突撃!魔王城
第8話 デストラップダンジョン
「ここがワープゲートのある遺跡か。」
鬱蒼とした森の奥にその遺跡はあった。魔力の反応が遺跡の奥からする。ワープゲートはダンジョンの奥底にあるらしい。
ウィザーは内部をチラ見してうんうんと唸りだす。
「気をつけたほうがいいね、どんなトラップが仕掛けられているかわからないし。ここは僕とギガースで前を守りつつシステに補助してもらって……」
「ウィザーさん。」
システが困り顔でウィザーに話しかける。
「カゲロウさん、もう先にいっちゃいました。」
「なにーーーー!!!!!????」
*
遺跡の奥深くの一室で、悪魔の少女が水晶玉にカゲロウの姿を映しながら笑みを浮かべる。
「ようこそリリム様のデストラップダンジョンへ。100を超える死の罠があなたを待ち受けているわよ。」
*
遺跡の中をカゲロウとじぇるの二人が歩いていた。
「気をつけろじぇる、どんな罠が潜んでいるかわから」
ガコン、と何かのスイッチが入る音がする。すると直後、カゲロウの頭に矢が突き刺さった。
「うっ。」
「カゲロウーーーー!!!!!」
勇者カゲロウ、死亡──死因、頭に矢が突き刺さってしまってな。
「……よし、次に進もう。」
「そだね。」
カゲロウは即座に蘇生すると再び前に進み始めた。
ここから先は
勇者カゲロウ、死亡──死因、
転がる大岩に潰された。
毒蛇に噛まれた。
溺死(じぇるが護符を回収したのち蘇生)。
焼死。
じぇるの「焼死するとは笑止千万!」というギャグに腹筋を崩壊させた。
圧死。
じぇるの「あっし、圧死したでやんす」というギャグに腹筋を崩壊させた。
曲がり角で足の小指をぶつけた。
魔獣に喰われた。
胃液に溶かされた。
魔獣の屁が臭かった。
魔獣の内臓を食べたら毒性があった。
魔獣の死に際の自爆に巻き込まれた。
飢餓。
なぜかテーブルの上にパンが置かれていたので興奮して走り出したら転倒した。
パンを喉に詰まらせた。
案の定パンに毒が仕込まれてあった。
くしゃみをしたら舌を噛んだ。
黒歴史を思い出した。
爆発四散!
風邪をひいた。
呪いにかけられた。
じぇるの「動きがノロイから呪いにかかるんだよ」というギャグに腹筋を崩壊させた。
etc.
「なんなのこいつら……なんで自分から罠にかかりにいってるの……?すべての罠をコンプリートする勢いじゃない……」
リリムはカゲロウらの異様な行動に恐怖すら抱く。
「くそぅ!デストラップダンジョンはアトラクションじゃないっての!」
リリムは歯ぎしりしながら水晶玉を見やる。だがある考えを思いつくと急に笑顔になった。
「いや、情報によるとあの男は超絶低ステータスの勇者よ。ワープゲートまでたどり着いても問題はないわ。逆に勇者がホイホイ先に進んだことに油断しきった他のメンバーを罠にかけてやる!あーはっはっは!」
そう意気込むリリムであった。
──数時間後
「みんな、遅いぞ。」
「カゲロウが速すぎるんだよ!」
勇者一行は無事にワープゲートの前まで到達したのだった。
「なんでぇ~」
結局自分の罠では誰も仕留められず、リリムは水晶玉の前で泣き言を言う。
カゲロウは嬉しそうな顔で他のメンバーに話しかけた。
「それにしてもみんな無事でよかった。罠がたくさんあったから心配だったんだ。」
「ああ、それはカゲロウ、君のおかげさ。」
「俺の?」
「君は蘇生するとき周りの魔力を使うだろう?つまりダンジョンの中でわずかに魔力が薄い空間があったらそこにトラップがあるとわかるんだ。」
「途中なんの罠もないのに魔力が薄い空間がちらほらあって混乱しましたけどね……」
「あとほんとにわずかしか消費されてないから調べるとき結構集中するんだよな。」
「ほらみんなおしゃべりしてないで、目の前にワープゲートがありますよ。」
女神アテナに言われて勇者一行はワープゲートを見る。
そのとき、じぇるが何者かの気配に気がつく。
「みんな!後ろ!」
じぇるの声に全員が振り向くするとリリムが短い羽根をはばたかせて浮いていた。
「お、お前たち!よくもこのリリム様の傑作デストラップダンジョンを!」
「お前がこのダンジョンの作り主か!貴様の仕業で300回近くも死んでしまったぞ!」
「罠の数は100くらいしかないわよ!あとのはアンタが勝手に死んだんでしょ!」
「うるせぇ!許さん!」
そういってカゲロウはリリムに突っ込む。だが途中でカゲロウの体が浮き始めた。
ワープゲートが起動し、勇者一行を吸い込んでいるのだ。
「魔王城に行きたいなら行かせてやる!ただし!魔物たちが多く待ち構えるモンスターハウスにだがなぁ!」
「うわおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」
そうして勇者一行はワープゲートに吸い込まれていった。
*
気が付くと勇者たちは魔王城の大広間にたどり着いていた。
辺りを見渡したアテナが冷や汗をかきながら呟く。
「皆さん戦闘態勢を、すでに……囲まれています。」
みると、四方を数多くの魔物に囲まれていた。勇者たちの出方を見ながら今にも襲い掛からんとしている。ウィザーが仲間の無事を確認しながら指示を出した。
「ギガースは武器の、システは補助の準備を!カゲロウは……あれ?どこに?」
よく見るとカゲロウだけがいなかった。
*
「……」
「……」
デストラップダンジョンのワープゲートの前で、リリムとカゲロウは無言で見つめあっていた。カゲロウの下半身だけがワープゲートの先に行き、上半身はワープゲートに埋まるように飛び出ている。
「え、えーと。ごめん。閉じるの速すぎちゃったかな。」
「……」
気まずい沈黙が流れる。
「悪いと思うなら殺してくれない?」
「え?」
「下半身に『蘇生の護符』入れてるから。向こうで復活するから。」
「でも私あんまり力強くない……」
「大丈夫。お前程度の力でも俺は死ぬ。」
「え、そう?じゃあ……えいや!」
「ぐふっ!」
殴られたカゲロウの首が一周半回転する。それと同時に光とともに死体は消えていった。
勇者カゲロウ、死亡──死因、頸髄損傷。
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