第6話 人命を救うためにした出費

「こちらが当館自慢のであると同時に、最も扱いの難しい2人でございます」


 オーナーに案内された檻の中には2人の少女が居た。

 2人共、銀のショートカットで肌は白、目の色はそれぞれ違っている。

 1人は尾のない、金目のキツネ獣人。

 もう1人は耳がほぼない赤目のウサギ獣人。

 どちらも、どうやって生きているのかというくらい、ガリガリに痩せ細っている。


 だけど、何よりも目を惹くのは、美しい造形の顔を酷く歪めている、憎悪に満ちた瞳。

 金と鮮血のように美しい色合いながらも、お互い以外に信じられるモノはないとでも言う、世界の全てを拒絶する意思。


「彼女達は14年前、今年で15になりますが、14年前にそれぞれ別の国で生まれました」


 オーナーの説明風モノローグが始まった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 獣人では白はなんてことはない色なのですが、銀色は神聖なものとして扱われます。

 もちろんどんな銀色でもいい訳ではなく、自分達人間の全て、とりわけ認識が共通している獣人の髪色にそれを見出します。


 銀には神と力が宿る。


 彼等の古くからの言い伝えです。

 これが単なる迷信と一言で片付ける事も出来ません。

 世界中の歴史を紐解けば、銀色の獣人が活躍した事実が数多く、と言うほどではありませんが遺されております。


 彼女達は同じ銀色同士で引かれ合ったのか、出会い友人となり追従出来る他者が居ませんでした。

 ですが、悪意ある多数の種族に陥れられ、奴隷として当館へと売られて来ました。


 並々ならぬ精神力で耐えておりますが、いくら銀だとしても、もうずっと何も口にしてないのです。

 このままでは、持ってあと数日でしょう。

 彼女達が生きている間に大金を持って現れる人物は、恐らく貴方様で最後でしょう。

 ですからワタクシは貴方様に、彼女達の全てを託してみたいと思ったのです。


「どうか、彼女達を救ってやってください」

「わかりました」


 涙を流すオーナーに心の打たれて、ボクは金貨6枚で2人を購入した。


「では、彼女達の民族衣装や生活用品等で、即日使いそうな物はサービスさせて頂きます。それで彼女達はどこへ運べばよろしいですかな?」

「あっ」


「では宿の手配と1月分の宿泊費は当館で支払わさせて頂きましょう。彼女達が動けるようになるまで、働く事もマトモに寝る事も難しいでしょうから、所持金が大いに越した事はありませんから」

「はい、ありがとうございます」

「いえいえ、お気になさらないでください」


 その後、もう少しオーナーにサービスされてから、宿に2人を移したと従業員からの連絡があったとかで退席した。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 商館のオーナーに教えられた宿に着くと、商館の従業員が待機していて宿の人に、ボクも込みだと話していた。

 だからなんで、美少女3人だから同室でも問題ないんだよ! ボクは男だってば!!

 宿の人もなんで納得してるのさ、ボクは納得いかないよ!


 1月間借りる部屋に入ると、とても大きなベッドに2人は寝かされていた。

 2人の間に横になると、意識はあったのか2人共逃げようと身じろぎしている。

 だけどそれは、体力も筋力も衰えた2人には重労働だったようで、握ったボクの手を振り払う事すら出来なかった。

 話す事も出来ないほど消耗しているのに、それでも自分の意思を貫く2人に涙が出てくる。


 2人と掌を重ね、科学魔法を使いながら神に祈る。

 回復魔法の効果増加に祈りは不必要だけど、今回は2人の神聖に賭けて祈ってみた。

 それぞれ耳と尾から始まっていて、全身に回っていた細菌感染はキレイに消えている。

 武術の看破、科学魔法の解析、商業の鑑定を使って調べたから間違いない。

 失った部位はそのままだけど、傷口の腐敗も完全に健康に戻り塞がっている。


 次は美味しい流動食を作らないと。

 ボクの介護道はこれからだ!

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