第9話 美少女の一言で叫ぶのを止めるのは訓練された冒険者だ

『昨夜はお楽しみでしたね!!』


 宿の人と食事中の客に、声を揃えてからかわれた。

 気絶していたから最中一切の記憶がなくて、事後処理にアタフタしただけなんですけどね?


「誰が攻めで誰が受けなのかな」

「腕を絡めている2人が幸せそうだし、真ん中の娘じゃないですかね?」


 2人が攻めで、ボクは男です!!

 受付台に鍵を返すと、さっさと宿を出ていくのだった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 宿を出て冒険者ギルドを探しながら道を歩いていると、左腕のキツネ娘が声をかけてきた。


わたくしアリスと申します、貴方様のお名前を教えてはくださいませんか?」

「ボクはミゲルです。もっと柔らかい言葉遣いで大丈夫ですよ」

「ウチはルーナっていうぴょん、よろしくぴょん」

「あっ、うん、よろしく」


「ミゲル様。私達を買って癒して解放して、そして……初めてを奪って頂き、ありがとうございましたぁ」


 あーうん、途中まではどういたしましてだけどね?

 奪われたのはボクの方だからね?

 恥ずかしくて言えないけどさ……

 語尾にハートマークでもついていそうな甘い声で感謝をするアリス。


「ミゲル君。ウチも一杯、いーっぱい、ありがとうぴょん」


 ネコ獣人のにゃんみたいなものかな?

 こっちはこっで鳴かないウサギを精一杯表現した語尾になっている。


 それにしてもさっきから周囲の視線が痛い。

 左にはレオタード軽戦士みたいなアリス、右にはまんまバニーガールのルーナ。

 これでも商館で貰った、2人の種族の伝統衣装なんですけどね!?

 荷物はボクがダミーの背嚢を背負うだけで、2人は衣装以外は何も所持していない。

 それでも減ったお金を稼ぐためにも、冒険者ギルドに行かなきゃダメなんだよね。

 トホホ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ギルドに入ると窓口では受付がパーティーリーダーに個別仕事を紹介していて、壁側では素材の大まかな値段が書いただけの紙が貼られている。

 冒険者は信用信頼が命の仕事なので、余程のバカか不機嫌でもない限り、ケンカをふっかけたり誰かに絡む事はないらしい。


 オジさんの話しを思い出しながら、登録と書いた板のぶら下がった窓口に進む。

 冒険者ギルドの受付は美人か厳ついオッサンが定番らしいが、ここではイケメンが座って待っていた。


「冒険者ギルドへようこそ、君達可愛いね。今夜さ、僕の部屋にない」


 ドサッ……


 イケメンがナンパしてきたので、アリスとルーナが途轍もない殺意を放ちイケメンを気絶させた。

 無差別に放たずに指向性を持たせていたのにも関わらず、漏れ出した余波でギルドが静まりかえっている。


「顔だけで中身スカスカの男に価値はありません」

「そーだそーだぴょん!」

『ウォーーーーーー!!』


 アリスとルーナのセリフの後に、その場に居た全ての冒険者が声を揃えて歓喜の咆哮をした。


「煩いですよ? ギルドではお静かに」


アリスの一言でピタッと騒ぐのを止める冒険者達。

ちょっと面白い。

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