とり天おいしい

城崎

さくりと衣を齧る音。一瞬にして、辛子の入った醤油のいい香りが広がる。破れた衣から覗く、ぷりぷりと輝いている鶏肉。自分で食べる時よりも美味しそうなそれは、非常に目にも鼻にも毒である。思わず鳴りそうになる腹をどうにか抑えて、俺は至ってありきたりな質問をした。

「うまいか?」

その答えは、彼女がよほど表情の移り変わりがおかしいとかでないかぎり、既に分かっている。それでも聞くのは、ただの自己満足に過ぎない。

「美味しいです、とても」

首を縦に振って頷いた彼女は、さっきまでの無表情が嘘のように綻んでいた。

「それなら良かったけどよ」

「これで、アンタが作ってたら格好良かったんだけどねぇ」

ケラケラとこちらをせせら笑う彼女に、思わず反発したくなるが、その通りなので何も言わずに笑っておく。

「いやぁ、最初はアンタがこんな、可愛くて幼気な子に手を出したのかと思ったよ」

「そんなに女に飢えちゃいねぇよ」

「どうだか」

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とり天おいしい 城崎 @kaito8

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