第4話 未知なる『アレ』を求めて

「えええええ!!!!!カイマンを倒しても経験値入らなかったの!?」

「どうやらあいつが勝手に喉に詰まらせた判定になっているらしい。ステータスをあげられるかと思ったんだが、残念だ。」


 カイマンの体内からカゲロウが引っ張り出された後、カゲロウは護符の効果で蘇生していた。


「……でもいいんじゃない?下手にステータス上がっても蘇生時間が長くなるだけだし。魔王を倒すには全然強さが足りないし。」

「そんな考え方じゃいつまで経っても強くなれないぞ。約束しただろ?二人で最強を目指すって。」

(そんな約束したかな?)

 いつの間にか大層な目標が設定されていた。


 カゲロウは伸びをしたのち、腕をついて腕立て伏せを始めた。

「仕方ない、地道に鍛え──うっ!?」


 腕を伸ばした途端、両腕からブチブチと何かがちぎれる音が聞こえ、体勢が崩れたのち顔面を強打する。

 そしてピクリとも動かなくなった。


 じぇるはカゲロウのステータスを確認して呆れたようにつぶやく。

「勇者カゲロウ、死亡──死因、筋肉断裂ののち、首の骨折。」



 *


 勇者一行(勇者はいない)は険しい山道を登っていた。

 呼吸を荒くしながら登るシステにギガースが声をかける。


「大丈夫かシステ!俺が背負ってやろうか!?」

「大丈夫です!ギガースさん汗臭そうですし!」

「ひでぇ!」


 アテナはふわふわと浮かびながら全員に激励を送る。

「みんな!『アレ』までもう少しよ!あと少し頑張りなさい!」

「アテナ様はいいですよね空を飛べて……」


 ウィザーがうらやましそうにアテナを見つめる。


「うっ、しょうがないでしょう。私に人を運んで飛ぶ力はないのですから。」

「別に文句言ってるわけではないですよ。僕も飛行魔法を使えますけど魔力の温存のために使ってませんしね。」


 そのとき、山の上からこぶし大の石が雨のように飛んできた。


「──敵!」


 アテナが叫ぶ。全員が手で防御の構えを取るがその必要はないようだった。


 その石のつぶては、ウィザーがすでに発動していた防御結界によって阻まれていたからだ。ウィザーのスキル『魔法無詠唱』によるものである。


「こういうときのためにね。」


 ドヤ顔を決めながらウィザーは石を投げてきた敵を睨む。その先には大量のゴブリンが潜んでいた。ゴブリンたちは自分たちの攻撃が防がれたのを見てギャアギャアと騒ぎ始めた。


「ナンダ!?詠唱シテナイノニ魔法をツカイヤガッタゾ!」

「囲ンデ叩イチマエ!」


 そう叫んでゴブリン達は武器を持って襲い掛かり始めた。


「ちょうどいい!山登り続きで体がなまりそうになってたところだぁ!」


 ギガースがスキル『武器・防具精製』で巨大な斧を作り出すとゴブリンたちに向けて振り回す。ゴブリンたちの体はまるで紙屑のようにちぎれとんでいった。


「足ヲ狙ッテ動ケナクシロ!」

 リーダー格と思われるゴブリンがそう叫ぶと、ギガースの足にゴブリン達がナイフを突き刺す。


「痛ぇなクソ野郎!」

 ギガースが足に群がってきたゴブリンの頭を吹き飛ばすと、かがみこんで突き刺さったナイフを抜く。


(狙イ通リダ!コノ隙ヲ狙ウ!)


 ゴブリンのリーダーが怪我をしたギガースにむかって突撃する。しかし、ギガースの足の怪我は瞬時に回復し、リーダーの頭は立ち上がったギガースの拳に吹き飛ばされた。


「残念だったな。あいにく俺らのパーティーには最高の『ヒーラー』がいるんでね。」


 後方で杖を構えたシステが立っていた。システのスキル『瞬間治癒』は生きてさえいればどんな傷でも瞬時に癒すことができる。


「リーダーガヤラレタ!退ケ!退ケ!」


 ゴブリン達は背を向けて逃げ出し始める。それを見たアテナがシステに声をかける。


「敵のロックオンが完了しました。システ、私と心の同調を。」


 システとアテネが同じ色の魔力の光を放つ。神官職のシステは女神のアテナと意識を同調させることができるのだ。


「システ!弓と矢だ!」


 ギガースがシステにスキルで作った弓矢を放り投げる。システはそれを受けとると、矢を空に向けて引き絞る。


「『神弓の射手ゴッド・アロー』!はああっ!!!」


 空に昇った矢は空中で無数に分かれると、すべてのゴブリンに向けて放たれる。さらに途中で炎を纏い始めた。


「あ、炎属性を付与エンチャント・ファイアしておいたよ。いつも事後報告で悪いけど、まあスキルの仕様的にね?」


「わかってるからいちいちドヤ顔で言わない!」


 ウィザーの発言にアテナがツッコミを入れる。無数の弓矢がゴブリン達を貫き、ゴブリン達は皆燃えて灰と化してしまった。アテナが辺りに魔物の反応が無くなったことを確認して呟く。


「ゴブリンが潜んでいたとは、キリングも私たちの目的に気が付いているかもしれませんね。気をつけなければ。」

「でも、もう『アレ』までもう少しですよ。先手を打たれる前に到着しちゃいましょう。」

「そういやぁ、カゲロウは今何してるんだろうなぁ。」

「さあね、またどっかで死んでるんじゃない?」


 軽口をたたきながら勇者一行はさらに歩みを進める。


 *


 そのころカゲロウとじぇるも『アレ』を求めて山道を登り始めていた。アテナたちとは別のルートである。


「なあじぇる、本当にこの先に『アレ』があるのか?……はあ……はあ。」

「勇者たちにとって大事なものがあるって、僕たちの間では有名だよ。結界に包まれていつもはいけないけど、今は解かれてるみたい。カゲロウの仲間がそこにむかっているからかな。」


「それよりこの坂きついな……貧弱な俺の体力がもつかどう……か……」

 息を荒げ、今にも死にそうな顔でカゲロウは歩みを進める。


「別名『心臓破りの山』って謳われているからね……あ!」

 何かを察したじぇるが後ろを振り向く。そして案の定カゲロウが倒れて突っ伏していた。


 わざわざステータスを確認しなくてもわかる。

「勇者カゲロウ、死亡──死因、心臓破裂。」

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