えて家に帰ると僕は決まって家のポストの中を確かめる。普段ならば夕刊やスーパーや家電量販店の広告などがしか入っていないのだが、春のある暖かい日にそれは入っていた。

 白無地の角封筒――宛名はなく差出人の名前もない。切手すらついていなかった。直接ポストに入れられたものだろう。家族の誰かに宛てたものに違いないのだろうから、とりあえず中を開けて確かめることにした。封を切ってみると中には丁寧に折り畳まれた手紙が一枚入っていた。

 綺麗な文字でこう書いてあった。

  

貴方にお手紙を書くのは初めてですね。

私はいつでも貴方のことを見ています。

どんな時でも貴方を想っています。貴方のことが好きです。

私の思いに気づいてください。

私はずっと貴方のことを見ていますから。


 ただそれだけ書いてあった。手紙にもやはり差出人も宛名もなかった。僕は気味悪く思ってその手紙を捨ててしまった。悪戯にしては随分と悪趣味だ。

 

 次に手紙が来たのはそれから二週間後だった。内容は以前届いたものと同じようなものだった。また悪戯かと思ったが、流石に不安になってきた。僕は両親に事の経緯を話した。両親も心配したが、取り敢えず様子を見ることになった。同じようなことが続くならば警察に届け出ることになった。

 

 手紙はそれ以降来ることはなかった。まるで僕と両親とのやり取りを見ていたかのように、その日を境に手紙は来なくなったのである。

 

 衣替えを経て、学生たちの制服は皆夏服になった。ヒメの夏服姿は他の女子よりも際立って見えたのは、やはり色白であるからだろう。日差しを手で遮って眩しそうに窓の外を見つめるヒメ。授業中に関わらずそんなヒメの姿を遠目に見つめる僕。何とも滑稽にも思えるような図だ。ヒメは僕の視線に気づいているのかいないのか。それはわからない。しかし、声をかける勇気のない僕には遠巻きでもいいからヒメのことを見ていたかった。もし僕にほんの少しでも話しかける勇気さえあれば。

 

 ヒメは放課後も一人教室に残って勉強や読書をしている。授業中に眺めるだけでは飽き足らず、ついに僕は一緒に残ることにした。勿論話しかける訳ではなく同じように勉強で残る体を装うのだ。ヒメは席替えをしても常に前の席に座っている。それは僕にとって好都合だった。僕の席はヒメの席から遠く、教室の隅にある。いつもヒメを後ろから眺めることができるのだ。いつもなら一人の教室に今日は珍しく僕が残っていることにヒメは多少困惑した様子であったが、またいつものように無表情に変わった。僕はヒメが笑っているところを見たことがない。せめて少しでも微笑んだ顔を見ることができればなと兼ねてより思っていた僕は授業中や休み時間でもヒメの表情を見ていた。しかし、一向に笑わない。もし二人きりの時、僕の前だけで一度でも笑ってくれれば、僕はきっと嬉しさの余りに有頂天になるだろう。

 

 ヒメはずっと勉強している。それでもずっと眺めていたい。ヒメに悟られないように宿題をやりながら彼女が何を考えているのか色々と想像してみた。しかし、尤もらしい考えが浮かばないで思考が堂々巡りする。勉強も手につかない。

 ヒメは一八時頃に勉強を切り上げて足早に帰ってしまった。誰もいなくなった教室で僕はヒメの席をぼんやりと眺めた。薄暮の空を見ていると無性に溜息を吐きたくなった。

 僕は一九時まで残、見回りに来た教師に促されて学校を出た。

 帰宅してポストを見ると、またあの白無地の角封筒が入っていた。ポストの中に入っている角封筒を見て身が竦む思いがした。やはり差出人の名前はない。そのまま捨ててしまおうかとも思ったが、内容が気になってしまい、ついに捨てることはできなかった。四か月ぶりの手紙だ。一体何が綴られているのか。

 部屋に戻ると僕は真っ先に手紙の封を切った。

 やはりあの時と同じで整った字で書かれていた。

  

