第11話 むす……こからの手紙には現実感がなかった
こっちの世界にはないと思うけど、ペンペン草1本生えていない荒野。
踏み固められ小石や砂利も取り除かれ、それ以外の荒野部よりも僅かにへこんでいるので、辛うじてここが道だと判断できる。
旅慣れてない者には識別不可能なその道を、今日も元気な2人に挟まれて歩いている。
今は町を出た初日で、さっき漸く町が見えなくなって2人が警戒態勢を解いたところ。
「ねぇ2人共、迷宮都市クレイモアってどんなところなの?」
「クレイモアは迷宮都市の名の通り、巨大迷宮クレイモアに隣接する形で作られた都市ぴょん」
「建前上は無国籍の連名運営となってますけど、その実上層部は権謀術数に陰謀渦巻く、ドロドロの権力争いによる利権の奪い合いです」
「ええー……そんなとこに行って大丈夫なの?」
「大丈夫ぴょん。いざとなったらウチ等2人で、全世界を敵に回して鏖殺するぴょん」
「いや、流石に無理だと思うよ?」
「いえいえ、それこそ朝飯前ですけど?」
「えっ?」
「えっ?」
「ぴょん?」
「えっと……どうもボク達の中で考え? 認識に齟齬があるみたいなんだけど、2人にはわかる?」
「ミゲルはウチらが弱いって思ってるぴょん。ウチら信じた相手に罠にハメられる前は、神話級探索者だったぴょん」
神話級? 探索者は迷宮……つまりダンジョンを探索する専門の冒険者みたいな感じだよね、多分。
「探索者はなんとなくわかるんだけど、神話級っていうのは?」
「神話に出てくるような高位の名前持ち生物とかモンスターを、10名以下で討伐出来るパーティーに与えられる名誉称号です。もっとも、ダンジョンに出てくるモンスターなんかは、全部ダンジョンが作り出したダミーなんですけどね」
「ウチらは2人でクレイモアの最下層域まで行った、唯一のパーティーぴょん。ウチら3人以外は味方じゃないか敵ってわかってれば、鏖殺するなんてわけないぴょん」
正直、開いた口が塞がらない。
「特に水中の敵が厄介だったぴょん。空はウチが跳べるから落とせるんだけど、水中に逃げられると水を蒸発させるのが手間だったぴょん」
えっ? 跳べる? 蒸発?
「ですねぇ〜。まぁ最後は面倒になったルーナが、水を蹴って敵ごとフィールドを真っ二つにする方法を編み出したので、それ以降は瞬殺するようになりましたけどね〜」
えっと……ボク、もしかしてヒモ?
働くお嫁さん達を家で待つ主夫?
ボクの主夫道はこれからなのかな?
「でもまずは、クレイモアに帰ったらお掃除からですかね〜」
「血の雨を降らすぴょん!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
前略、家族の皆さん、お元気ですか。
どうやらボクは本当に、狼に食べられた子羊だったみたいです。
人は見た目で判断してはならないと、初めて強く実感しました。
ウサぴょんが手を振るだけで、上空を飛翔するワイバーンの群れが全滅していました。
コンコンが可愛くアハッってウインクするだけで、野生のフェンリルが仰向けになって服従の姿勢を見せていました。
2人が何故あんな状態になったのは不思議ですが、極限を超えて耐えたからなのか前より強くなりました〜、今なら星そのものも壊せると思うぴょんとか言われました。
人類の損失になるので2人を助けたのは正解でしたが、この先起こる国家の消失は防げそうにありません。
心身共に最高の2人に不満はありませんが、ボクでは釣り合いが取れてなくて不安になります。
皆さんのますますのご健勝をお祈りさせて頂きますと共にご挨拶とさせて頂きます。
追伸。
今度2人が夫のご両親にご挨拶をと言っておりました。
手土産をドラゴンかエリクサーにしようと相談しておりましたので、村の守護者としてこちらのフェンリルを先に送ります。
雨避けの小屋……大きな一間だけの家を用意すれば、勝手にモンスターを狩って食べるそうです。
人語も解するので、詳しくは本狼と相談してください。
ミゲルより。
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