第6話 番狂わせ(ジャイアント・キリング)
「残念だったなぁ。頼みの『ア・レの果実』は手に入らず、我への対抗手段は失われた。完全に『
魔王軍幹部、キリングは勝ち誇った様子でカゲロウたちに向かって言う。
元より無謀な賭けではあった。が、今はその賭けのチャンスすら奪われてしまった。
勇者達は絶望感に包まれてしまう。
──ただ1人、カゲロウを除いて。
「ウィザー、今の戦力でキリングに勝てる手段を考えてくれ。」
「はあ!?」
突然カゲロウから振られた無茶振りに、ウィザーは驚愕の声をあげる。反論の隙も与えずカゲロウは畳みかけた。
「勇者命令だ。この中で一番お前が知力高いし、それにお前には『魔法無詠唱』を使いこなすセンスがある。できるだろ?天才魔法使い。」
カゲロウからの期待のこもった言葉に、ウィザーは額に汗をかきながらも笑みを浮かべて答えた。
「……ああやってやろうじゃないか!そのかわり、この作戦で何回死んでも文句言うなよ!」
「ああ!俺のこの命!存分に使え!」
ウィザーは深呼吸をするとシステに向かって大声で言う。
「システ!お前の女神様との同調の魔法を応用して、俺たち全員の心を同調させることはできるか!?」
「わかりません!女神の加護を受けたもの同士なら出来るかもしれないけど……ええい!やってやる!やってやるわー!」
システがアテネに祈り始めると、カゲロウ達を暖かい光が包んだ。システは相当集中力を使っているようで、祈っているその場から動けないようだ。
「な、なんか頭の中に声が響くぜ!?」
(どうやら成功したようだな!ギガース!お前はシステを守れ!カゲロウ!キリングを撹乱してくれ!)
ウィザーの指示を受けたカゲロウはキリングに向かって突進する。
「ふん、貴様の異常な蘇生速度の謎は知っている。貴様が勇者と思えぬほどの雑魚だということがなぁ!」
キリングは『死手の鎌』をその場で振るう。すると、なんと飛ぶ斬撃が放たれた。斬撃はカゲロウの頬をかすめる。
「……まさかこの攻げ……!」
言い終わる前にカゲロウは口から血を吐き、そして地に伏してしまった。
「まさか飛ぶ斬撃にも即死効果が付与されているのですか!?」
アテナが驚いて言うとキリングが笑い声を上げる。
「くくく……強大な力を持つ武器は、強大な者が扱うことによって真価を発揮するのだよ。」
「──カゲロウ!今だよ!」
地に伏していたカゲロウが光となって消えた。そしてなんとキリングの背後で復活したのだ。
じぇるが『蘇生の護符』を持って回り込んでいたためである。
「その鎌を奪ってやる!」
しかし、飛びかかろうとしたところで、キリングの振り返りざまの攻撃に胸を切り裂かれた。
「貴様の不意打ちなんぞに遅れをとる我だと思ったか?我の『死手の鎌』を奪って我を殺すつもりだったのだろうが、貴様ごときに武器を奪われる我ではないわ!」
だが死の直前、カゲロウはキリングの『死手の鎌』に触れた。そのとき──
「呪文発動!
ウィザーが大声で叫ぶ。するとウィザーの手にはなんと『死手の鎌』が握られていた。
キリングは慌てて自分の手を見やる。しかしそこには相変わらず、全く同じ『死手の鎌』が握られていた。違いといえば、ウィザーの鎌にはカゲロウが触れた位置に魔法陣が浮かんでいることくらいだ。
「……さてはギガースのスキル『武器・防具精製』か!」
「ご名答、ギガースに同ランクの武器を作ってもらってね。君の手にあるのは即死効果だけのない『死手の鎌』のレプリカさ。」
本当に『死手の鎌』がすり替えられたのかキリングは思い悩んだ。試しに自分に向かってきたカゲロウを斬ってみたが、些細な傷で死ぬカゲロウ相手では判別がつかなかった。
ウィザーが『死手の鎌』を持って構える。ウィザーは自分に強化魔法をかけているようで、みるみるうちにステータスが上がっていく。すると、それを見たキリングがゲラゲラと笑い始めた。
「フハハハハハハ!!!!!最後に墓穴を掘ったなウィザー!貴様先ほど
キリングは勝ちを確信し、ウィザーに向かって突撃する。自分の鎌がすり替わった気配などなかった。ただのハッタリだ。そうやって騙して我が本物の『死手の鎌』を手放すのを狙っていたのだろう。そう信じていた。
だが、キリングはウィザーを見て逡巡した。
──ウィザーは笑っていた。まるでキリングは罠にかかる獲物だと、そう言っているかのような笑みであった。キリングは思考を駆け巡らせる。
(なぜだ?なぜ笑っているのだ。このままでは自分が殺されてしまうだけだとわかっているはず。それなのになぜ笑っている?あのカゲロウのようにすぐに生き返られるわけではないのだぞ!?──まさか本当に
「うおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」
キリングは大声をあげてウィザーの鎌を弾き飛ばす。そして持っていた鎌を捨て、ウィザーの鎌をキャッチした。
「くくく……危うく騙されるところだったよ。さすがは勇者一行。我を倒すために作戦を練っていたようだな。」
自分の鎌をうばわれたウィザーは絶望した顔を見せる。その顔を見て、キリングはようやく勝ちを確信した。
「だが結局我が上手だったようだな!死ねえええええええ!」
キリングは鎌をウィザーの肩に突き刺す。そしてウィザーはピクリとも動かなくなった。
──キリングも一緒に。
「な!?か、体が!動かぬ!」
「──僕はすでに!
「なんだと!
「やはり引っかかってくれたね。用意周到なお前のことだ。僕の行動の裏を呼んでくると予想した。そして僕は──さらにその裏を読んだ!」
「カゲロウ!やっちまええええええええ!」
ギガースが大声で叫ぶ。キリングの背後、そこにはじぇるとカゲロウが本物の『死手の鎌』を持ち上げていた。というかほとんどじぇるが持っていた。
「カゲロウ!この武器でさえ持ち上げられないなんてどんだけ貧弱なの!?」
「すまん。だがこれで……とどめだ!」
カゲロウの手の甲に女神の紋章が浮かぶ。倒した相手が復活しないよう魂を縛る。女神の加護を受けたものが使える力。その力に満ちた鎌をカゲロウとじぇるは振り下ろす。
「貴様らああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
キリングの体に『死手の鎌』が突き刺さり、瘴気が全身をめぐっていく。キリングの目から光が失われ、体が崩れるように倒れていった。体から飛び出た魂は光とともに天上へと飛び去っていった。
魔王軍幹部キリング、死亡──死因、勇者たちのチームプレイに敗北。
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