 お久しぶりですね。

 お手紙を出せなくて本当にごめんなさい。

  私はずっと貴方を見ています。

  気温も高いので体調にはお気を付けください。

  最近貴方は夜寝ている時布団を蹴飛ばしていることが多いので体を冷やさないようにしてくださいね。

  私はずっと貴方を見ていますから、愛しい貴方をずっと見ています。ずっと、ずっと見ています。

  だから貴方も私の想いに応えてください。

  私は本当に貴方のことを愛していますから。

  他の女なんか忘れて、私だけに想いを向けて欲しいのです。

  貴方に知ってほしいのです。私のことを。私は貴方の近くにいます。

  でも私には貴方に伝えるだけの勇気がないのです。だからこうやって差出人を書かないで直接家のポストに投函しています。

  私に勇気が生まれるまで待ってください。早くしないと貴方は誰かに取られてしまう。それだけは避けたいのです。だからどうか私が貴方に想いを伝えることができるまで待ってください。

  

手紙読み終えると僕は丁寧に折り畳んで元の封筒に収めた。

 そして椅子に座って考え込んだ。

 ずっと見ていると手紙の主は書いている。一体どうやって見ているのか? 今この瞬間もどこかで僕を見ているのだろうか? 考えただけでも恐ろしい。もし本当に見ているのならばいっそ叫んでしまおうか。僕には別に好きな人がいる、と。

 

 「誰だか知らないけど、貴方にはわからないだろう! 僕にだって好きな人はいるんだ! 自分の好きな人くらい自分で決めるさ。貴方の指図は受けない」

 

 僕がそう叫ぶと黒い影が僅かに動いて消えたような気がした。背筋に寒いものが走った気がして、僕は手紙を破り捨てた。

 

 

 

 第二部

 

 私は本が好きだった。冷たく私を突き放す現実の世界と違って、本の世界だけが私を受け入れてくれる。

暗い毎日の中で私は彼と出会った。一目で彼が私と同じ人間だとわかった。彼もこの現実に苦しめられている。

 私の両親は仕事ばかりで家庭を顧みない。中学に上がっても友人らしい友人は一人もいなかった。本の世界に逃げ込んでいた私に、彼の存在が光を与えてくれた。退屈な現実を彼が変えてくれたのだ。


本当のことを言えば彼と最初に出会ったのは私がまだ幼稚園に通っていた頃のことだ。勿論そんな幼い頃の記憶なんて覚えていない。彼と再会したのは中学生生活が折り返しに差しかかっていた時期。塾の帰り道に行き着けの書店に立ち寄った時のことだった。何か雑誌を読んでいる彼と偶然横に並んだ。心地いい洗剤か何かの匂いがしたと思って横をふと見た時、目が合ったのだ。はっきりと言ってしまえば一目惚れだった。カッコいいとかそういうのではない。ただ一目見てこの人は私と同じ人間だと思った。そう思うと言葉を交わした訳でもないのに急に親近感が沸いてきて、途端に好きになってしまったのだ。まだその時は彼の名前すら知らなかった。

 後々同じ中学ということを知り、彼と同じクラスである女子に色々と話を聞いて名前を知った。それから更に自分で調べて回り彼が私と同じ幼稚園だったこともわかった。

 これはきっと運命だ。そう確信した。ずっと前から私と彼は繋がっていて、今ここに来てその運命がはっきりとしたのである。私は嬉しさの余りにも叫びたい気持ちになって柄にもなくはしゃいだ。

 彼が少し高めの学校に進学しようとしていると知った私は何としてでも同じ高校に入ろうと必死に勉強した。元々勉強は嫌いでもなかった私はついに彼と同じ高校に入ったのである。

 しかし、同じ高校に入ったのはいいが、彼と交流する機会を掴めないでいた。彼のクラスと出席番号、座席の位置を突き止めて教室の前を通りがかることを口実にして何度も顔を見に行っても、話しかけるだけの勇気がなかった。私はただいつもコソコソと彼を陰から見ることしかできなかった。彼はどちらかと言えば私と同じで地味な人だったが、それ故に内面で何を考えているのかわからない分私の興味を惹いた。名の知れた俳優のようなカッコよさはないけれど、それとは違った形容しがたい魅力を私は感じたのである。それもきっと運命だからだと思う。理由もなく人を好きになったのは初めてだったし、恐らくこれから先こんなことはないだろう。だから運命なのだ。

 彼は他の女子と話すということは少なかった。私は暇さえあれば彼の所に足繁く通ってはその動向を怪しまれないように伺っていたが、彼は滅多に他人と話さなかった。そこも私と同じだった。精々授業に関する質問をいくつかする程度で、それ以外は殆ど話さない。休み時間はいつも勉強しているといった感じだ。

