第7話 祝福『ア・レ』

「倒した……!キリングを……!倒したーーーー!!!!!!!」


 キリングの体が崩れ行くのを見て、システは両手を上げて大喜びする。他のみんなも、安堵と共に腰を地面に下ろした。


「なんという番狂わせジャイアント・キリング……!キリングに勝てたのはひとえに貴方達の知恵と勇気の賜物です!」


 アテナは感動しながら全員に向かってそう言った。


 そんな折、カゲロウがウィザーに向かってきて話しかけた。

「ウィザー、キリングに刺された傷は大丈夫か?」


「ああ、システの瞬間治癒ですぐに治してもらったから大丈夫さ。」

 ウィザーは治り切ったお腹を見せて言う。


「それならよかった。今回の勝利はお前の勇気のおかげだからな。」


「……勇気?知恵じゃなくて?」


 ウィザーが苦笑して言うと、カゲロウが続けて言う。


「キリングを疑心暗鬼にさせたのは、ひとえにお前の勇気だ。もしお前が、『死手の鎌』に恐れを抱くそぶりを少しでも見せていたら、キリングは武装交換ウェポンエクスチェンジが使われていないと確信して、お前に切り掛かっていただろうからな。」


「……君に負けないよう。僕も勇気を振り絞らなきゃなって思っただけさ。」


 ウィザーはそういったのち、一呼吸置いてからカゲロウに深々と頭を下げた。

「すまないカゲロウ、君に速度強化の魔法をかけて、足の骨折を引き起こさせたのはワザとだ。」


 カゲロウはキョトンとした顔をしたのち、あああれか、と笑みを作って言う。


「でもそれは、俺が足手まといだと思ったからだろ?気にするな、俺のこんな低いステータスはみんなに置いていかれて当然のものだ。むしろ、仲間に入れてもらえていることを俺が感謝したいくらい──」

「違う。」


 ウィザーは顔を上げて、カゲロウの顔を真っ直ぐ見て言う。


「僕は嫉妬していたんだよ。キリング相手にも怯まず立ち向かっていった、君の勇気に。」

「ウィザー……」


 カゲロウが呟いた後、さらにウィザーは続けて言う。


「君が眩しかった。僕らより遅れて召喚された勇者が、一番弱い君が、誰よりも勇気を持っていたんだ、君にパーティーにいて欲しくないと思ったよ。嫉妬でこの身が焦げてしまいそうだったからね。」


 ウィザーの言葉を聞き、カゲロウは押し黙る。だがすぐに口を開き、ウィザーに向かって言う。


「だがお前は先ほどのキリング戦で誰よりも勇気をだした。すぐに復活できる俺と違って、お前はまさに命がかかっていたのにだ。ウィザー、お前の勇気もとんでもなく凄いよ。」


「……誰かさんに影響されちゃったのかもね。」

 ウィザーは笑顔を浮かべると、カゲロウに向かって握手を求める。カゲロウも握手を返した。


「これからもよろしくな。」


 すると、


 バキボキバキババキボキ!


 何かが砕け散る音がする。


「……手が複雑骨折した。」


「……システ!早くきてくれー!!!」

 ウィザーが大声で叫ぶ。


 カゲロウの虚弱体質は相変わらずだった。


 *


 皆が一息つき終わったころ、地面に寝そべっていたじぇるがあるものに気が付いた。


「みんな見て!こんなところに新芽が生えてるよ!」


 それを聞いたみんなが近づいてきた。すると新芽を見てアテナが大声をあげた。


「これは……神樹『ア・レ』の新芽!?」


 そう叫んだとたん。カゲロウたちの頭の中に声が響いた。


『死の後には再生が始まるのだ。よくぞキリングを倒してくれた、勇者たちよ。』


「まさか……これは神樹『ア・レ』の声?」


 システがつぶやくと朽ちかけていた『ア・レ』が光の粒となり、カゲロウたちを包みこむ。すると、カゲロウたちにどんどん経験値が入り始めた。


『キリングの分と私の分の経験値がお前たちに流れ込む。魔王討伐への大きな足掛かりとなるだろう。それでは皆、さらばだ。私は新芽から、命をやり直すことにするよ。』


 そして『ア・レ』は完全に光となって消えてしまった。


「……おい!みんな!自身のステータスを見てみろよ!」

 ギガースの言葉を聞いて他のみんなも自分のステータスをみる。そしてほぼ全員が驚愕した。


「ステータスがとんでもなく上昇している!?」

「平均ステータス5000!?とんでもない伸びです!」


 そう、キリングを倒したことと神樹『ア・レ』の祝福により、全員のステータスが大幅に上昇していたのだ。……ただ一人を除いて。


「……俺だけ経験値がたまるだけでステータスが1のままなんだが。」


 カゲロウが困惑しながらそうつぶやく。カゲロウの体はなぜか猛烈に輝いていた。まさに臨海寸前といった様子だ。


「おい、まさか。」


 全員が何かを察して後方に後ずさる。そして予想通りそれは起こった。カゲロウの体が──光とともに爆発したのだ。


 勇者カゲロウ、死亡──死因、膨大な経験値に耐えられず体が爆散。


 *


「キリングがどこから来たのか分かった?」


 ウィザーが尋ねるとアテナは静かにうなずいた。


「近くに膨大な魔力と空間のゆがみを感じます。おそらくキリングはワープゲートを使って、遠く魔王城からこの地に来たのでしょう。」


「じゃあそれを逆に利用すれば俺たちが魔王城に行けるんだな。」


 カゲロウの言葉に全員がはっと気づく。アテナは頷いて言う。


「あっちがまだ成長しきってない私たちに幹部クラスをぶつけるという掟破りのことをしてきたのです。今度はこっちがあちらに乗り込んでやりましょう!」


 アテネの言葉に、全員が賛同しワープゲートの方角を向く。


「さあ行くぞ!魔王城に突撃だ!」

 そしてカゲロウが勢いよく一歩を踏み出し──


 足をくじいて顔面を強打した。


 全員がアチャーっとあきれ顔をする。


「やれやれ、先が思いやられるね。」

 ウィザーは苦笑を浮かべる。そしてみんなはカゲロウに続き、一歩を踏み出した。


 勇者カゲロウ、死亡──死因、顔面強打ののち首の骨折。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る