 

 高校一年の冬休み。いつものように図書館で本を読んでいた時、偶然彼が図書館に現れた。彼の姿を見た時、私の心臓は確かに高鳴って爆発しそうになった。心を落ち着かせるために本を読もうとしても書いてあることの意味が分からず、何度も同じ行を読み返してしまった。そうこうしているととうとう彼と目が合ってしまった。私は緊張のあまりすぐに目を逸らしてしまった。しばらく気まずい空気が流れた後、彼は立ち去って行った。嫌われてしまった。私はそう思って急に怖くなってしまった。

 高校二年になって彼と同じクラスになった。いよいよ私の確信は強まった。これは運命なのであると。彼と同じクラスだと知った時、私は心の中で笑い、そして泣いた。これで彼との距離は近くなった。でも私はまだ彼と一度も話したことがない。物理的な距離が近くなっても関係上の距離は依然として開いたままなのだ。

 クラスにいる他の男子は嫌いだった。軽薄で下品な輩と彼は明らかに違っていた。彼はいつも冷たい眼差しで彼らを見ていた。

 以前図書館で目が合ってしまった以来私は極力彼を見ないようにした。どうしても彼を見たい時は直接見つめるのではなく視界の隅に入れるようにした。

 

 話しかける勇気がなかった私は、どうにかしてこの想いを彼に伝えたいと思った。そして、勇気を出して彼に手紙を書いた。初めて彼に出す手紙。何度も手紙を書き直した。そしてやっとのことで自分の気に入った手紙が仕上がると白い角封筒に入れた。しかし、私の名前はやはり書けなかった。私は怖かったのだ。彼に嫌われてしまうのではないか? 手紙を出す前に何度もそう思った。でも今出さなければ一生彼と関わる機会がなくなるような気がした。直接話しかけることができなかった私の最大限の勇気がこれだったのだ。

 彼がどこに住んでいるのかは中学の頃から知っていた。放課後彼の家のポストに直接手紙を投函した。

 彼が私の手紙を読んでくれたのかはわからない。差出人が書かれていない手紙など読む前に捨ててしまっているかもしれない。それでもいいと思った。私は勇気を振り絞って手紙を出したのだ。それだけでも大きな進歩じゃないか。そう慰める。差出人を書かなかった上に怪文書的な書き方だったから最初から返事など期待していなかった。

 翌日彼はいつもと変わらない様子だった。やはり手紙は読まれていないのだろうか。私はどこかがっかりした気持ちになってしまった。しばらく様子を伺ってみるが、やはり普段と変わりないようだった。

 私は二週間ほど経ってからもう一度同様の手紙を書いて再びポストに入れた。しかし、やはり読まれていないのか彼の様子は変わらなかった。

 

 彼と同じクラスになってすぐの頃から私は部活を終えた彼が家に帰るのを後ろから見守るようになった。彼が何時に部活を終えるのかも把握済み。それまで私は教室で一人自習している。勉強を終えた後に彼の帰る姿を見つめることができるなんて最高のご褒美に思えた。

 そんなある日。一つ変化が起きた。放課後すぐに部活に行く彼が、その日だけは教室に残って私と同じように勉強を始めたのだ。教室には私と彼の二人きり。心臓がかつてないほど高鳴るのを感じて、息もできないくらいだった。ついに彼は私の想いに気づいてくれたのだ。その時、私はそう確信した。私は勉強を投げ出して手紙を書いた。彼の席は私の後ろ、教室の隅にある。私が彼に手紙を書いているとはきっと気づかないだろう。その時の興奮、これは何と形容したらいいのかわからない。手紙を書き上げた私はいつも通りの時間を見計らって早急に彼の家に向かった。彼が帰るよりも先に何としてでも手紙を出さなければ。息が切れるくらい走ってポストに手紙を入れると私は真っ直ぐ家に帰ろうとした。

 しかし、引き返す道すがら私は不安になった。彼は今度の手紙も読むことなく捨てるのではないか? この一点の不安が私を再び彼の家に向かわせた。この目で確かめたい。

 丁度彼が家に入っていくのが見えた。

 彼の部屋があるのは二階だ。しかし、どうやって彼が私の手紙を読んでいることを確かめようか。……私は彼の家の前でしばらく考えた。盗み見ることも考えたが、流石に私にそんなことをする力はない。

 まごまごしていると家の中から大声が聞こえてきた。

 それは紛れもない彼の声だった。

 「誰だか知らないけど、貴方にはわからないだろう! 僕にだって好きな人はいるんだ! 自分の好きな人くらい自分で決めるさ。貴方の指図は受けない」

 

 私はまるで殴られたかのような強い衝撃を受けて、その場に立ち竦んだ。



 第三部

 

 前の手紙が来て三日経った。この日は土曜日だった。両親は出かけていて僕は一人で留守番をしていた。

 その来訪はあまりにも唐突だった。

 インターホンが鳴ったので出てみるとヒメの声だった。僕は吃驚してすぐに出迎えることができなかった。やっとのことで心を落ち着かせて玄関の戸を開けた。私服のヒメが立っていた。僕はその新鮮さに喉元にまで出ていた言葉を飲み下した。呆然としていたが、ヒメも何も言わない。双方の沈黙が流れてしばらく。ようやく我を取り戻した僕はヒメを家に招いた。

 

 僕は慣れないながら紅茶を作ってヒメに差し出した。ヒメは飲まなかった。やはり彼女は無言でいよいよ気まずくなった。

 普段教室でも滅多に話さないヒメがどうして? これは夢なのではないかとすら思えた。

 しかし、これはいい機会かもしれない。一世一代最初で最後の告白をここでヒメに。そんな考えが浮かぶが、やはり話が切り出せない。

 でもここで告白する機会を逃せば僕は一生後悔するだろう。それだけは嫌だ。誰かにヒメを取られるなんて。そんなのは耐えられない。ずっと彼女への想いを秘めてきた。今ここで告白しなければいつ告白するんだ。僕の青春は一回きりなんだ! 安っぽい恋愛小説かもしれない。ただ漠然と好きという思いを打ち明けたいだけなのに、どうして僕はこんなにも臆病なのか。

 

 僕は言うか言わないか迷って口をもごもごさせていた。

「手紙、お読みになりましたか?」

 唐突にヒメが口を開いた。

 僕は余りにも突然のことだったので困惑して意味を解せないでいた。

「……ポストに手紙が入っていたでしょ?」

「どうしてそれを」

「だって手紙を入れていたのは私だから」

 それは余りにも唐突で余りにも衝撃的な一言だった。僕はまたも呆然とした。

 しかし、先ほどとは違ってすぐに冷静に戻った。

「なぜですか?」

 僕は慎重に理由を訊ねた。あの手紙には偏狂とも言えるような言葉が多く連ねられていた。それこそ気味悪く思えるくらい。

 ヒメはなかなか答えない。

「貴女の想いは本当なんですね」

 ヒメは黙って頷いた。

 僕もそれ以上何を言っていいのかわからず黙ってしまう。

 再び沈黙が流れて気まずさは募る。

 

 僕はついに意を決しヒメに想いを打ち明けることにした。もしこれが失敗すれば僕はもう二度と恋をすることはないだろう。

「……僕は以前から貴女のことをヒメと呼んでいました。貴女が他の子よりも輝いていたからだ。僕も貴女のことが好きです。ずっと前から。今の学年に入ってからずっと貴女を見ていた。教室に残ったりするのも貴女と二人きりになるためだった。でも、ずっと想いを打ち明けられないでいた。でも今日あの手紙を寄越したのが貴女と知って正直驚いたけれど嬉しいのです。以前から思いを寄せていた人に逆に思われていたのですから。付き合いましょう。いや、本当なら付き合おうなんて偉そうに言える立場じゃない。どうか僕のような人間で良ければ付き合ってくれませんか?」

 僕は落ち着いた口調で取り乱すことなくヒメに告白した。心臓が高鳴って爆発しそうだと思ったが全てを言い終えた後僕は誇らしく思えた。一世一代、最初で最後になるだろう告白を見事に終えた僕に悔いはない。例えフラれてしまおうとも僕は満足だ。

「ありがとう。ありがとう:

 ヒメはその瞳に薄っすらと涙を浮かべながら何度もそう繰り返した。

心の底から湧き上がってくる喜びを少しずつ噛みしめ、飛び跳ねて歓喜の叫びを上げたい衝動を抑えることに努めた。

 

 夕日が彼女の顔を赤く染めた。まるで赤面しているかのように。

 

 終

 

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